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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第2章 終焉の再来
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【15】残存するもの

急な頭痛に襲われた。目眩と吐き気に視界が歪む。膝を着いて頭を抱えて、霞む視界で少年の背中を見ていた。そして消える。


もし、アイツが悪魔と契約したのなら代償はなんだ?いや、それを考えるよりも早く。ソルと合流しないと……状況が掴めない今の状況が1番最悪だからな。


意識が遠のくのを必死に保たせて壁に手を付き立ち上がる。フラフラとした足どりに対して意識はたち直そうと必死だった。


「力はどうやら、オレの身体を無意識内で蝕んでいるんだろうな」


意識奥で悪魔が笑ったように見えた。多分、それは自分の身体内にいる悪魔の笑いだろう。ライトは苦笑いを浮かべて体調の回復を待った。その力を使用しないとどうにもならない時はある。いつだって物事はギブアンドテイクだ。何かを得るのであれば、何かを捨てなければならない。両方得ることが出来るというのは相当な運、またはそれを引き寄せる力があるものだけだろう。


「やべえな……これは、さすがに……」


壁に寄りかかったライトはそのまま、意識を遠いところに置いて息を吐いた。



◇◇◇



「ルナ、探知の方はどう?」


永遠に続くような地下の道を走りながら、シルヴィアは金の長髪の少女に声をかけた。手を前にしながら立体図形を投影し続けているルナは視線を変えずに返答した。


「はい……それが、急に人間の数が減ったようで。存在する人の数が急激に少なくなったみたいです。そして、現在残る人数は私たちを含めて5名となっています。どうやらソルたちの方で何かあったようですね」


走り抜く中で、風景は点となり線となる。そこで何かしらの物体を見つけたルナはそれを避けて横目で睨んだ。


「シルヴィア様」


床にあったそれを壁に1度足を踏むことで避けたルナはシルヴィアを見て頷いた。


「ええ、私も見たわ。あの炭化した灰になった人間を。どうやら君の探知に誤りはなかったようね。息が停められ呪いで操られていた人間を救う術はない。炭化した人間が戻ることはないし、綺麗な状態で救えることもない、ということかしら」


彼女は顔色を変えていない。しかし、言葉には揺れた怒気がこもっていた。それを感じ取っていたこそルナも改めて敵対感を覚えていた。


「はい。先を急がないと行けませんね」



何人もの灰人を越えて、シルヴィアとルナは足を止めた。それは5人の中の1人と出会ったからに過ぎない。倒れている青年にシルヴィアは躊躇なく平手打ちをかます。


「おはよう?ライト。今の君に眠っている時間はないの。さっさと起きて行動しなさい。それが今の君がすべきことだから。こんな所でただ眠っているだけなんて……ならば、君は何故ここに来たの?」


意識が揺れる。視界が揺れる。それを理解し、初めて視界が戻ってきた。目の前に居た彼女の顔を見て青年は、うっすらと目を細める。


「なぜ、平手打ちをする?」

「君が眠っているから起こしてあげたのでしょう?」

「他に方法はなかったのか?」

「あら。もう少し過激なものの方がよかったかしら?」

「……いや、なんでもない」


シルヴィアの横には遠くを見て不安を少し浮かべた双子の片割れが立っていて。シルヴィアの雰囲気は普段よりも少しピリピリとしたものだった。


「今頃、追いついたのか?」


立ち上がったライトは、ガンと音鳴る頭痛に一瞬だけふらりとした足取りをしっかりとしたものにするために数秒を有してシルヴィアと目線を合わせた。


「今頃って……君もちゃんと仕事はしてくれたようだけれど、こちらだってあそこにいた人間たちの相手をするのは苦労したものよ」


シルヴィアはライトの左腕を横目に見て少し面白そうに彼の腕を自分の手で上げた。ライトの腕にぐっと力を入れて見せたシルヴィアは人の悪い笑みを浮かべた。


「……ッタ!お前ッ!」


折れた腕に対して物理的に害を与えられれば普通に痛い。シルヴィアは手を離して少し頷いて、ルナを見た。


「行きましょ。ソルが居ないということは、彼女はもっと前にいて。そして術者の呪縛解除を行っている最中でしょうから。敵は多分、今日のところはもう姿を現さない。あとはソルがどれだけ短時間で術式を解除できるか、か」


シルヴィアが跳躍したのに続いてルナもその後を追う。ライトは彼女の背中を少しだけ睨みながらそれでも後に続いていくのだった。



◇◇◇



術式が複雑に組み込まれすぎている。ソルは冷や汗を滲ませながら鎖を青年に向けて意識を集中させた。1つ、1つの画像を読み込み。そしてまた削除と廃棄を繰り返していく。だが、どんなにやっても終わりが見えない。


「どうして……」


ソルは青年が縛られている椅子を前にしてひたすら読み込み削除の仕事をしていた。それだけなのに時間は経ち続け、刻々と街は壊れていく。


「街はどうなっているのでしょうか……」


そして、5重の画像を読み込んで削除したと同時に1つの画像を脳内に見つけた。

悪魔?それとも魔女?


ソルはそれに触れて解除し、そのまますべてを廃棄した。ざっと10分くらいか?今までと比べると解除に時間がかかってしまった。


「終わ、りました」


疲労感に少し後方によろけたソルは脱力で床にペタンと腰を落とした。一息ついて、時間が経つと自分が触れた悪魔の魔法陣に違和感を覚える。


「あれはなんだったのでしょうか?」


しかし、時間外労働は少々身体に響くようだ。ソルはそのまま眠りについてそこに普通の青年を残した。


「ソル!!!」


そして、3人は残り2人が残る立ち位置まで足を運ぶことが出来て合流する。ルナが双子の妹を見て声を上げて駆け寄る。眠っていたソルは整った寝息を立てて静かに眠っているだけだった。


「よかった」


安堵の息を漏らしてルナは優しく妹を抱きしめた。傍から見ればやはり、普通の少女たちで。ルナは立派な姉の顔立ちだった。そして椅子に座っていた青年もまた一緒に眠っている。


「トキア……」


朧気だが、成長してもしっかりとその面影を持っているようだった。自分の記憶を辿ってちゃんと残っていることに不思議と安心かを覚えた。ライトは座っていた青年を見て絶句し、近寄って顔に触れる。そこに少しの温かさを感じて生きていることを実感する。


「お前以外のやつはどこに行ったんだろうな?」


涙は流していなくとも、悲しみが滲む低く冷たい声色だった。無事であってくれた喜びと。それ以外の仲間に向けた複雑な想いを心に閉まいながらライトは言葉をこぼした。ライトは青年をお姫様抱っこし、ルナが妹をおんぶする。


「1度戻って目覚めるのを待った方が早いと思うわ」


シルヴィアに言われて頷いたライトは天井で塞がった空を見る。ぶち開けるのは少しだけ躊躇されるが、今は仕方がないか。建物が上にあった時は……考えないようにしよう。


「私だって、あまりやりたくないのだけれど」


そして彼女の考える最善策もライトと同様のものだった。シルヴィアは塞がりかけていた傷口に触れてその傷から血を垂らす。


「君たちはもう休んでていいわよ……ったく」


垂らした血を5本の槍に変えて硬化。そして鋭い牙を宙に浮かべ1点に集中させて放った。天井が割れ、崩れ落ちるのは予想出来ていたので一行はその瓦礫をつたいながら陸上に上がった。久しぶりなわけでもなかったが、それでも新鮮な気がした空気。


しかし、シルヴィアやライトの陸上に対しての少しの心配は最初から必要ではなかったらしい。新鮮だと思った理由もある意味、別にあるようだった。その光景に絶句したシルヴィアとライト、そしてルナは目を疑ってしまったからだ。


確かに陸上の状況は情報として届いていなかった。だが、こんなもの誰が予想しただろう?予想の付けようがないその光景はもはや現実ではないと感じさせられた。


「本当に、何を考えているのよ……魔女という人種の考えは本当に読めない。何を目的に、なんのために。生気が欲しくてここまでしますか?君は一体なんなんですか」


誰に質問したわけでもない。だが、シルヴィアはそこには居ない魔女に問いかけていた。


結末はとても単純に落ち着く。月夜の下には塵一つ残っていなかった。すべては綺麗に清掃されたかのように。建物の存在も、木々のひとつも。生物の存在もすべてそこにはなかった。そして、痕跡を残すように上手い具合に真っ二つに割れた建物の片方だけがそこに慄然と建っている。

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