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50.高圧的な謝罪魔

 遅れて取り巻きのような女性が二人と気の弱そうな男性が一人。シルビア様は扇子で口を覆い隠しながら、クアラの頭から足先までじっくりと確認する。

 クアラ曰く、極度の謝罪魔の彼女には前科がある。周りを代表して嫌味でも言いにきたのだろうか。

 私とライドでクアラを守るように前に立つと、彼女はパチンと勢いよく扇子を閉じた。


「体調はもうよろしいのかしら」

 ギロリと睨まれ、思わず怯みそうになる。だがクアラは彼女に怯むことなく、私達の隙間から一歩前に出た。


「はい、お陰様ですっかりと。今まで隠していたことは申し訳なく思っております。騙すような真似をしてしまい」

 頭を下げようとするクアラに、シルビア様はビシッと閉じた扇子を向けた。

「なら、今度こそ私の誘いを受けていただきますからね」

「誘い、ですか? ですが、僕は男で」

「男性でも女性でも関係ないわ。私があなたに謝罪すべき事実に変わりはないのだから」


 受けてくださいますわね? と念を押す。クアラが勢いに押されてコクコクと頷くと、彼女の表情は一気に和らいでいく。あの顔は威嚇ではなく、緊張していただけらしい。


「ついに約束を取り付けましたわ〜」

「良かったですね、シルビア様」

 後ろで控えていた令嬢達と手を取り合って喜ぶ姿は可愛らしいものだった。疑ってしまったことが恥ずかしい。


 ちなみに側で控えていた男性は彼女の婚約者だったらしい。彼女が喜んでいる姿に優しい表情を向けてからこちらに来て頭を下げた。


「婚約者がご迷惑を」

「いえ、こちらもずっと断ってばかりで申し訳ありませんでした」

「彼女もクアラ様のお身体が弱いことは承知していましたから。ご回復おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「これからもシルビアをよろしくお願いします」


 深く頭を下げる男性にクアラが困惑しているうちに、周りの態度も少しずつ変化していく。


「いや、まてよ。男だからと言って穢れているわけではないな」

「男性でも天使は天使よね?」

「思っていた性別と違っても美しさは何も変わらないわ!」

「剣を振れるほど健康になられて……」

「ご立派ですわ」


 この短時間のうちに、徐々にクアラを受け入れる空気が出来上がっていく。まだ一部、受け入れられないとの声もあるが、クアラのことだ。持ち前の品の良さと美しさと人望でどうにかしてしまうのだろう。



 案外、これでもっと本気になる人も増えたりしてーーなんて、私の予想は見事に的中した。



「お茶会の誘いと結婚の申し込みが混ざっちゃってるから分けるの手伝って!」


 雄叫びに包まれた夜会の翌朝には、クアラの元に大量の手紙が舞い込んだのだ。たった一夜で父さんとクアラが頭を抱えるほどの量が来たことだけは予想外だったが。


 お茶会の招待状も混ざっているとはいえ、ほとんどが結婚の申し込みだ。

 なんでも同性結婚制度が可決されたらしく、男でも構わない。むしろ男と分かったからには是非婿に! と男女問わず結婚の申し込みが殺到している。さすがはクアラである。


 ひとまずお茶会の招待状は避けて、結婚の申し込みだけをクアラの横に積んでいく。


「ああもう! これが面倒だからライドと同じ刺繍入れたのに!」

 クアラは頬を膨らましながらも手は止めず、凄まじい早さでお断りの手紙を書いていく。


「これが終わったらお茶会の日程調整と、あと服も決めなきゃ……。絶対今からオーダーしても間に合わないからある程度はドレスで出席してもいいかな」

「いいんじゃない。むしろ喜ばれそう」


 せっせと仕分けをしていると、中に一通だけ宛名の違う手紙を発見した。


「あ、これアイゼン様からだ」

「なんだって?」

 クアラはピタッと手を止め、早く開きなよと急かす。

 クリーム色の封筒を開けば、会えなくて寂しい、夜会に出席できなくて残念だとの言葉が続く。ストレートに書かれた感情に思わず頬が緩んでしまう。だが本題はその先にあった。


「剣術大会の日は陛下の警備につくことが決まったって! アイゼン様、見に来てくれるって!」

「嘘!? 第一騎士団は帰ってくる予定ないって言ってたのに! やったね、姉さん」

「うん!」


 大会までは国内の至る場所を転々とするらしく、手紙の返事は届けられない。

 だが当日になれば成果を見せることができると思うと、ますます大会への思いが強くなる。


「クアラ、これが終わったらさ」

「鍛錬しよう。もっともっと強くならないと!」


 アイゼン様に下手な姿は見せられない。二人で協力して、大量の手紙を倒していく。そして午後には剣を片手に裏庭へと繰り出すのだった。

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