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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第1章 腐敗した世界の魔女狩りは
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【5】一直線上の敵対視

2つの茶髪と長い髪が揺れた。ライトはため息を、シルヴィアは口を塞いで彼女を見る。


「本当にアナタのことを探していました」


シルヴィアに抱きついてきた少女の勢いは、それはイノシシの如く強く当人は固まったまま抱き枕状態へと成り下がっていた。帽子がパサリと落ちて、シルヴィアはそのまま数秒間停止する。濃厚な接触を嫌いとする彼女にとって、顔を擦り寄せられるなど停止せざるおえない状況なのだ。その後、やっと正常に戻ったのか口角を引き攣らせながらも懸命に声を上げて。


「久しぶりね……トオリ。急な再会に戸惑いながら驚いている私には整理のための時間が必要なのだけど」


勢いに飲まれることなく、本来の彼女を少しずつ取り戻していくシルヴィアはトオリと呼んだ少女を自分から引き剥がして距離をとる。キョトンとしたトオリは頬を赤らめながら自身の過去を話し始めた。


「私はアナタの隣に立つため、実勢経験を何度となく積んできました。そして、今がその時なのですよ。ヴィア!私は約束を忘れません、強くなったら一緒に行くと言いましたので!」


目をランランと輝かせて話すトオリに少しだけ後方によろめくシルヴィア。子供相手に甘かったと自分の行動に後悔したのか頭を抱えて唇を噛んだ。


「それに対し……」


だが、トオリはくるりと振り向き今まで空気と化していたライトに詰め寄る。


「あのつかぬ事をお聞きしますが、アナタヴィアのなんなんですか?ヴィアに男なんて私認めないですよ、それに私の方がずっと彼女のことを知っているので。男という人間を被った獣をヴィアの隣に置いておくことなど出来ません。だから消えてください!」


突如として猛烈な速さで回り出した彼女の口にライトは、顔を顰めて後ずさる。しかし、自分への非難にライトはぽかんと口を開けたまま彼女を見据えた。トオリはというと、シルヴィアは自分のものであるとでも主張するかのように彼女を熱っぽい視線を向けている。この場合どうすればよいのかこういう所だけは、思考が遅いライトなのだった。


「えっと……」


しどろもどろに答えるライトに声は立て続けに起こった。


「ヴィアをかけて勝負しませんか?私とアナタ、どちらが彼女に相応しいか。とても重要なものなのでハッキリしておく必要があるんです。アナタのことについて知りたいのも、やまやまなのですが今はそちらが最優先なので」


腿から抜きとった短剣を前に交えて彼女は唐突にその言葉を現実とする。当人のシルヴィアに顔を向けて助けを求めてみるも彼女は無言でこちらを見ているだけで本心が定かではなかった。否定も何もせずにこちらを見られてもどうすれば良いか困り果てしまうのはこちらだ。すると、本人が重々しく口を開いた。


「でも、トオリ。ほんとに、君はどうしたの?私が以前君を助けたのがちょうど5年前でしょう?よくここまで成長したと思うし、私の居場所を特定したわよね」


すると、彼女は得意げに答えた。


「愛、ですよ」


いやいやいや、絶対奇跡的な再会だっただろうとライトは心の中で突っ込みを入れながらため息混じりに息を吐く。語尾にハートをつけたような言い方のくどく重い言葉に吐き気を感じながらシルヴィアは後方へと1歩下がった。


「ヴィア。私がこの男と勝負します。だから、勝ったら私をパートナーにしてくださいね?」

「でも君は……」

「いいですね?」


普段のシルヴィアならこんなもの馬鹿らしいと言ってスルーするはずなのである。だが、今回は何かが異なっていた。普段通りの彼女ではない。そうしたシルヴィアは下を向いて何も答えない。ライトはそれをただただ眺めることしか出来ずに佇む。すると、こちらを見たトオリがバッと短剣を握り直した。


「さぁ?始めましょう?」


やる気など起こるわけがない。それも勝手に始められたバトルなのだから尚更だ。自分に至っては何も関係がない、ある意味部外者的な立ち位置に存在しているわけだ。なのにこれはあんまりである。しかし、誰も彼の心情を理解しようとはしなかった。それどころかトオリの説明は続いていく。


「いいすか?あくまで防波堤となる結界を貼るのであって周囲には見えづらくなりますが確実に見えない保証はありません。まぁどちらにしろ、街を壊した時点で即失格。重ねて言いますがパートナー決めの対決。こちら、アナタのこと認めませんのでどうやっても勝たせていただきます」


流れの早い展開に戸惑いを隠してライトは無表情のまま鞘に収め直してた剣に触れた。このままでは、自分が痛手を負ってしまう。それは何故だか、気分が悪い。


「ちょっと、ま……」

「なにか?」


半ば強引にタイマン勝負を持ち込まれたライトは頷く以外に答えを有していなかった。彼女の眼光も彼女の言葉も本気である。それは自分が気を抜けば直ぐに殺られてしまいそうな気までさせられて。


「……わ、かった」


不満を強く飲み込んでライトは、頷く。それを聞いて満足そうにゲスい顔を浮かべたトオリは、短剣を両手に握り刃先をライトに向けてきた。それと同時にライトも細剣を引き抜く。黒の剣がシルヴィアを映し横で揺れる彼女を中心にした。相手がこちらに敵意を向けるならそれに答えるのみ。


「スタート」


トオリは、合図とともに笑みをそこに留めて大きく踏み込んだ。短剣は、近接戦闘重視の特攻型。ライトはそれを見抜いていて距離をとる。2人とも己の力のみでの肉体的衝突。それは、静かともなく激しくぶつかり合うのだった。


「あーあ。何してるんすか、あれ。大丈夫なんすか?」


シルヴィアがそれを眺める横に青年が1歩顔を出してきた。その青年は、にこやかにそして涼しげにシルヴィアに話しかけた。


「面白いことしてますね。トオリとアナタのとこのあの人。興味をそそられます」

「アナタもそうなのね」


シルヴィアは彼の服装を確認しそう呟いて視線を戻した。



刃と刃は、ぶつかった。2本の短剣に押されるように見えた長剣は一瞬にしてするりとそれを滑らし剥がす。勢いに押されそのままの振り回されトオリの短剣は1度前方に強く踏み込んだ。切り込む体勢は戦闘慣れした低さを持つ。ライトは、それを剣で弾いて回しそのまま対局の位置に持っていった。


「アナタは強いです。だけど、やはりヴィアの隣の前では到底ダメですね。釣り合わないのですよ。適任は私なのですから」


余裕を見せるかのように投げられた会話にライトは無表情で躱した。それに反応し高揚していくトオリの速度は上がる。


「一応、伝えます。私一般人とは異なるので」


タガーの重心がかけられた刃先にライトは剣を滑らして引き抜きそのまま外へと追いやった。体勢が崩れたところを狙うため、彼女との距離を一気に縮める。口を開いて彼女に牽制を突きつける。


「お前、オレのこと逆になんだと思ってんの?」


ライトはそのまま一閃を引いた。鋭い剣先は今にもトオリの身体を引き裂こうとし彼女を襲った。だが、彼女もまたそう簡単にいかせてはくれない。強くもそれはあと一歩のとこで躱される。躱しと躱し、肉体的だけではないぶつかりに2人は久しぶりな強敵と対面した。ぐるりと回った剣に対し、ダガーは連続的な反射攻撃を素早く繰り返すことで攻め立てた。攻防が入れ替わることによって長々と続く戦闘。しかし、それも一瞬の隙によって一気に戦局は予想外の方向に向かう。


「アナタがヴィアといる意味ってなんなんですか?アナタは別にヴィアの隣に立たなくてもいいじゃないですか!?」


文句を言いながら彼女の動きは予想外の方向に繰り出されていく。だが、冷静に捉えていたライトにとってそれは簡単に見抜くことが出来た。そして、言葉は何も考えることなくするりと抜け落ちて彼自身も驚いた。


「シルヴィアは、オレに道を示してくれたから」


本音であっても隠していたのに、その時だけは何故か素直にそれが出てきた。ライトは、トオリと距離をとったあと一気に攻め立てる。今は無心となり彼女の相手をする他ない。防御からの素早い攻撃。地面を強く蹴り飛ばし前方に進んだ剣先は下から線を描くようにトオリの目の前を通過した。それは、ライトの心遣いによって彼女の鼻先で静止する。


「オレの、勝ちだな」


剣を止めてトオリに向かっての勝利宣言。だが、それは彼女の中にある火を灯すきっかけとなってしまっただけだった。

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