女子個性
私はバス通学だ。
遅い時間だと込むので、とーっても早くに乗って空いている感覚を楽しむのだ。
バスの中にほとんど人はいないし、乗ってくる人もあまりいない。
ここでも一人の女の子が乗ってきただけだ。
しかし、そこでちょっとおかしなことが起きた。
バスの中はがらりとしているのに、その女の子は私の隣に座ってきたのだ。
何事か、と身構えながらその女の子を見ていると、
「あなたって個性ないデスネ!!」
と言われた。
「は?」
反射的に出た言葉だ。
なんで私は見知らぬ人(どう見ても日本人なのになぜか片言で話す)に個性がないなんて言われているのだろう。
誰かわかりやすく教えて。
「あなたは個性なさすぎなのデース!キャラが薄いと気になるあの人の心をゲットできまセーン!」
「気になるあの人て」
「同じクラスのサッカー部で出席番号じゅう――」
「ちょ、待って。そこまででいい」
これ以上的中させられたら怖い。っていうかほぼ確実に特定されてる。
何者?この子。
「というワケで、このバスの中でキュートなキャラクターを身につけマショー!」
「その片言ももしかしてキュートなキャラクターなの?」
「んなわけねえだろこの産む機械」
超問題発言勃発。
「てめーがあまりにも普通すぎるからこっちが合わせておかしなキャラクターやってんのじゃーい!」
「すいません」
なんで怒られてますか自分。
「え、っていうか、私そんな個性ない?」
そんな自覚ないです。
「男から見れば無個性もいいところだねー。休み時間も昼休みもお友達とくっちゃべりながらお菓子食って、ファッション雑誌に夢中になって夜はドラマを見る女子なんてどこにでもいますよ」
私の生きがい全否定の瞬間だった。
これはあれなのか、私に禁欲生活を強いているのだろうか。
「おまけに発想も普通だし」
「常識的なだけでしょ。何が悪いか」
「もっと電波をゆんゆん発信しなきゃだめなんですよ」
えー。
「っていうか、人を勝手に無個性だと決めつけるのはどうなの」
「じゃあ、自分の個性を挙げてみてください」
「えーっと」
考える。
みんなに合わせて生活してるし、個性って言われると少し困る。
みんなに合わせているわけでもないところ。
うーん。
「朝シャンするとか?」
「個性じゃないし仮にそうだとしてその個性にどこの男子が気付くのだ」
あれ。
もしかして私、本当に無個性?
少し不安になる。
「まあ、そういうわけで気になるあの人の心を掴むキャラクター講座をします」
なんかいきなり雰囲気が真面目になった。
まあいいや、聞いて損はないだろう。
本当に掴めたらラッキーだし。
そういうわけで初対面のこの女の子の講座とやらを聞くことになったのだ。
こほん、と一度咳払いをした。
「まず胸を大きくしなさい」
「無理言うな」
「外見、これ、大事」
「変えようもない部分を変えろと言うなこの馬鹿ー!」
結局あれか。
女はルックスなのか。
男の子の中で私はルック数たったの5か、ゴミめ。とか言われているのか、そうか。
男なんてそんなもんだよこんちきしょう。
そんな結論が頭の中で出たところでこの講義を受けた価値は十分にあったのだろう。
学校に着くまで泣き寝入りしよう。
「終わってないから。勝手に寝ないで」
「どうせ私は貧乳だよちくせう」
「今のはちょっとしたジョークだから」
仕方ないので再び聞くことにする。
涙をぬぐう。本当にちょっと出ててびびる。
「でも胸の大きさって男からしたら結構重要なんですよ」
「もういい寝る」
「ジョーク!ジョーク!真理だけどちょっとしたいたずら心だから許して!」
やっぱ胸の大きさなのかー、ちくしょう。
確かに男ってちょっと胸の大きい子相手だと目線がやけに下だよな。
「真面目にアドバイスするとだ、ちみの生活には無駄が多いのですよなのだ!」
「どういう意味、それ」
「コンビニ行って新作のお菓子を買って、それ食べる時間があるんなら男の子を観察したり実際に会話して男心について学べってことじゃー!」
「えー」
反射的に嫌がってしまった。
お菓子って重要じゃん。おいしいし。
それを禁止とか何こいつ。同性とは思えん。
「男心を理解することにより、男の心に潤いを与える女になればモテモテなのですよ」
「いや、だからってお菓子禁止することないじゃん」
「ぶっちゃけ男はお菓子がどうとか気にしてません」
「そっすか」
なんか会話にすれ違い感があって非常にストレスが溜まる。
今すぐにでも!蹴りたい!こいつを!
「っていうかそんなこと言うなら、あんたが男心について教えてくれればいいじゃん」
「おお、そうでござるな」
キャラころころ変わるなこいつ。
なんとなく腹が立つ。
「適当にすごいねー、とかかっこいー、とか言ってあたかもあんた優れておりますわよって思わせておけば、こいついいやつって勝手に思ってくれるよ。つまり、あれだ、自分より劣等種な女性の方が都合がいいわけです。自分を頼ってくれると嬉しかったりしちゃったりね」
「うわあ」
しょうもない生物だな、男って。
「あと、あれだよ。胸が大きいといいよ」
「ちょっとあんた殺してもいいかな」
「すいません男が自慢してきたら素直にすごいって同調してあげるといいと思います」
今すぐにでも!蹴りたい!こいつを!(二度目)
「そして、そんな男の欲求をお手軽に満たせるキャラクターがこれです」
と、小型のホワイトボードを取り出した。
何か書かれている。
三文字カタカナ。
メ・イ・ド。
メイド。
「……」
「女性がメイドであるということは男性は自然にご主人さまになります。つまり女性よりも偉い!これ高ポイント。しかもメイドだから自分に従ったりしてくれる!これ超高ポイント。おまけに従者だから自慢話を受け止めてくれる!超絶高ポイント!」
高らかに叫ぶ。
そしてさらに何かを取り出した。
メイド服だ。
「というわけでこれを着て気になるあの人にアタック!」
「死ね」
「そんな!メイドになることで不足している個性を補えるという素晴らしい企画なのに!」
「もはやてめえの趣味にしか思えない」
「それもあります」
今すぐにでも!蹴りたい!こいつを!(三度目)
そんなことをやっているうちに学校が近付いてきた。
「ありゃりゃ、残念、何の進歩もない」
「メイド服着なきゃいけない恋なら、いらないかなって私思う」
「去り際にかっこよさげなこと言ったって私の心は満たされない!あと男性の心も!」
「知らない」
私は颯爽とバスから降りた。
今日の騒動でわかったことと言えば。
男ってめんどくさいな、ってことだろう。
と、いうより。
そもそもあの女は一体何者だったんだろう。
序盤の部分を思い付いて書きました。
そしたら、見事に「やまなし、いみなし、おちなし」になりました。うわーん。
結局僕は何がしたかったのでしょう。誰か教えてください。