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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第1章 腐敗した世界の魔女狩りは
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【2】不変なる定義

世界なんぞ、クソである。それはオレの持論かもしれないが。思わずにはいられない。


例えば、人は人を見下して見苦しくも下劣な顔をよく浮かべる。優越感や安心感を抱いてそういう縮こまった世界で生きているということが彼らにとっての有意義な時間だからだ。しかし、それだけで収まるならまだいい方だ。誰だって自分が一番可愛い。だから人は人を傷つける。自分の為になるように人を使う。そういう人間が複数いるために、傷のつけ合いは絶えないわけだ。だからこの考えに至っても無理のないこと、と。そう言いたい。


「実際の決めつけもここに含まれると思うんだがな……過剰にしたって度が過ぎる」


魔女は嫌われる存在と決まっている。それは正しい。悪魔と取引をして魔女となった人間は禁忌を犯しただけには留まらず、一般の人間に対して害をもたらすとされているのだ。実際それらは創作上のものとしか捉えられていないし、知っているやつからしても関わりたくない存在ということ。だから、思う。誰がそんな勝手な戯言のせいで命懸けで追われる身となった魔女のことを知っているのだというのだろう。


「はぁ」


ため息を吐くと幸せが逃げるらしい。だが、それはそうせずにはいられない環境も原因の1つなんだと誰かに講義をしたいものだった。


「ため息なんて見せないでくれるかしら?鬱陶しいわよ?少年」


いつの間にか時計台の真下に来ていたライトに話しかけたのは数分前に別れた1人の少女。複数いた相手を1人ずつまいてきた青年に違う意味での疲労感を見せられて少女は呆れたようにそれを眺めていた。まずは最初に安否確認で始めようか。彼女に限ってこんなこと必要ではないだろうが。


「シルヴィア、お前の方は大丈夫だったのか?」

「勿論のこと私がそんな粗相を起こすわけが無い。あんな弱い魔女狩りに捕まっているようだったらこんな生活やってられない」


帽子から黒の長い髪をなびかせて艶っぽい唇を動かしたのはシルヴィア。深紅の瞳が彼女の怪しげな美しさを際立たせた。どうやら、通常とは異なる何かを持っているのもあながち間違いではない。


「それに魔女狩りが魔女を追いかけるのは決まり事のようなものでしょう?あたりまえのことをあたりまえにこなす。それに文句を言ってもそれが彼らの仕事なのだからしょうがないでしょう」


そして、彼女も理解していた。それが定義である世界だということを。



◇◇◇



「それにしても。もう少し、数が少なくなればいいものを。彼らは本当にどこにでも湧くのね。まさに虫のようったらありゃしない。虫嫌いだけど……」

「流石に言い過ぎじゃないか?」


少しの愚痴を聞くのも、青年の仕事だ。あたりまえでも数が多ければ疲れるもの。だからこそそれを窘める、ということはしない。まぁそれでも首を傾げて相手に少しばかりは同情するが。


「お互い様でしょう?私は何も間違っていない」

「虫って……もう少しマシな言い方をしてやってもいいと思うがな。付き合ってやるけどな、お前の老化が進むのを防ぐために」


頭を抱えながら、シルヴィアが青年を見ると彼は少し彼女よりも高い視線から淡々と述べた。


「その口の悪さはどこからきたのかしら」

「本人に自覚なしは大変だ」


黒髪黒眼の青年が平然と言葉を繋げたのに対し、シルヴィアは肩を落としてオーバーリアクションで落胆して見せた。正直に彼女にとってのそれは心当たりがあったからだろう。


「……フン」


空を払うようにしてシルヴィアはそっぽを向くことで、今のことを何事もなかったように仕向ける。事事の擦り付けあいはどうも、青年には劣るらしい。それに、この話を長々と続けいた所で結果は変わらない。


だがライトにとってこれは、彼女の拗ねるポイントに触れたことを意味する。それを宥めるような眼差しを向けるのも大抵で、機嫌を取るのも彼の仕事だ。彼女が機嫌を損ねて良かったことなどひとつとしてないのだ。これではどちらが歳上なのか分からなくなるが、容姿が変わらない彼女に何を言ったところで無駄なのだろう。


「シルヴィアさん?オレにできること、何かあります?」


切り替えるように表情を戻して苦笑いを浮かべながらライトはシルヴィアに問いかける。彼女の機嫌取りの必要性はずっと一緒にいた彼がいちばんよくわかっている。すると、くるりと視線を彼に戻した彼女はニタリと笑みを浮かべていた。素の表情の彼女のその笑みは、なんとも言えぬ悪い予感しか起こさせない。


「私の買い物に付き合ってくれない?」

「何故、急に……」


突っ込んだライトはその後に後悔する。そこで突っ込むべきではなかった、ということだ。


「君が見つかったせいでもれなく私も見つかった。分かっているでしょう?」


こういう時の女の圧は普段の数倍はあって謝るほか、こちらに返答する権利は与えられない。ここで反論を試みてもネチネチ言われてしまうのが落ちであるためだ。


「はぁ……」


それを返事と捉えたシルヴィアは上機嫌で歩き出す。それに渋々続くライトもまた自分の意思で行動しているのだが。


「よろしい。いくわよ」


だが、彼女がこんな無駄なことに時間を割いたのは今までにあったのだろうか。彼女が自身の容姿を気にするなど未だに何か異なる意味を持っているような気がしてならない。だが、ふとした疑問はそこに言葉として零れることはなかった。



◇◇◇



現在、ライトはシルヴィアの大量な買い物に付き合わされていた。なんのためのものなのかを問いたところで口は閉じられているからその事実は分からないままだが。何故か自分の服も買わされるという(結局は自腹)意味不明な行動をする羽目となり、絶賛荷物持ちに適任されて外に逃げてきたところだった。外に座って街ゆく人たちを視界に映す。


彼は珍しい部類に入るだろう。それは、黒髪という部分では勿論。全体的な様相が暗めの印象を持つからかもしれない。豪勢な雰囲気には質素というべき方向に偏っているものだ。



青年は、彼女と旅をした。3年間の旅を経て自分なりにたくさんのことを学んだつもりだった。それでもまだまだ学ぶことは多いし、未熟者と言われても当然だと理解している。だがそんな旅路でたくさんの人と関わりを持ちたくさんの人の感情を肌で感じた。


お前は、こんな未来を見ていたんだな。


シルヴィアに拾われ彼女が受ける依頼を重ねていくうちにそれは経験として青年を成長させた。自分がそうだったから誰かのためという意志が断固として揺るがない形となったのだろう。



「何、辛気臭い顔してんの?君は、おっさんですか?」

「お前とは違う」


店内から出てきたシルヴィアが自分の顔を覗き込むようにして顔を寄せてきたのでライトは少し退くようにして顔を遠ざけた。だが、青年が呟いたボソリとした一言はどうやら彼女に届いていたらしい。ベンチの下でスネを蹴飛ばされる形として返しが送られてくる。


「ッタ!!」


声にはならずに、音だけが漏らされ恨めしそうに彼女を睨む。何事も無かったようにドスリと隣に腰を下ろしたシルヴィアに、書類のようなものを叩きつけられてライトはそれを遠ざけてピントを合わせた。


「さっさと見れば?」


シルヴィアの横顔にライトも諦めて書類に目を落とした。無自覚に口角を上げていたシルヴィア。その顔はいつも何かを企む時だけ。それを理解していたからこそ、ライトは何事も言わずに書類を見たのだ。


「なんだよ、これ」


だが言葉は零れ落ちる。彼女はいつだってそこに立ち止まることを許さない。それは必要な時だけしか、認めないということを意味する。


「今回は久しぶりに面白そうなのが来たわ」


手に握った書類に目を通していったライトは、唖然と自分の握る手に力が籠るのを感じた。


『魔女狩りの真実』

依頼の題として成り立つそれは、非日常と日常の間に揺れる一通の依頼であった。

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