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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第2章 終焉の再来
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【18】この街はおかしい

「誰が殺されたか。そして、どういう状況だったかだけでも教えてくれ。思い出したくもないだろうが、それでもそれが必要なんだ」


肌に伝わる物理的気温が下がった訳ではなく、単に冷たい空気が流れただけ。しかし、ライトは正解を見つけるためには彼の情報が必要だと認識していた。そこに躊躇いはない。


「アンナ、フルス、ノトの3人だ。23人のうちの3人。俺らはただ普通に朝を迎えていつも通りに生活していた。だけどそれではダメだったんだ。普通の生活というのがどれほど、大切なのかを忘れてはいけないってこと。つまり単純な生活に狂気は隠れている。訪問してきたんだ、真正面から。最初に彼女らの相手をしたその3人がそのまま切り捨てられて地面に伏した」


「……」


何も返してやれなかった。そこにオレという存在はいなかったのだし、辛かったななどという同情を入れられてトキアという青年の心情を一緒に背負ってやれる訳ではない。だからライトにとっては、黙りの選択しか出来なかった。


「そう、か……相変わらずなのね」


しかし、シルヴィアは違った。第三者からの目。本当の赤の他人だからこそ、その達観した見方が出来た。


「私が以前、君たちと出会った時。彼女を追ってここまで来ていた。以前から依頼を受けて行動していたから、その当時はまだ彼女は重要危険人物ではなかったのだけれど。どうやら、彼女も成長したもので……」

「どういうことだよ」

「私、彼女のこと以前から知っているの。追っていたのよ、君たちを助けた時に。そして逃がした。そのツケが今ここに回ってきてしまったのかしらね。馬鹿だった、あの時始末しておけなくて」

「じゃあ、俺らを最初から奴隷にしていた張本人って……」


トキアが顔を上げて、ハッとした。すべてが繋がる。シルヴィアが来た経緯がすべて。


「ご察しの通り。彼女は最初から必要だった。自分の力の保持のための生命力が。それは、子供の方が強く持っているもの。だから君らを閉じ込めた。逃げられたのは、多分の彼女の誤算だったのだろうけど今ここで戻してきた、ということね」


シルヴィアはソルとルナに目配せして、食事を持ってこさせる。使い魔は絶対服従。そしてソルとるなにもその意識があった。そして使い魔のプライドも含めて彼女たちは文句1つこぼさずに運んできた。


「さて、話が長くなるのは避けたい。今回の魔女は少々厄介なもので。トキアはあまり深く関わるべきではないわ。残り4人の術者を今日解放してそのまま魔女を殺しに行くしか……」


紅茶を飲み干して、シルヴィアがカチャリと音を立ててテーブルに置いたと同時にトキアはテーブルを勢いよく叩いた。驚いたのはシルヴィアだけではなくライトもだった。


「いや、それじゃあダメだ。あの女はこの街の最高権力者だから」


一瞬の沈黙を有したあとに、シルヴィアはフッと冗談気味に笑ってそれを否定した。


「権力者って……ここは街よ。トップの存在はあるはずがない。あったとしてもそれは独りよがりの勝手なものでしょう?」


それには、ライトも同感だった。王は国に存在するのであって街には存在しない。まず、街において権力者というものは確立せず国から派遣された使徒によって統治されているはずなのだ。


「トキア、お前も分かっているだろうに。この街にもいるはずだろ?国から派遣された使徒が。彼らが統治している時点で権力者は出ないはずだ」


しかし、トキアの表情は至って真面目だった。それは少々硬いとも取れるものでその空気感にシルヴィアが笑った。


「もし、彼女が権力者だと仮定して。彼女を支持する者は何人いる?彼女がもたらしたことなどこの街のメリットにもならない。ましてや、どんなに演技をしたところで彼女は私と違って魔女という種族を隠しきれないはずよ……あんな雰囲気を纏っていればね」


確かにシルヴィアは、あのグロリアという魔女に比べて感じは鋭いだけで黒ではない。人間性を感じないという点ではグロリアだけが当てはまる。カモフラージュも通用しないわけだ。だが、ライトもそこで1つの事に到達する。


「待て……消滅した街を見た人間たちは、どうしている?普通怯えて逃げ出すのが道理だろう。今頃、慌てて街は大混乱に陥るはずだ。なのになっていない。あんな大きな更地を見たらハッキリするはずなのに。それに加えて地下だけが消滅しなかったという点でも謎だ。術式は球状、つまり全方位に広がっていたんだから……」


ライトが言った言葉に賛同するように、ずっと探知を働かせていたルナが初めてそこに口を挟んだ。


「少しよろしいでしょうか?」

「ええ」

「会話に口を出すのはあまりよろしくないとは考えましたが、1つ。探知をしていて術式をハッキリ見た私には分かりました。地下にもあの断絶の術は張り巡らされていましたが、その発動時間には誤差があったのです。私たちに接触している時点で敵の思惑なのでしょうが、まるでシルヴィア様たちが救出に要する時間を計算されたもののようでした」

「あー、ご飯が冷める。食べましょうか!」


それを聞いてシルヴィアは、一瞬空を睨んだがその後目の前に出されていた朝食を目の前の2人にも勧めた。複雑な空気感になってしまったのをルナは少し反省した。しかし、今ここで言わずしてどうする、という方が大きかっただろう。


「トキア、やっぱりあの女がこの街の第1の権力者であることに間違いはないんだな?」


すると、トキアが小さく頷いた。そして、立ち上がって戻ってきたその手には軽く地図が握られていた。丸い形のこの街と、中央に位置する城のような豪邸。


「以前は違う貴族が使用していた屋敷だ。だが、5か月前彼女たちは姿を現しまずは最初に演説を始めた」

「内容は?」

「種族差別について、だよ。だが誰からも支持を得なかった」

「この街は、差別している側の人間しかいないからな。貧富の差は価値観の差であり格差の差であるから」


そして、トキアは間を含んで口を動かした。


「支持を得なかった。だから力を見せて屈服させた、絶対的な力でねじ伏せるように。最高権威者の貴族を殺して彼女がトップに立ったんだ。そしてその3ヶ月後に来た、というのが経緯かな」


ライトは無言で食事を進めていた。だからシルヴィアは、ソルが入れた新しい紅茶をもう1度口に入れて唱えた。


「うん……じゃあ尚更だね。早く術者を助けないと」


シルヴィアからそんな言葉が出るなんて思ってもいなかったからこそ、ライトは一瞬吹き出しそうになった。普段通りの表情を保つのに精一杯だったライトを横にトキアは複雑そうに眉を潜めていた。


「シルヴィアが、感情移入するところ。あんま見たことなかったから意外だわ」

「そう?そんなことないけれどね」


だからライトとシルヴィアのそんな他愛もなかった会話に表情を緩めたトキアは深く頭を下げた。


「お願いします……他の奴らのことも」


ライトはあぁと頷きシルヴィアは細く笑ったのだった。



◇◇◇



4人の術者は簡単に見つかった。簡単すぎるとでも言うように呆気なく助けることが出来た。


そしてそれは可笑しすぎるほどに渦をかいて中心に近づいていた。



◇◇◇



「主、次の段階に行きますか?」


少年が隣で声をかけてきた。魔女はチラリと後方を振り返って薄く笑みを浮かべた。


「次はあなたたちの番。いい仕事をしてちょうだいね。私、この身体凄く気に入っているの。でも上は潰せと言ってくるのだもの。だから可憐に壊していきましょう?」


鼻歌でも歌うように魔女は手を前に開いた。ゆったりと腰を下ろして前には立体映像を置いている。


「ルール、破っちゃうかしら?それでも、いいわよね。こちらはゲームを支配している方だもの」


そんな魔女の術式を少年は無言で眺めていた。

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