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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第1章 腐敗した世界の魔女狩りは
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【8】道筋の中で

ここイグル国の隣にガレッダ国、ジオグラウドには協会の本部は位置しているらしい。魔女狩りを取り仕切る本拠地はどうやら、青軍と近くに置かれ2つの組織は表裏で細々くとも繋がっているという。


「だが、青軍のやることも理解できないな。どちらとも繋がるその意味って……」


ライトが発する手前、シルヴィアは自分の憶測をそのまま口にした。


「青軍は、ここら全土を支配するため情報も戦力も充分なものを要している。だから、繋がりを広げることでそれを確立しているのよ。結局は、頭を回して手を組んで。繋がり、裏切り、そうして成り立っているわけなんでしょ」


正面にシルヴィア、隣にエイジ。そして斜め前にトオリを置き、現在蒸気機関で移動中の4人。窓外を眺めながらシルヴィアがフンと鼻を鳴らして答えるとそこに賛同するかのようにトオリが話に加わった。


「そうですね。協会の方にもそういうことが隠しきれているわけではないのですが、皆目を伏せているようで。それもこれも現状維持が最善のためでしょうが」


やれやれと言いながら補足を加えるトオリの敵意は和らいだだけであって変わらず、ビシビシと突き刺さってくるのは既に当たり前のものとして。そんな状況にため息を吐きたくなるライトは必死にそれを止めるため、少しだけ目を逸らした。


「で、俺たちは本部に戻っているわけだろ?俺、あそこの幹部の人達嫌いだから出来れば逢いたくないんだけど。やっぱ無理なんだろうなぁ」


振り回されてここに落ち着くエイジもエイジなのだが。少し表情を暗くして落ちるエイジをトオリが蹴り飛ばした。


「あら足が勝手に。面倒くさい話してると怒るわよ?ヴィアの助けをするのが私の使命であり、エイジは私の補助をする係なのよ。私に負けた弱さを恨むのね」


ギクリと表情が硬くしたエイジにライトは、ははぁんと納得の笑みを浮かべた。どうやら彼は弱みを握られているらしいと。


「エイジ、お前。トオリに負けたのか」


ニヤニヤして聞いた問に対しての答えが帰ってきたのはトオリから。今度は彼女が、得意げに自分の勝ち話を堂々と話し始めた。


「協会に入るのは楽なこと。だけど、魔女狩りになるにはそれなりの力と資格が必要で。私たちは、そのために試験を受けて1人前になった。まぁそんなことはどうでもいいとして、その試験で私たちは対決し、負けたエイジは私の下っ端というわけですよ」


話が進むにつれて青くなるエイジにライトは、励ましの意も込めてぽんと肩を叩いた。


「エイジ、お前は頭脳派とかなんじゃないか?」

「やめて。そのフォロー、虚しくなるだけだから」


ギャグのような漫才を目の前で演じられ、無になっていたシルヴィアが忘れていたとでも言うように唐突に音を発した。そして、窓枠に肘を着いたまま思い出した内容を口に出した。


「そういえば、トオリが言っていた対決。君ら2人もやっていたと思うのだけどその勝敗はライトに渡った。トオリが言うに、初めのところで願いを叶えるとかどうのこうのとか言っていたと思うのだけど?」


シルヴィアは、たまたまのように見せかけているようだがその悪戯心の小悪魔的表情は彼女を知っている者なら誰でも見抜ける。そして、それに乗っかるのは勿論ライトだ。


「そういえば、オレ意味の無い戦いしたわけじゃなかったんだっけ。トオリに何を頼もうかなぁ」


悩みながら、彼女の顔を見るとプルプルと震えて頬を赤らめる彼女がいた。今度は、青ざめるのはトオリの方だ。エイジも胸を撫で下ろしたかのように椅子に座り直して姿勢を緩めた。


「あ、あれは!まだでしたよ、まだ!途中でヴィアが入ってきたからであって勝敗はついていません!」


それでも、追い打ちをかけるのがシルヴィアだ。面白いことには自ら顔を突っ込んで荒らしまくって抜けていく。普段とは異なる少々の悪戯心なのだろう。


「そんなことないんじゃないかしら?トオリ、認めなさいよ。そうしなきゃ何も始まらないじゃない?」


何が始まるんだよというツッコミはさておき。エイジもこれを機に畳み掛けるのはさっきのことについて思うところがあったのだろう。


「そうだぞ。お前、俺も見てたからな。ガッツリ、ライトの優しさに助けてもらってたようなもんだったっつうの」


ニヤニヤしながら責め立てる青年と、尊敬する彼女からの一言。トオリは拳を握りしめ強く声を張り上げた。


「そんなことないわよ!!!」

「お客様、ご迷惑です」


声と同時にかけられた一言。列車の中の乗組員の崩れることのない営業スマイルに赤面したトオリは、ドスンと勢いよく自席に着いた。周囲からも迷惑そうに見られる視線にトオリは、赤く顔を染めるのだった。



◇◇◇



降りて、この地はバーミンガム。並ぶ建物に目を凝らしながら先を進む4人の青年少女。目立つ、と言えば嘘ではない。黒髪2人と茶髪2人の4人組など周りの彼らからすれば異国のような人間に思われても無理のないものなのだから。


「私たちも、協会に潜入するには魔女狩りになるのが手っ取り早いのかしら」


首を傾げて唸るシルヴィアの腕をとり、くっついて歩くのはトオリ。彼女からの問いかけに真っ先に答える2人を前にし、青年たちは距離をとって歩くのだった。


「はい。多分、協会内を自由に回るには1番それが手っ取り早いでしょう。でもヴィアのことならば簡単なことに過ぎませんよ?どっかの誰かさんとは違って」


後方の青年たちがそれを聞いてげんなりするのは無理なもない。そこで、新たに願いを込めた意見をトオリに投げつけてみる。


「じゃあさ、お前がオレらの裏口入学を認めてくれるのはどうなんだ?」


我ながらいい案だと自分で自分に頷くライトは、シルヴィアに目配せしフッと笑った。だが、それを笑ったのは彼だけではなく少女もまたバカにしたようにケッと笑い飛ばすのだった。


「さすがの私にもそれは聞き入れることが出来ない願いだ。私にそこまでの力はない。それを決めるのは上の幹部たちだから」


そこまで説明したトオリが案内したのは豪邸のような広場を有した塔のような屋敷だった。ここまで来るのに裏道やら路地道やらを通ってきたのもこれを隠すのには無理のないことか。


「あの、行く前に私。少し準備しないとこれではヒヤヒヤものでしかならないわ。一応は魔女と人間は区別でき、それもプロなら尚更バレるから」


そう言い残した彼女が、店に入っていくのを送り思ったことを口にしたライト。頭を捻って考えると隣に立っていたエイジが頭に手を当てながら、教えてくれた。


「魔女狩りは、魔女を敵対視しているものがほとんどだ。それは、見つかれば無事じゃすまねぇことを意味している。皆、弱くないからな。だから、シルヴィアはバレないように少しだけ様相を変えに行ったんだろ?」


エイジは、そこでふとライトの顔をマジマジと眺め始めた。そして数秒見た後腕を掴んで引っ張り始めた。


「ライトも少しだけ、身バレ防止のために何がした方がいいと思うから。俺が手伝ってやるよ」


シルヴィアの後に続いたのはトオリで。現状、男子組もまた変装を考えていたところだった。


「面白いことを次から次へと」


呆れ笑いを浮かべながらライトがそれに反応するとエイジも自信ありげに近くの店に引き連れていった。


「大丈夫か?」

「お前は、大船に乗ったつもりでいろよ?」



◇◇◇



黒髪、黒眼になったシルヴィアは既に深紅の瞳を有していなかった。そして、長い髪もひとつに上で結び服装も現代の様相に近いものへと変化している。灰色のノースリーブシャツに赤いプリーツスカートを履いてまさに現代人だ。


「ええと、可愛いですね?」


少し棒読みになって頭をかいたライトにシルヴィアは笑って青年の頭を叩いた。彼女が目を閉じて笑うのは興味深いことに踏み込む時と怒りの時にほかならない。


「もう少し言うことの一つや二つあるでしょう?そういう風に育ったのは私のせいなのかしら?」

「男子組は、ヴィアのよさを分からないなんてクソですね。このなまめかしい美しい肌もヴィアにしか備わってないのですよ?」


気持ち悪い変な方向に傾いた熱情的な感想にシルヴィアは顔を引き攣らせてトオリをどかした。対するライトは、そこまで大きく変わった点はなかった。強いて言うのなら、服が以前よりも少し明るくカジュアルになった程度か。


「君は……そこまで変わらないようね」

「そうですねぇ。どうしたってヴィアに適うはずありませんからねぇ」


女子は集まると怖いということに比較的若い時期に知った2人は「お前らだって幼稚な感想でしかねぇじゃねぇか」という言葉を呑み込んではぁと相槌をうった。


「まぁ、こんなところだけれど。トオリ、本部はどこかしら?」


広ければ広いほど、それは分かりやすくそこにあるはずだ。だが今までそんな大きな豪邸のような建物は目にしていない。するとトオリが前に、その後ろに気ダルげそうにエイジが歩いていくので後を追った。街角を曲がり、路地を通って1本抜ける。グルグルと回って進んでいるのかわからなくなってきた頃、4人の目の前に建物は現れる。


「どうぞ、ヴィア。そして、ライト。ここが魔女狩り協会の本部です。そして魔女を敵対するプロの暗殺者たちの住まう本部へ」


3人の前にトントンと軽いステップを踏んで、躍り出たトオリが一礼して紹介する組織の建物。不思議な威圧感に包まれたそこに、シルヴィアにとっての敵は数え切れないほど存在するだろう。だが、それでもライトもシルヴィアもその足を踏みとどめることはしなかった。

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