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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第1章 腐敗した世界の魔女狩りは
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【6】和解(?)と依頼

彼女の眼光がより鋭く、より強く跳ね上がる。


「アナタ、調子に乗らないでくれますか?」


彼女の声色は低く、そして重くなった。突如として現れた魔法陣。書かれる文字に見覚えはあるのに、白い光を纏うそれは自分たちと対になるものを連想させた。


「お前……?」


何かしらの気配を感じたライトは、剣を抑えてもう一度後方に転回して距離をとった。しかしトオリの暴走はそんなところで終わらない。そう、横槍がなければ。


「トオリさん?アナタこそ、自分の仕事を履き違えてるのでは?ずっと見ていましたが……そうですね。その態度などを見るにアナタは魔女狩り失格ですよ」


今まで口を閉じていた白服が急に割って入ってこちらにがんを飛ばしてくる。彼らにもプライドというものがあるし、目の前にいる魔女を放るという選択はありえないのだ。


「……何、言ってんすか?」


トオリは仲間であるはずの白服たちに殺意の込めた視線を向けた。彼らが後込むことなど知ったことではない。


「邪魔しないで貰えます?」


口元に微々たる笑みを浮かべて、トオリは小首を傾げて見せた。白服たちが言葉を失う様子を見ているとそれは少し気の毒にも思えてくる。だが、ライトはそれを眺めて興味深そうに観察していた。


「邪魔してると捉えられてしまうのはこちらとしては不愉快です。私たちは規定違反を問いただしているだけなんですよ?もう一度宣告します。トオリさん、アナタのその行動は魔女狩りとして失格です。告発しますよ?」


すると、トオリの敵意は白服へと移行した。視線が彼らに向かうと同時に表情はひきつりを見せる。白服たちも強気になっているのだろう。ただの1人の少女にほかならないのだから。


「やれるものならやってみれば?」


だが、彼女は見かけには寄らない。身軽な身体はそのまま彼らに突っ込んでいく。抜刀の勢いよりも先に入る剣筋はそのまま全身で彼らを斬って倒していくのだった。


「トオリは皆からルール破りの姫と呼ばれてるからなぁ……だが、それでも彼女に及ぶ力を持つものがいないのも事実だし、それを強く咎められないのも上層部という訳だ。いわゆる、特別待遇ってやつかな?」


青年がシルヴィア、ライトに話しかけたのをトオリがじろりと睨んでくる。何かを想うようにその悪面は無言で語りかけていた。


「まぁ、いいです」


ふぅと息を吐き出して平静を取り戻したトオリはライトにもう一度顔を向けた。既に白服たちは下で彼女の短剣で一瞬にして伸びている。チリを払うかの動作であり、それに何かが起こるわけでもない。


「バトルが中断してしまいすみませんでした。私からふっかけたものなのに。しかし、勝負はまだついていませんからね?」


トオリが未だに短剣を握る手を強めるにライトはこちらに戦う意思がないことを示す。


「終わりだ。戦おうと思う意思が消えた」


それに呆然と間抜け面を残したあと、トオリは頬を染めてまくし立てる。


「負けてませんよ、私!?勝負、ついていないじゃないですか!?」


彼女が地団駄を踏みそうな勢いで睨んでくるのでライトは困り果て無表情を返した。シルヴィアの方に尊敬の意を込めた目線を送って一呼吸置いたトオリは改めて構え直す。


「いえ、もう一度お願いします」


しかしそこに止めが入るのは必然的だ。だが、その言葉を告げたのはライトではない。


「トオリ、さすがにやりすぎよ。だって君は……いやその前に、君たちは彼らが言うような本物の魔女狩りじゃない?」


言葉に込められた意味にトオリは停止し、ライトは唖然とそれを聴き込んだ。


「でもッ!?」

「君は魔女狩りになって天使と契約した。だから君は自分のことを普通とは異なると表現した。私の解釈、間違いではないと思うのだけど。だからもう勝負は終了したし、アナタの立ち位置的にも少々問題が発生するのでは?」


服を指さし、問題のひとつを述べたシルヴィアは自分を狩る者とする相手をたじろぐこともなく直視する。


「分かっていたんですね、ヴィア」


クルクルクルと短剣を回して腰周りの鞘に収めた彼女はシルヴィアによろよろと近寄り目の前で静止する。そして勢いに任せてやや前のめり状態で話すのだった。


「アナタの隣に立てる力が欲しかったから」


泣きそうに縋るトオリにシルヴィアは顔を引き攣らせ肩を掴んで彼女を引き剥がす。しかし、と引っかかりを感じたシルヴィアは表情を暗くして視線をさ迷わせた。


「場所を移しましょうか」


結界が剥がれ、結果的に街中の人々の注目を集めてしまう形となった4人はそそくさと場所を移動するのだった。



◇◇◇



「さて、何が何だか説明をよろしく頼みたいところなのだけどまず」


そこまで言って止めたシルヴィアは知らない顔に目を向ける。座るクリームに近い茶髪青眼の青年をじろりと見て、不信感を表に浮かべるのだ。カフェで話をするために腰を下ろしたシルヴィアは単刀直入に疑問を口にした。すると、青年は堂々とした態度で彼女に視線を返す。


「君は一体誰なのかしら?」

「ああ、俺はエイジ。トオリと魔女狩りの同期でシルヴィアという魔女の討伐を課せられた人間」


シルヴィアが少し硬直するのを感じたライトは、気づかれない程度に視線を向けてふるふると首を横に振り不安を和らげる。


「……わかったけど。それでも君ら私を殺しに来てないじゃない?」


その言葉にエイジは表情を崩すことなく予め決まっていたような答えを口にする。


「それは、トオリから聞くべきッスねぇー。それより君と少し俺は話したいんだけど!」


急に手を取られて少しの驚きを感じたライトは、立て続けに会話を続けられ困惑してしまう。それを読んだのかエイジは手をパッと離して自分は悪では無いということを強調しているようだった。


「いや、驚いただけで別にそこまでは……」

「違う違う。ただ俺も初対面なのに推しが強かったかなぁとか思ってな?」


席を替えようと、手で示したエイジに対して頷きシルヴィアに目配せをする。彼女に配慮し、了承を得たところでライトはエイジと共に席を立った。


「じゃあ、お前らで1回ゆっくりと話せよな?」


エイジがトオリに声をかけぽんと肩を叩きその場を去る。


「さて。話を進めたいのだけど。トオリ、大丈夫かしら?」


シルヴィアは、トオリのブスリとした顔を宥めるように優しく声をかけたつもりだった。だが、帰ってきたのは照れ隠しの発言だった。


「ヴィア。私、アナタのこと好きですけど魔女狩りになったのはアナタの隣に立つための手段です。だからその……」


何故か、涙目になりながら問いかけてくる彼女に対して頭を撫でて機嫌をとった。どうしてか、彼女といるとシルヴィアは姉となった気分にさせられる。


「はぁ、わかったけど。そんなことを私は、して欲しくなかった。君には苦しみとはかけ離れた普通の生活を送って欲しかったから。でもまぁ、そこに踏み入れてしまったのなら仕方ないのか」

「私はあの時、ヴィアに助けられて心機一転をなしたのですよ。だからその幻滅しないでください!私は、ヴィアに憧れたのですから」


精一杯の言葉に対して、シルヴィアは優しく顔を緩めた。トオリは5年前に出会った少女だ。貧民街の調査に出ていた当時、彼女が餓死寸前の所を助けたという過去を持つ。だが、そんな少しのところでここまでの憧れを持たれたことに関してシルヴィアは正直なところ違和感しかなかった。ため息をついて1度落ち着くためにコーヒーを口に含んだシルヴィアはもう一度トオリに再度説明を求めた。


「それで……君は私を殺そうとしてここに来たらしいけれど本当はなんでここに来たの?目的を明確に、そして簡単にお願いするわ」


すると、トオリは髪をくるくると自身の手に巻き付けてソワソワし始める。


「えぇと。告白みたいな感じになってしまうのですが、説明するとそれは簡単ではないもので。ですがその責務を課せられていたのも事実で私たちはアナタを追っていました。しかし、私自身ももう一度ヴィアに逢いたくてそれは真実ですよ!」


照れたり、真剣だったり百面相のようにコロコロと変わるその表情にシルヴィアが苦悩を強いられるのは誰も知らない。


彼女の性格がシルヴィアには正直分からなかった。認識がある彼女でも知っているのは5年前のもの。それも魔女狩りの制服を着ている彼女は紛れもなくそこに従順であることを強制される。言わば、組織の足となるものなのだ。だからその話に少しの不足を感じるのだった。


「あの、ですね!私たちにできることがあったら何か言ってくださいね。私、ヴィアの味方ですからね。絶対」


だがその言葉に、不信感を抱けるほどシルヴィアは疑い深くはいけなかった。それには、笑顔で返す他何もなかった。


「わかった」


そこでシルヴィアが考えた素振りを見せたあとじゃあ、と続けると、トオリは頷いてシルヴィアに目をギラギラと光らせた。


「私たち、魔女狩り協会の本部に潜入したいのだけどそれの協力をしてくれないかしら?君にはとても難しいことかもしれないけれどどうしてもやりたいことがあるの。だから、無理難題を承知して私たちをあそこに入れて欲しいのよ」


少し決まりの悪そうに頬を掻きながらシルヴィアはちらりとトオリを見る。だが、彼女は強く頷いてシルヴィアの手を離さなかった。


「勿論です、ヴィア。パートナーはあの男にやるとしても、私はアナタの手助けができる人間ななりたいですから!」


強く、ブンブンと振られた手にシルヴィアは苦笑いした。彼女のいつもの様子が少し壊れかけているのはさておき。そうして、シルヴィアは依頼解決への第1歩を踏み出すのだった。

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