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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第1章 腐敗した世界の魔女狩りは
28/64

【27】裏切り者と偽者と

「エイジか……」


無惨な死体を見た後にそのまま見つめた先に立っていたのは仲間の顔。なのに、それが歪んで見えてしまうのはこのショッキングな光景のあとだからだろうか。


「これ、大丈夫なのかよ!?てかいつの間に?」

「あ、ああ。オレも今来たところだから何もしらないんだよ、すまんな」


エイジから驚きを隠せないような焦りの一言を受けてライトも頷いて死体を見つめた。さっきの爆発となにか関係があることには間違いはないだろう。だが、それだけでは不自然だ。こんな廊下のど真ん中で起こったことなのならば、目撃者がいるはずだからだ。周辺を観察し、不審な人物が居ないか探す。


「確認したけれど、辺りに逃げた痕跡はなかった」


シルヴィアがライトに耳打ちし、ライトはその死体に目を向けた。上のやつらはこんな時に何をしているのやら。内臓をぶちまけて腹部に空洞を開けたそれは、異様な死体としか言いようがない。大きな弾丸がそこを一気に弾き飛ばしたというような表現が妥当か。


「それよりもなぜ、寄りにもよってこういう時に事件がいくつも連続して起きるのよ……」


そう言ったシルヴィアは、ライトの服の裾を掴んで話がしたいと言うように顔を向けた。それを確認したライトは彼女と共にそこを後にしようとする。だが、それは1人の男によって妨げられた。


「なんの、騒ぎでしょうか」


透き通る。それでいて深く全員の心を突き刺すような凛とした高い声。それでも少しの男らしさを残しながら一瞬にして人々を沈める力を持っているその一声。全員が振り向くとそこに1人の男が歩いてきていた。誰かが言った。


「クリス統括……」


生唾をゴクリと飲む音が聞こえたのはその緊張感があったからだろう。クリスは金髪をなびかせてゆっくりとした足取りでその死体に目をやった。一瞬、眉を潜ませた後に観衆に目を向ける。


「お前たちはここで何をしているんですか?ここは、私が持つのでお前たちは自分の仕事を全うしてください。それがここの組織のルールですから」


ニコリと笑ってもそこに本物の笑みはない。誰もがよく分からないところに滲んでくる汗を必死に抑えてそこから1歩、また1歩と遠ざかっていく。そうして彼らの表情は普段通りへと戻ってきて何も無かったかのように移り変わる。


「「……」」


シルヴィア、ライトはその異様さに冷静に受け入れて彼を見ていた。エイジが以前教えてくれた組織統括、クリス・ユーズド・ヘルムス本人だろう。一見穏やかそうに見えるもののその奥に秘めたものは深い。印象深く残ったその男に背を向けて3人は、その場を後にした。しかし、彼はライトとシルヴィアを眺めて何かボソリと呟くのであった。


「面白い……」


離れた3人は、一時はどうなるかと思った独特な緊張感に晒されて脱力感に苛まれていた。しかし、シルヴィアだけが暗い面持ちで何やら悩んでいる様子だった。そして、放った一言。


「エイジはちょっと抜けといてくれる?少し。ライトと2人で話したいことがあるの」


思わせぶりなその言葉にエイジはニヤニヤニヤと笑みを浮かべてライトを突っついてくる。だが、ライトは分かっていた。彼女がそんな理由もなしにそういう行動をしないことに。彼女の様子からも気づいていた。


「了解」


エイジは、目を閉じてくるりと背中を向けて廊下を歩いていった。


「談話室の方で待ってるから終わったらそっちに来いよ。そしたらまとまった話をオレにも聞かせてな?オレはお前らの味方だからな」


分かりましたと手をヒラヒラさせて、待っていてくれるエイジに心の中で感謝して2人は人だかりから退いていった。


「仲間、だって?君はもう仲間を作れる気になれたのかしら」

「さぁ?」


彼女の何気ない一言に素っ気なく返すライトもまた1人、他人との関係性に着いて悩んでいるところだった。人気のない廊下まで来たところでシルヴィアは止まり真剣な面持ちでライトに告げる。


「今から君に話すことは、君を大きく動揺させることかもしれない。それでも聞いてくれるかしら?私の推論を」


悲しそうにもシルヴィアが表情を曇らせて、ライトはそこに言葉を置いた。彼女を安心させるためでもあり、自分を落ち着かせるためでもある言葉。シルヴィアを悩ませた理由がここにもう1つあると思ったから。


「大丈夫だ」

「それなら、教えてあげる」


腕を組んでいたシルヴィアが、ため息混じりに言葉を濁すことなく吐き出した。


「もしかすると、エイジが魔女狩りを殺している魔女狩り殺しの犯人かもしれない」


一瞬、間があった。


それにはライトも絶句、というより言葉が出なかった。本当の急転直下というのはこういうことを言うのか。正常に言葉を飲み込むまでには時間がかかり、それに返答する言葉を探すのに必死だった。疑問が疑問を呼んで、ライトは強く彼女の言葉に不信感を抱いた。彼女を信頼していることに変わりはなくとも。やっと発せた一言でその理由を聞き出す。


「なんで、そう言いきれる?」

「勘よ」

「お前が理由なしに特定するのはあまり無いはずだが?」

「……昨晩、もう1人殺されている。同じように腹部をぶち抜かれたような傷跡と、やり方。全てが一致しているのよ。今までも含めて彼ら全員が成績上位者であるということもね。君が魔女殺しと対峙していた時そちらもいろいろあったというわけ。幸いにも、私たちはアレンから情報が来たけど、非公開のことだからほとんどこれについては誰も知らない」


唇に人差し指を当てたシルヴィア。しかし、それだけでは不十分であることを理解していたのでシルヴィアは彼を納得させられるように改まってその口を開いた。


「彼の出身地、知ってるでしょう?」

「確か……ハリス」

「そう。ハリスのシュブライトという地域。そこがまず、彼のおかしな点なのよ」


だが、エイジにはアリバイがあるはずだ。


「俺が昨晩外に出た時アイツは、しっかりとベッドで寝ていたが?」

「彼の姿を確認した?」


そこまで言われて初めて自分がそれを確認して居ないことに気がついた。布団の盛り上がりは見たとして、エイジの姿は見ていない。


「抜けてる」

「……」


何も言えずにライトが黙るとシルヴィアは固く眉を潜めながら。


「私たちに対しての彼の好意と。彼の真意、本当はずっと思っていた。なぜ彼は何も言わずにここにいるのかって。エイジとこれを話すのは気が引けるけど正面から聞かないと、どうにもならないこと」


そう言ったシルヴィアは、そこに。後ろに佇んでいた青年に気づいて表情を消した。彼は不自然に笑っている。いつも通りならば、場の空気を良くする、適度にノリの良い好青年なのに。その時だけは違うように見えたのだった。シルヴィアが焦りを露わにすることは無い。だが、キッと睨んで彼の名前を呼んだ。


「ねぇ、なぜ君がここにいるのかしら?エイジ」


その名は今話していた青年のことそのもの。ライトもエイジの方を達観した。彼の本当の本意を知りたくてだ。だが、青年はいつも通りの声色で。目付きだけが鋭く眼光を帯びていて。


「話長くて、少し気になったんだけど……」


笑って頬をかいていたエイジの瞳は笑っていない。その空間だけが重くなったように圧迫感が押し寄せたのは気の所為かもしれない。


「聞いて、いたの?」

「……」


エイジはそこで笑みを消して、ひんやりと冷めた無表情で彼らに声をかけた。


「ああ、シルヴィア。俺はアンタの推論をもう少し聞いてみたかったんだけど」

「ここで君がなんの悪にも染まらない、何も知らない生粋の無関係者だったら、君はまず事実を否定すべきなのに」


言い逃れは出来る余裕は持たせたのに……とでも言うようにシルヴィアはエイジを無表情で見つめた。彼女は、いつも言葉が足りない。しかしそれでもそれは良くも悪くも彼女の美点なのだが今となっては、既に全てが遅い。


「お前が初めてだよ。誰かにここまで興味を持たれたのも全部。だけど、俺は俺の信念を貫く。お前らと同じみたいに。そして、それはお前ら2人とも共通部分があると思うんだが?」


エイジらしくもない、静かな声色が帰って現実味を持たせてくるようでライトはエイジから目を逸らした。


「じゃあ、お前が今までも数十人の人間を殺して来たというのか?」

「補足を加えると彼ら全員、魔女の大量虐殺を望み私たちを殺すことに快感を抱く戦闘狂だけど」


エイジは、無言のままこちらを見ていた。


「大丈夫だよ。オレは2人に手を出さない。だって、2人は魔女側の人間だから。オレは魔女を尊敬し崇拝する。だから、排除すべきなのはその魔女たちを殺そうとする魔女狩りの方だと思っているから」


ニコリと冷たく笑ったエイジは、指を立てて3のマークを見せた。


「今までに殺したのはざっと15人ほどか。そして、残り対象としている隊員は3人。全員、幹部の下につくクラスの人間たちだ。だけどそれが終わったらオレはここを抜けるし、つまらない茶番は終わりにする」


彼の顔は何故か、淋しそうだった。エイジからそんなことをしたくないと言うように悲鳴のようなものが感じられたからかもしれない。


「俺の出身地、ハリスシュブライトはジャンヌ・ダルクという勇敢な戦士の出身地でもある。彼女は果敢にも戦い、国に貢献した。しかし、彼女は仲間から陥れられ裏切り者の魔女として疎まれ嫌われる。そして、最後は火あぶりにされて処刑されたのだった。これが俺たちに伝わされている話。だから、俺は地域の意図と共に組織に派遣されてここに入隊した」


経緯を話したエイジは、左手を前に出した。2人が警戒態勢を敷く中で彼は淡々と説明を行った。左手に魔法陣が展開されそこに現れたのは無反動砲。


「そういえば、俺の能力。まだお前らに見せたこと無かったっけ?あんまり戦うことも血を見ることも嫌いだから戦いたくないんだわ、俺」


無反動砲は、鋭い白い光を纏って彼の左手に掴まれていた。エイジは銃身を2人に向けた。


「ならどうしてお前はそいつらを殺す?そして、俺らに銃口を向ける?」


すると、エイジは唇を強く噛み締めてやりようのないやるせなさをそこに置いて全てを吹っ切るように笑った。


「簡単だよ。それは俺の運命だから。そして、2人が俺にとって外敵となる可能性がある限り俺はお前らを排除しなければならない」


数日なんて言う数字は、人と人を間接的に繋げるものなだけだったのかもしれない。ライトは、改めてそれを感じてエイジと敵対の位置で見据えた。


「運命なんて馬鹿らしいことにしがみつくな。自惚れないで」


彼女らしい、運命否定の言葉をエイジは笑ってスルーした。不可能なものは不可能なのだと叫びたい気持ちを必死に抑えて1度は心を許した友に銃口を向ける。


「本当にするのか?」

「あぁ、勿論。だってお前は俺が残りの3人を殺すまでに立ちはだかるだろう?」

「無論そうなるだろうな」


2人は見つめ合い、ライトは腰の鞘から一筋の剣を抜き取った。


「舐めるなよ?」

「悪魔の力なんて使わない」


それぞれに、それぞれの想いがある。シルヴィアはそれを組んで1歩後ろに下がった。


「ライト、君はエイジと話をしなさい。私はトオリの所に行ってくる」


後方からかけられた励ましの一言にライトは頷き、シルヴィアは姿を消した。


「「行くぞ」」

現実と非現実をまぜまぜ……

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