『白』 芥川竜之介 より
三つの宝
(改造文庫) / 芥川竜之介 著 (改造社, 1941)
『白』
【原文】
それも無理はありません。その横町の七八間先には印半纏を着た犬殺しが一人、罠を後に隠したまま、一匹の黒犬を狙っているのです。しかも黒犬は何も知らずに、犬殺しの投げてくれたパンか何かを食べているのです。けれども白が驚いたのはそのせいばかりではありません。見知らぬ犬ならばともかくも、今犬殺しに狙われているのはお隣の飼犬かいいぬの黒なのです。毎朝顔を合せる度にお互いの鼻の匂いを嗅ぎ合う、大の仲よしの黒なのです。
【要素抽出】
共有の時点:現在
共通の対象:犬殺し
複数の登場人物:黒、犬殺し
登場人物ごとの可能世界
犬殺し:犬を殺せる罠を持っている。
黒:パンをくれたのは犬殺しではない。なぜなら罠を持っていない。
(両立不可能:犬殺しであることと、犬殺しではないこと)
【卑近化】
それも無理はありません。その横町の七八間先には印半纏を着た犬殺しが一人、罠を後に隠したまま、一匹の黒犬を狙っているのです。しかも黒犬は何も知らずに、犬殺しの投げてくれたパンか何かを食べているのです。けれども白が驚いたのはそのせいばかりではありません。見知らぬ犬ならばともかくも、今犬殺しに狙われているのはお隣の飼犬かいいぬの黒なのです。毎朝顔を合せる度にお互いの鼻の匂いを嗅ぎ合う、大の仲よしの黒なのです。
「パンをくれるなんていい人だ。それに罠も持っていない。このひとが犬殺しのわけがないな」と黒犬は思いました。
「しめしめ。この黒犬は俺が罠を隠していることに気づいていない。捕まえてやるぞ」と犬殺しは思いました。
【備考】
この情景を見ている白もいる。しかし、この場面テンプレートを作成するにあたっては、白をその場面の人物としてではなく、場面を見ている視点として解釈したほうがすっきりとする。
視点と人物の違いについては、機会があれば論じたい。




