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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第1章 腐敗した世界の魔女狩りは
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【4】突如とした再会

シルヴィアは腕を組んで呆れたように待っていた。


「急に消えてびっくりしたのだけど。ったく、お人好しにも程がある」


ライトは、貴婦人に勲章を受け渡し群がってきた彼女らの間を抜けてシルヴィアの方に足を戻した。だが、自分のしたことに関して時間の無駄なことなどとは思っていない。


「ごめん」


ライトが一応の謝罪を口にするのでシルヴィアもそれ以上咎められずに表情を和らげた。だが、首を鳴らして息を吐いたライトを見てシルヴィアは音のない苦笑を漏らす。


「そういうとこ嫌いじゃないけどさ」

「……馬鹿にしているだろ?」

「別に?」


シルヴィアは、少しのはにかんだ笑みを置いて上空を眺めた。


そして彼女も気づいたのだ。


「ライト、これいつからだと思う?」

「いや。オレも今気づいた」


2人は表情を引き締めて頷く。誰かがこちらに向けた敵意の現れ。瞬時にこちらに向けられた視線を感じて、五感を最大限まで広げたライト。半径500メートルまでを見ることが出来る五感。しかし、それは広げるまでもなく近くにあった。


「ったく、アナタたちの拘束が私たちの仕事と言っても手間取らせないでくださいよ!魔女なんてこの世界の悪でしかないんですからさっさと私たちと同行して魔女は魔女だけで暮らしてくださいな。迷惑な上に害役なんですよ、アナタたちは」


ゾロゾロと現れたのは並立していく白服たち。彼女たちの暴騰の数々は呆れを通り越しておかしいほどにシルヴィアにとっては笑えてきた。疲労困憊のような言い様でこちら側に言いかかってきて決めつけを最大限にまで極めたように。


要らない言動をズカズカと。彼女は、自分のことを言われているのに何も感じなくなってしまったのだろうか。表情を変えないシルヴィアを見てライトは思った。末期だな……


「で、お前らはオレらを捕まえれば気が済むということか?」

「そうですよ」


白服たちの回りくどい言い方は嫌悪感を催して簡潔に投げかける。ライトは彼らを冷たく見据えて次の言葉を放とうとした。隣にいる彼女は、戦闘の意志など一切ないらしく青年を見て笑っているようで。


「ちッ」


しかし、次に口を出した本人は白服でも黒服でもない新たな少女だった。


「ねぇ!なにしてるんすか!?こんなところで。魔女だからと言って誰彼構わず、とっ捕まえようとするのやめた方がいいと何度も言いましたよね?アナタたちには、アナタたちのターゲットが用意されているはずです。自分の責務をこなしてくださいよ」


幼い少女の高めな声はザワついた空気感を一瞬にして黙らせる凛とした鈴のようなものだった。だが、彼女の声に乗せられた武具の掠れた音を感じてライトは後方に大きく飛躍する。


「シルヴィア!!」


名前を呼んで安否を確認したが彼女は、表情を暗くして黙りこくっているだけだった。風が切られたそちらの方向に身体を向けると降ってきたのは2本の短剣。空を切った短剣は紛れもなく自分に向けられたものだった。


「言葉と行動があってないんだが。本当に、一体なんなんだよ……」


次々に現れる面倒くさい相手たちに自分たちの予定の狂いを感じて、些か冷静さをかいたライト。鞘に収まっていた細剣を抜き取り、火花を散らしてそれを留める。白服たちと同様の制服を着ているような少女はそれでも、他と異なる雰囲気を纏って。茶髪の長い髪を細く2つに結んでそこに姿を現していた。その少女はこちらを見て目を見開き唱える。


「規定の範囲内における、自分を信じろという点で。私は彼らが悪では無いことを感じました。またアナタたちの行動は周囲から見ても苦情が入るほどに迷惑です。もう一度、一から学び直してくるべきなのではと私は考えますが?」


首を傾げて、弾かれた短剣を両手でキャッチした少女は白服たちに一片の睨みを効かせた。動揺した彼らを眺めて、その後にこちらに視線を向ける。


「そして、そちらの方も私の攻撃を防ぐなんてなかなかですね。ですがやはり魔女なので一応は戦闘態勢を整えておきました……アナタ、たちは……」


しかし、言葉は言葉として成立する前に止まって彼女は目を見開いていた。その瞳には一筋の涙が零れ落ちて一時の時間が息を止める。急激に変わった空気感にライトは着いていけずに剣を収めて当の本人を眺めた。そして、彼女がその意味を発した。


「ヴィア……で、すか?」


一番、堂々としてこちらに対して冷静に対応していた彼女が動揺するように名前を呼んだ。隣でビクリと身体を震わせた少女に気づいたライトは彼女の方にそっと視線を向ける。彼女は今まさに自分たちに刃を向けてきた張本人であった。しかし、彼女の涙に偽りは感じられない。そしてその眼先にいたのはシルヴィア本人だった。


「ト、トオリ。なぜトオリがここにいるのかしら」


シルヴィアの一言はその空気感を一瞬にして凍らせるのには充分過ぎる衝撃を持っていた。彼らに繋がりがあることなど簡単にそこで解釈できる。そしてその少女はというと、歓喜をそこに浮かべて。シルヴィアは動揺をおもむろに浮き出して。


「ヴィア……久しぶりです。私のこと、覚えていてくれて嬉しいです。今度は負けない力を得てアナタの前に姿を現しました、今度こそお供させてください」


トオリと呼ばれた少女は深々とそこに一礼して満面の笑みを浮かべるのだった。煌めき輝く彼女の表情は、まるでずっと待ち続けていた人を目にしたように。続けて放たれた言葉にシルヴィアは、彼女を真っ直ぐに捉えることが出来なかった。


「ヴィア、私はずっとアナタをお慕い申しておりました」


2人の間は感動の場面なのだろう。しかし、ライトにとっては意味不明な感動劇場を見せられているような気分であった。そして、それは退きそうになった白服たちの反感を買うことは想像通り。

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