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3 あなたのクラスは階下ですわ

 ダルナイジュ王国の歴史は、全能神イザルナーガがこの地を生み出し、王を指名したことにより始まる。その血族はイザルナーガより魔力を得、以降王を頂点に魔力を持つ王侯貴族がこの国を治めるようになった。王はイザルナーガより権威と権利を与えられた為、国神王と呼ばれ政治と宗教の頂点に立つ。


 と、言うのがこの国の始まり。そしてその国政の練習の場として、国神王はこの学院を作った。歴代の国神王、そして他の王侯貴族たちは当然学院内の生徒会長の座を守ることができるほどの魔力も学力も身につけて入学してくるのだけれど──。



「そこは俺の席だが」

「え……いえ、ここは私の席です」



 昨夜のパーティの後片付けが遅くなり、うっかり登校が遅くなってしまった今朝。

 教室に入ると、殿下が女生徒に何やら文句を言っているではないですか。あの女生徒はラズロ伯爵家の次女クラレスト嬢ね。優しい性格だから強く言えないのだわ。


 するりとクラレスト嬢と殿下の間に体を滑り込ませ、朝の挨拶を口にする。


「おはようございます、グルナジェスト殿下。何故このクラスにいらっしゃるのです?」

「ああ、おはよう」



 素直に挨拶は返してくるのね。



「俺がこのクラスの生徒だからに決まってるだろう」

「いえ、殿下は本来の実力のクラスに異動になりましたわ」

「そんな筈はない! 俺はずっとここで学んでいたんだ」

「ええ。それは私との縁で」

「縁だと?」

「言い方を変えると──そうですわね。恩情、コネクション、(そん)た」

「もういい!」



 あら残念。まだまだご紹介したい言い回しはありましたのに。



「そんなわけで、殿下のクラスは変わったのです。二つ下のクラスに」

「そんなことできるわけがなかろう!」



 この方はなかなかに得難いお馬鹿さんですわね。そろそろご理解いただきたい頃合いですわ。



「できますわよ。私が生徒会長ですもの」

「ふん。所詮は学院の中だけの権力だ。外に出れば俺はこの国の第一王子なのだぞ」

「──仕方がありませんね」

「ほう、やっとわかったか」



 私は指先でくるりと丸を描く。すると、殿下の机の周りに空気の層が出来上がり、まるでバリケードのようなものが築かれる。



「おい! 何をするんだ!」

「国境ですわ」

「は?!」

「あくまでも権力を行使したいとおっしゃるので、殿下の為にこの学院の中で一つ国境を作成いたしましたの。そちらはグルナジェスト国ですわね」

「なんだと」

「ああ、今こちらはサハルアリシャ帝国ですの。私のことは女王とお呼びになって」



 事実、この学院内での生徒会長の呼び名は王、女王とも言われますもの。私はあまり好きな呼ばれ方ではないので、周りは生徒会長と呼びますけど。



「どうなさいます? 私の魔法は殿下では解くことはできませんわ。そちらで一人で過ごしていただいても結構ですけれど、移動もできないし困りますわよねぇ」



 私の言葉に、殿下は悔しそうな顔をしながらこちらを見た。お手付きした女性たちに殿下が飽きた時、彼女たちは同じようなお顔をされていましてよ。

 彼女たちも自業自得とは言え、かわいそうでしたわね。まぁ、そこそこ良いお相手を用意してさしあげたのだから、結果オーライなのかもしれないですけれど。



「もういい。その、新しいクラスに行ってやる」

「おや、行ってやるではなく、行かなくてはならないのですよ」

「お前は」

「いい加減覚えていただけると幸いですが。ではヒント1」

「なんだよヒントって。しかも1かよ」


「殿下、お言葉遣いが酷いですわね。減点1」

「こっちはなんの減点だ」

「私は女王陛下のお側に侍っているものです」

「おい本当に女王って言うのか。だったら俺の事も第一王子殿下と」

「ヒント2」

「聞けよ!」


「割とイケメンと女生徒には大人気」

「自分で言っちゃうのかよお、それ」

「あら、あなたは割とじゃなくて、きちんと美しいお顔をしているわよ」

「恐悦至極に存じます」



 そうだわ、うっかりしていた。



「クラレスト様、どうぞそちらのお席にお座りになって」

「ありがとう存じます」



 やわらかな表情で笑む彼女に、私とリドリナルは同じく笑顔で返す。その間も、殿下がなにやらぎゃんぎゃんと煩い。黙っていてくれないかしら。



「それで? 私のことを思い出しましたか?」

「知るか。なんで俺がお前なんぞを覚えていないといけないんだ」

「まぁ! さすが第一王子殿下であらせられますわ。覚えていらっしゃらないのなら、それでも結構ですけれども」



 くすくすと笑いながら、再び指先をくるりと回す。殿下の周りに作られていた風の壁が、徐々に緩やかになっていった。けれどそれは消えることはなく、殿下の体に近付いていく。やがて空気の層が殿下を取り囲み、彼を宙に浮かせる。



「お、おい。待て」

「リドの手を煩わせる必要もないですわね。私の風たちが、殿下を階下にあるクラスにお連れいたします」



 人差し指を軽く横に動かせば、殿下は宙に浮いたまま教室の扉を駆け抜けるように移動していった。

 小さい頃からきちんと魔法の鍛錬を詰んでいれば、このくらいの風魔法、自分で解除できるでしょうにね。身から出た錆? 自業自得? うーん、そんなようなものかしらね。



「あーあーあああああー」

「まぁ、なんてはしたない叫び声」

「全くです。あれで第一王子というのだから、この国の行く末が心配ですね」

「ふふ。第一王子だからと言って、王太子になれるわけではないでしょう」

「確かにそうですね」



 リドリナルは喉を鳴らして笑う。随分と楽しそうだこと。



「皆さん、お騒がせいたしましたわ。あと少しで朝の授業が始まりますし、どうぞ準備をなさってくださいませ」



 生徒たちは手元にテキストを用意し始める。それを見ながら、私も自分の席へと向かった。

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