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48.二回目のデビュタント

「いよいよ夜会か。緊張するね」

「そう? 服装が変わっただけで何も変わらないよ」

「クアラは、なんというか新たな信者を生み出しそう」

「信者?」


 クアラの服装はジャケットにパンツスタイルとそれだけ見ればシンプルである。だが瞳と同じ色のシャツは胸元で大きく開いており、足下は私よりも高いヒールを履いている。


 アクセサリーはシルバーリングのみ。

 思ったよりも上手く出来たとはいえ、素人が作ったものだ。王家の夜会に付けていくには……と止めたのだが、クアラは全く譲らなかった。


「まぁこのくらいがちょうどいいんじゃないか?」

「でしょ」


 ライドはいつものジャケットにクアラとお揃いのシャツ。胸元もネクタイもきっちりと締められているが、クアラの襟を飾っている刺繍がライドの袖に刺されている。


 クアラ曰く、これにはしっかりとした意味があるのだとか。

 同じくクアラが考えてくれた私のドレスにはその刺繍はない。完成したシャツを見ながらいいな~と溢したら、アイゼン様と揃えなよと突き放されてしまった。



 今日までにアイゼン様とクアラは三度剣を交えてきたが、勝ち負け引き分けが一回ずつ。決着は未だついていない。

 だがクアラとの会話の端々にはアイゼン様を認めているらしい言葉がある。


 元々認めていたのだろう。ただすぐに渡してしまえばクアラが望む普通のデートをせずに結婚してしまうから戦いを挑んでいるだけで。

 アイゼン様もアイゼン様で、王都に帰ってきたわずかな時間で行われるクアラとの対決を楽しんでいる様子なので、わざわざ何かを言うまでもない。


「馬車の用意が出来ました」

「ありがとう。じゃあお披露目に行こうか」


 クアラとライドに手を差し伸べられ、両方の手をそれぞれに重ねる。

 アイゼン様はいないけれど二人がいるから寂しくはない。



 わずかに残っていた緊張は会場に入ってすぐに吹き飛んだ。


「クアラ様のあの服装は」

「まさかライド殿との結婚を!?」

「キャサリン嬢の服にはないぞ」

「そ、そんな……」

「だけどそこら辺の令嬢に取られるくらいなら……」

「ライド様なら仕方ないですわよね」


 クアラとライドはたった数歩歩いただけで会場の視線をかっさらってしまったのだ。


 いつもならキャサリンに注目が集まるところだが、今の私に注目する人はほとんどいない。二人に挟まれるように歩いているのにほぼ空気である。

 さすがクアラ。にこりと微笑んだだけで、何人かの令嬢がフラッと倒れてしまった。


 顔が似ていても溢れ出すオーラが違うのだろう。ライドはこうなることを予想していたのか、いつも通り平然としている。


 緊張なんてするだけ無駄だった。

 二人に紛れるように会場の隅に到着する。普段飲み物を取りに行くのは私かライドの役目なのだが、今日のライドは動けそうもない。服装は違うが、私が行くべきだろう。


「クアラ、ライド。何飲む?」

「姉さん、何平然と取りに行こうとしてるの」

「だってライドは今、動けないだろうし」

「そのうち運んでくるからそのときでいいだろ」

「でも囲まれたら」

「大丈夫だろ」


 ライドは顎でクイッと回りを指す。

 どういうことかと辺りを軽く見渡せば、誰もがこちらを遠巻きで見ているだけ。近づいてくる様子はまるでない。少し離れた場所に円が出来ているような状態だ。


 だがその円から外れてこちらへずんずんとやってくる人物がいる。人混みの中でもひときわ大きな身体が目立つビルド様と、彼の隣に初めて見る少女が二人。


「ビルド殿、ご無沙汰しております!」

「三人とも元気そうでなによりだ。実は三人に娘達を紹介したくてな、アデル、リラ」

「お初にお目にかかります。アデルと申します」

 幼いながらもキチンと淑女の礼をするアデルに対し、リラと呼ばれた幼い少女は恥ずかしそうにビルド殿のスラックスを掴んでいる。「リラ」と挨拶を急かされるとビクンと身体を大きく揺らした。


「あの、私、お父様から皆様がとてもお強いと聞いて、剣術大会を楽しみにしていて」

「ちゃんと挨拶しなさい」

「申し訳ありません。お父様もお従兄様もいっつもキャサリン様の話ばかりで、やっと私にもチャンスが回ってきたと思うとつい……」

「私達は気にしておりませんわ。ねえ、クアラ、ライド」

 リラ様はまだ幼い。夜会はおろか、お茶会も数回参加した程度だろう。いきなり人の多い場所に連れられて緊張するのも無理はない。


「初めまして、リラ様。僕も大会の参加は初めてなんです。初めての参加同士、頑張りましょう」

 クアラは腰を折って、小さなレディに目線を合わせる。お茶会デビューをした日の自分と重なるところがあるのかもしれない。手を取って、にっこりと笑えば、リラ様の顔はみるみる赤く染まっていった。


「はっ、はいぃぃぃ」

「リラ、ズルい! 私も出る予定ですの。どうか本気で叩き潰してくださいまし」

「マナーがなってなくてすまない。だが二人とも幼少の頃から剣術を叩き込んでいるからな、我が娘ながらかなり強いぞ。そこらへんの男なら紅茶が冷めるのを待つより早く倒してしまう」

「それは大会で当たるのが楽しみです!」


 目を輝かせて戦いを楽しもうとするアデル様と、恥ずかしがり屋のようだがビルド殿が認めるほどの実力を持つリラ様ーーきっと楽しい大会になることだろう。

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