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2 あなたの発言に力はありませんわ

「では、この学院の高等科の生徒会長が私であることを、覚えていらっしゃいますか?」

「は?!」



 まあ、やっぱり? やっぱりお忘れになっていました?

 そうでしょうねぇ。



「いや、生徒会室で生徒会長の席に座っていたのは俺だし、俺の指示で生徒会は動いてただろ。おま──サハルアリシャが生徒会長なわけがあるか。第一、この国の第一王子は俺だぞ」



 きちんと、私の指摘を聞き入れて名前で呼んだところは評価点かしら。呼び捨ては気に入らないけれど。でも口にしていることは、概ね間違っているのよね。



「グルナジェスト殿下、この学院で生徒会長になる為の条件をご存じですか?」



 たぶん、ご存知ないでしょうけれど。



「え、王族が自動的になるんじゃないのか?」

「ではその王族が、学院の各科にいないときには?」

「高位の貴族からなっていくんだろ」

「はぁ……」



 思い切り分かりやすく溜め息を吐いて見せれば、殿下が不機嫌な表情を見せる。どうしてこの方は、こうも顔にすべてを出すのでしょう。

 これでは、政なんてできるわけがない。



「生徒会長になるには、王族であろうと高位の貴族であろうとその所属に関係なく、学業と魔力、そしてその扱いが全てその科でトップである必要があります」

「なんだと。だったらもし、王族よりもそれが上の者がいたらどうするんだ」

「当然その方が生徒会長です。ここでは国神王陛下のお力以外、王族としての権威も貴族としての権威も無効ですから」



 そもそも、第一王子である殿下がそれを理解していないことを、ここで皆さんに知られて良いのかしらね。私にはもう他人なので良いのだけれど。



「殿下。そもそもこの国では、国神王陛下を頂点として、魔力の強さが生まれながらに(もたら)されていますわ。それに加えて、魔力の取り扱い方、勉学を幼いころから学び、研鑽します。だからこそ王家や王家に近い貴族は、生徒会長になって当然であり、それを求められているのです」



 けれど、と声を少しだけ落として、私は殿下から目を離す。やや伏し目がちにしながら、言葉を続けた。



「グルナジェスト殿下。ご自身の魔力とその取扱いのお力、そして学業の成績をご理解なさっていますか?」

「──わかっているさ。だがそんなこと、関係ないだろう。俺が第一王子なんだから」

「第一王子という生まれ持ったお立場を維持する為に、それらは関係ございませんでしょうね。けれど、この学院の生徒会長になるには、不十分です」



 今度は私が、ババーンという効果音を必要としてしまう。ああ、やはり楽団にお願いするべきだったわね。すぐ近くで待機しているのだから、BGMくらいは流してもらおうかしら。



「いや、しかし俺が生徒会長を」

「私の婚約者であらせられましたから。一応立てた方が良いかと思いまして、お席の貸し出し、それからまるで自分で思いついたように感じる方法での発令、ついでに成績別のクラス分けで特別に編入などを、私の生徒会長権限に於いて行っていましたの。入学された当初、ご説明申し上げた筈ですが」



 私の意図に気付いてくれたのか、楽団がタイミングよくバイオリンの弾けるような音を挿入してくれた。流石だわ。



「ついでにお伝えしておくと、生徒会の者でない限りたとえ王族と言えど、権利も特権もございませんから、ご承知おきくださいませね。殿下はこの学院では、ただの一生徒でしかありませんわ」

「なっ」

「当然でしょう。いずれの責務も負わないで、なんの権利と特権と申しましょう」



 私たちを囲む生徒たちは、それぞれが頷く。そんなことは、この学院に入る者ならば誰でも知っていること。いえ、少なくとも王侯貴族であれば、知らない者はいない筈。魔法の扱い方と共に、教わることなのだから。



「お話はそれくらいでよろしいでしょうか。では、もうグルナジェスト殿下は私とは一切関わり合いのないお方でございますので、皆さまもそうご承知おきくださいませね」



 ゆっくりと周りの生徒たちを見回して微笑めば、皆優雅に礼を執る。その目線の先にあるのは、殿下ではなく私。

 それを目の当たりにして、殿下は顔色を失わせていた。だから最初に、この場でその話をして良いのか、と確認したのに。



「さぁ、くだらないお話はここまで。お待たせいたしました。長期休暇明けのパーティを再開いたしましょう」

「楽団、音楽を」



 私の言葉を受け、副会長のリドリナルが楽団に声をかける。すると、ゆったりとしたバイオリンの音が流れ始めた。私の好きな、全能神イザルナーガ組曲第三番。全能神イザルナーガ聖典をなぞった曲の構成が美しい。



「さて、サハルアリシャ生徒会長。私と一曲踊っていただけませんか」

「今日のファーストダンスは、副会長と。悪くないわ」



 今までどんな小さなパーティであろうと、婚約者である殿下がその場にいる限り、私は彼と踊るのが当然だった。運動神経だけは良い殿下は、ダンスは上手だったけれど、私にたいして興味がないのもわかっていたし、楽しくはなかったわ。



「さあ」



 優美に差し出された掌に、私の手を重ねる。初めて自由になったような気持ちで踊るこのダンスは、まるで足に羽が生えたように軽やかな気持ち。ダンスってこんなに楽しいのね。


 私たちの踊りだしに合わせて、他の生徒たちも軽やかに踊り始める。そんな明るい輪の端に、殿下とマイヤルド嬢が佇んでいた。

 今日はもうお帰りになれば良いのに。



「あの二人、どうするんですか」

「殿下次第だわ。明日からが楽しみね」



 ふふ、と笑えば「おお怖い」だなんて、やっぱり笑いながら言う。



「今まで、第一王子の婚約者だからと譲ってきたこと全て、自由にさせていただくわ」

「サハルの枷がなくなったことに、全生徒が喜ぶだろうね」

「あら。私を殿下への裏切り行為をした者とおっしゃる方が、でてきたりしないかしら」

「まさか。あのボンク──第一王子の能力を知らない生徒は、少なくとも高等科にはいないでしょう」

「リドにも苦労をかけたわね」



 リドリナルは私の言葉に、赤い瞳を細めて笑う。



「今日のパーティは、サハルが自由になったお祝いになったね」

「これも、全能神イザルナーガの思し召しだわ」



 くすくすと笑いながら、私たちは二曲目のダンスに移っていった。

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