【7】繋がりの意味
エイジは、多分。良い奴だと思われた。強いし仲間思いだと何かを感知した。だがライトには仲間を作ることに対して抵抗しか感じなかった。
「俺もいろいろ話したいことがあって」
気さくに話すエイジにライトは、ん?と音で反応して応える。
「じゃあ、まず。お前は、どうして魔女と一緒にいるんだ?」
興味本意で聞かれたその一言は、ライトにとっては重い過去の箱を開けるひとつの引き金となるのだった。「言いたくない。でもそれ自体はオレが決めたことだから、苦でもないしそこをどけと言われても退けない。その理由を言うのには、オレにとっての大切なものを打ち明けるのと同等の価値のものだから」
ライトは、そう答えてエイジを見る。エイジはわざとらしく口角を下げてふざけたのち、自分の話をし始めた。
「俺は彼女が言った通りの魔女狩りだ。だから、彼女を狩るために存在しその意味を確立している。言わばお前らの敵であり倒すべき相手だ」
そこに挑戦的な笑みを浮かべながら、テーブルを挟んでエイジはライトに近づいた。
「どう思う?俺は敵だ?アイツを殺そうとしている。それでも、お前は俺とこうやって仲良くしましょーってできるか?俺はライトと正直仲良くしたいけどな」
問に問を重ねて、エイジがライトの顎にそっと手を当てるのでライトはそれを振り払った。
「オレにそちらの趣味はない。それと、最初からその気があるのなら敵意を感じるものだ。だが、それがないんだよお前にもアイツにも。だから、別に構わないんだよ」
ライトがエイジの顔を真っ直ぐ見るのでエイジはお手上げ状態に手を上げて自席にもう一度腰を落とした。今度は、少し姿勢を崩したように笑いながら友好的に好意を向けるのだ。
「俺が思っていた以上に、お前面白いわ。詮索はもうやめるし、最初から俺たちがお前らに危害を加えるつもりはさらさらない。それよりも、俺は同期のトオリに振り回されて来た被害者という立場の方が合っているかな?」
テーブルに肘付き飄々と述べるエイジに対して、ライトも表情を緩めるのだった。警戒の念をとき普通の会話としてそれを愉しむ。
「そんで、トオリはあの女の力になりたいんだとうるさくてな。俺は、別に。興味本位で頂上的な現象を引き起こす妖術とかいう力に惹かれて組織に入ったから魔女狩りにそこまでの重きを置いていないわけでして。結局、ここまで来たわけです」
説明を終えたエイジは、横を通ったウェイトレスに2つ紅茶を頼んでもう一度向き直った。
「ありがとな」
「何が?」
「紅茶」
充実した有意義な会話の時間に飲み物は付き物だとライト自身も感じていた。どうでもいいその時間でもお茶をするだけで心を落ち着かせることにも繋がる。すると、エイジは驚いたように声を上げて笑った。
「そんなんで、お礼されたの初めて。お前やっぱ面白すぎでしょ。真面目、とはまたちょっと違うような……」
「笑いすぎだ。オレは至って平常で、何がそんなにおかしいんだよ?」
笑うエイジを咎めるライトも知らず知らずに表情は和らぐ。笑いを抑えたエイジは、顔を引き締めもう一度言い放った。
「改めまして、俺はエイジ・グラディエル・ロイダー。歳は16。黒十字殺しの魔女狩り協会、第23期生。出身地はハリス国シュブライト。イグル国の隣の隣の国だな。趣味は、人間観察。よろしく」
自己紹介的なものをされて、差し出された手をライトは素直に受け取った。馴れ合うつもりはなくとも、差し出された手を躊躇う理由もない。
「ライト。歳は15。いろいろあって、今はシルヴィアと旅をしている。ヨーロッパを周っていて青軍事隊大機関からの依頼解決を目途に行動している、と言ったところか。思っていたよりも紹介の事項がなくて困ったんだが」
お互いに苦笑する彼らの前にコーヒーが置かれ、年頃なりの穏やかな会話に変化するのも時間は必要なかった。
◇◇◇
「でさ、トオリは俺に対していつも荒々しい態度でよォ!?あの女に対しての話し方と全然違くて、正直言って俺の扱い雑すぎ!もう少し女子らしくしてほしいもんだよなぁ」
エイジの意見もライトにとって分からなくとなかった。シルヴィアは、いつも自分に物事を申して知らぬ間にその姿を消す。そうして、自分がその与えられた仕事を終えた頃に再登場し満足そうに生活を送っているのだ。少しぐらいの休憩と彼女の仕事量の増加を求めてもいい頃ではないかと思ってしまう。
「エイジ、お前の言葉を止めなきゃえけないのは分かっている。でも、オレも気持ちはどうやら同じだ。大量な不満が至る所から出てくるのもまた事実だ」
苦笑いにコーヒーを1口ふくんだ後ライトはエイジに顔を向けた。だが、その表情は一瞬にして凍りついたのだった。無理もない。そこに会った顔ぶれは想像できるだろう。
「もう、アイツと行動するのも上からの命令だから仕方ないからって捉えてたけど。逃げて捕まえられなきゃ大丈夫なんじゃないかと思えてきたわ。アイツ、馬鹿だし簡単に騙せそうだな」
傍ら、相棒相手に呑気に不満をぶつけていくエイジ。一生懸命にその悪さを伝えてくる様子をライトは、無表情で見つめるしかなかった。
「そ、そうだよなぁ……」
だたんだんと小さくなる声に対し、エイジの声はヒートアップする。そしてあちらの堪忍袋の緒もどうやらプツリと切れる寸前だ。
「ねぇ、誰が馬鹿だって?アンタ、私のことそういう風に思ってたんだぁ。へぇー……そっか、そっかぁ」
さすがに後ろから声をかけられて初めて気づいただろう彼は、どうやら振り向く勇気も湧かないらしい。単調に、そして変わらぬ声色にエイジは縮こまりながらも身構えた。
「私にもちゃんと聞こえていたわよ?私への不満があるんですってね。何かしら?」
笑うシルヴィアは、尚更怖い。もう少し女子トークでもしてればよいものを、何故か彼女らはこちらに移動してきた。こんなんだから、女子の怖さも知るのだろうか。
「「アンタら、不満があるのなら堂々と私の目の前で言って欲しいものよ!そしたら、正論ぶっ返してやるから」」
口調が変わる2人に固まる男子組もまた勝てない事を悟ったのだろう。
◇◇◇
「あのですね、結局は私がヴィアの手助けをしたいがためにこういう結果になっていますのでそこの所は予めに話しておきます」
最初に口を開いたのはトオリだった。こってりと絞られた2人に彼女らの言葉に反論する意思も既には見当たらなくなっていた。
「ライト、今回の依頼知っているでしょう?」
確認の意を込められて問われた質問にライトは止まることなくスラスラと答えを返した。
「魔女狩りの真実について。魔女狩り協会本部内での異端人のあぶり出しと抹殺。本部潜入後に調査、だっけか」
そこまで言い切ったライトが気づいたことを確認しシルヴィアは、そのまま話を進めた。男子組がしていたくだらない話とはまた異なる今後の行動についてのものだ。
「実は、トオリに頼んでそこに入れてもらうことにした。裏口潜入なんて身バレ間違いなしのリスク大だから、そちらよりも有利な点が多い協力を得て向かうの。どうかしら?」
繋がった因果関係に新たな道を辿る方法が提示されたことと同様だ。結局は、簡単に山を登る方法にほかならないそれ。依頼遵守の2人からするとどれだけ面倒にならずにリスクを減らして、クリアするかが重要なのだ。トオリに目を向けるとフンとそっぽを向かれた。だが、それでもこちらをちらちらと見ている限りではそれは明らかな嘘でもないようだ。
「了解した。ちなみにエイジは?」
第三者であるもう1人の青年を映すと苦笑いしながらも頷く彼の姿があった。
「じゃあ4人で今回は行きましょうか」
シルヴィアの一声に3人は頷き個々それぞれの想いを秘めて頷いた。そうして、新たな仲間(?)を加えて、2人は依頼解決に出向くのだった。






