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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第2章 終焉の再来
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【17】同じ空を見ていた

翌朝。ソルとルナはいつも通り飄々とした姿でテーブルに朝食を並べていた。彼女らのリボンもきっちりと結ばれて。ログハウスの懐かしい木の匂いに、ライトは少しだけホッコリとした気分になって深呼吸した。落ち着くことがどれだけ重要なのかを知っているからできることなのだろう。


「本日は、ジャスミンティーでございます。コーヒーは今のご気分には沿われないかと。私たちは昨夜は落ち着かせて頂きましたので本日からもまた、粉骨砕身。シルヴィア様のために力となりましょう」


目の前に鼻をくすぐる香りだかい紅茶が差し出された。差し出してきたのはソル。一礼して1歩下がった状態で話したのはルナだった。シルヴィアも彼女らの昨日の仕事量については、理解していた。だから、労いの言葉をかけてやるのも道理。


「ソル、ルナ、お疲れ様。そして、今日からもよろしくお願いするわね。昨日みたいな失敗をしないためにも今日1日で全術者の攻略に当たることにするわ」


シルヴィアがソルとルナの頭を優しく撫でながら席に着くと、彼女らも頬を赤らめながら満足そうに頷いた。シルヴィアの正面にライト。そして主の後ろに立つのが使い魔の立ち位置だ。


しかし、ライトは第三者の足音を聞いて下ろした腰をもう一度持ち上げた。1番の情報を持っていると思われるその相手にライトは少しだけ顔を綻ばせる。


「トキア!」


彼の名前を呼んで、その青年がビクリと体を強ばらせたのを認識した。それも仕方のないことだろう。まだ起きて朦朧としている状態。今何が起こっているのかさえも多分、彼には分かっていないのだろうから。


「誰だよッ!?……って。ライト?」


少し下から驚きの声が上がってライト自身も少しだけ嬉しくなる。彼は恐怖に少しだけ揺らいだ様子でこちらに敵意を向けていた。だが、相手を知ってその表情が驚きへと変化する。久しぶりに会ったのだからそれも無理はない。だが、彼の性格上喜びに舞い上がるみたいな出来事にはならないが。


「トキア、久方ぶりだな。よかった、元気になって」


青年が幻想でも見るかのようにぽかんとした間抜けな表情を浮かべているのでライトは少しおかしくなって苦笑する。


「ライト、か?」


恐る恐る聞きながら、それでも扉のドアノブから手を離さない青年は警戒心を拭いきれていないということ。


「あぁ。ごめんな。お前らがこんなことになっているなんて知らなくて苦しませて」

「いや……まず、なぜ俺はここにいるんだ?俺らは確かにあの鉄柵に閉じ込められていた。なのになぜここにいる?夢か……ライトがいるのだって不思議でしかない」


頭を抱えて、自分の記憶をゆっくりと整理し始めたトキアに対してライトは彼が落ち着くのを待つ。


「夢?」


夢だと考えているライトに向かってトキアが問いかけてくるのは、普通に考えて夢に質問しているのと同じで現実世界にいるライトたちにとっては少しだけ笑ってしまう。彼が無事に目を覚ましてくれたことに対しての安堵もあったのだろう。


「夢じゃねぇよ、トキア」


だから告げた、大丈夫だと。眼を擦ってトキアがそっと扉から手を離す。肩に手をぽんと置いてトキアとの再会を喜んだ。3年ぶりか?


「ライト?……え、なんで。というかあの女は?」


その温かさを感じたのか、青年の表情に明かりが灯った。それでも恐怖は拭いきれいておらず、奴隷だった時とは何かが違う。本物の恐怖を滲ませていた。


「女、というのはあの魔女か。それならゲームを始めやがったよ」

「ゲーム?」


そこに疑問を持っている時点で彼はゲームの内容を知らないらしい。ましてや、自分が術者になっていたことさえ。


「すみませんね、君が覚えていること話してもらえるかしら?」


透き通る様な響いた声にトキアはこちらに向き直り彼女の名を読んだ。


「シルヴィアさん?」

「久しぶりね」


2人に席を勧めてシルヴィアはその前に腰を下ろす。朝食は後でとソルとルナに指示し、ライトとトキアの顔を覗いた。


「えっと、やっぱりこれは夢じゃなくて。でもオ俺は……あれ?」

「トキア、1度落ち着きましょうか。私たちのことも話す必要があるから順を追って説明していく必要がある。だからリラックスして聞いてくれる?」


シルヴィアに言われて少しだけ、黙り込んだトキアにライトがすかさずフォローを入れる。


「オレたちも、お前らの手紙で来ただけっていう訳でもなくて。いろいろ複雑なんだわ」

「わかった」


シルヴィアがそれを見て頷き、事の経緯を説明した。


「私たちは青軍の依頼によってここまで足を運んだ。青軍の依頼は、『魔女の捕縛、及び鎖の調査』しかし、この街に入った直後に彼女の断絶の力によって結界を貼られて閉じ込められてしまったわけ。そして、彼女が提案してきたあるゲームに乗らなければならなくなってしまったの」

「具体的にはどういことだ?でも俺らとそれが関係してるってことは間違いじゃないんだろう?」

「飲み込みが早くて助かる。ゲーム、というのは毎日術者の解放をしないとこの街の半径を10キロと考えて2キロずつ崩壊していくということ。そしてその術者が君たちであること」


簡単に、言ったつもりだ。それでも複雑すぎて。急すぎて。トキアは黙ったまま息を吐くのがやっとだった。


「最初の術者がお前だ、トキア。幸いにもこちらには解除の力を持つソルがいるから良かったものの。ざっと1キロは更地化したよ。すべてが消滅した」

「……消滅ってどういうことだよ。というか、俺は普通の人間だぞ?」

「だから、呪いなのよ」


シルヴィアが言い聞かせるように告げた。そして、切り替え早く紅茶を1口飲んでからトキアに話を持っていく。


「次は、君が知っていることを話してくれるかしら?私たちは時間も情報量も圧倒的に少ない。それもあの女の手の上で転がされているのだから尚更よ。だけれど、これ以上彼女の娯楽だけに付き合っていられない。犠牲者が少なからず100は出る。関係ない一般人が、と言うべきね」

「話の整理が追いつかないかもしれないが、今まで起きたことすべて話してくれ。そうしないとお前以外のやつらがどうなっているのかさえ……」


青年は少し黙った。しかし、その後に小さく口を動かし冷静に過去のことを説明する。


「あれは魔女じゃない……シルヴィアさんとは違う。何かもっと深いものがあるような、悪い感じの大きさが強かった気がした。穏やかそうな表情をしているのにとてつもなく悪い雰囲気がした」

「トキア、どういう経緯であったんだよ?」


まるで悪寒を感じたように身を震わせてトキアが言うので、ライトは静かに状況を確認した。シルヴィアは無言で彼を見つめる。


「あれは、普通に晴れた日だったよ。普通の変わらない日々」


それでも木々たちだけがざわめいて、不穏に風は吹いていた。


「だけど彼らは訪問してきた。そして……3人、殺されたよ。呆気なく」


苦渋に息を飲むように、ライトは言葉を失った。彼は壊れ崩れた世界を知っている。それなのにそれだけではない。


死んだ人間はもう二度と戻らないから。

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