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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第1章 腐敗した世界の魔女狩りは
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【22】深夜の狂乱

夜に蔓延る悪など数多といるこの世の中だが。全てはほんの一瞬に事象を飲み込む闇となる。


女子陣の部屋に魔の手が迫っていた頃、エイジたちも寝静まり静かに夜を過ごしていた。しかし、ライトはなぜか眠れなくてベッドの中で考え込んでいた。今日起きた出来事について深く考えれば考えるほど余計に狂ってくる謎に頭を悩ますばかりなのであった。


そして思考を開始した頭が眠ることなど難しく、それが活発に動き始めた頃にはライトは既に意識を戻していた。落ち着いていることが出来ずにまぶたを開けて置いてある時計に手をかける。時刻は日にちがまたいだ深夜であり、普段は起きない時刻に何故だろうという疑問を置いて。そっとベッドから身体を起こしたライトは、少しだけぼうっとしたあと伸びをして立ち上がった。


「無理に眠ることはないか、少し夜風に当たってくることも悪くないかな。……この組織の散策でもしてみるとするか」


そう呟いて、黒のコートを羽織りったライトは2段ベッドの上の段に寝ているエイジを確認した。頭から布団を被っているようで面白い寝方をするなと、静かに呆れて笑いを寄せる。物音を立てないようにそっと自室の扉を閉めた彼は、足音を微かに響かせながら長い廊下を歩いていくのだった。


面白いことに、昼間と夜間では広さが違うように感じることは気の所為なのか。思っていたよりもずっと長い廊下に、風が心地よく吹き抜けるテラス。テラスから顔を覗かしてみると、5つの建物が立ち並んでいた。寮が3つと大書庫や多目的室のあるものが1つ。そして、謎多き建物が1つ。エイジたちから説明されたことを思い出してそちらの方を見上げた。


ライトは、思った。静寂に包まれた世界に踏み込むと自分だけしかそこに居ないような錯覚へと陥り自分を見失いそうになると。幸いにもここは二階であったため、そう高くない。そう考えたライトはそのまま、テラスを飛び越え1階の外の渡り廊下へと勢いを殺して着地した。月夜が眩しく辺りを照らす。


「月は輝く。それでも暗闇に光る1つの明かりは人を貫く刃にも、助ける薬にもなるのか。結局は月夜に堕ちた人間たちは化けるんだろうな」


煌々と照る月を見ながらライトは、我に返りゆったりとした足どりで散歩を開始した。さて何をしようか。矛盾をいくら考えたところで未だ、未来に起こることを予期することなど無理に決まっている。今ある感情を入れ替えてもう一度リセットしようとしたライトは、風に吹かれた髪を止めた。そうして噴水の場まで来た青年は、そこで足を止めて見回す。


外であるのに、強い圧迫感のあるその空間。息のしづらさを感じたライトは息をしようと大きく息を吸った。だが、吸えない空気に違和感を覚えて咄嗟に口を塞ぐ。なんだ!?冷静かつ慎重に、だが強くその招待を求めて視界を忍ばせる。しかし答えなど誰もいない境地から帰ってくるわけがないのも当たり前だ。ライトは視線を彷徨わせ一気に相手を認知しようとした。


しかし、空気が段々と毒のような甘ったるい匂いを催してきてむせるようなものへと変化していく。


「ッ!!!」


その空気感から抜け出そうと、走るために1歩を踏み出す。しかし出したその時、不意に後方からの颯爽とした爪がライトを襲った。


「……なッ!?」


持ち合わせのない彼自身は、腕で前方を覆うようにして素早い対応を試みた。迫った風圧は牙を持ちライトの腕を裂かんとばかりに通り抜ける。黒のコートごと切り裂いた風は一瞬にしてライトを抜けて後方へと舞っていく。理解の遅れよりも本能的に先にそれを追おうとしたライトの足は鼻についた匂いで止まった。甘くも薬品臭のような匂いに眉を潜めたライトは言葉を漏らして。


「血の匂いがするのはオレの勘違いか……」


自分自身の飛び散った赤い液体をライトは、冷たく眺めたあとに振り払うことで血を拭う。


しかし、彼を襲うのは一つだけではなかった。次にライトに迫ったのは、鋭く尖った赤い刃。風が過ぎった途端に投げいられたそれをライトは横に飛び退いて避ける。そんな大胆な攻撃をすれば嫌でも誰かの耳に音が届くだろうに。風の正体が顔を出したのかとライトはそちらの方に顔を向けて正体を暴かんとする。しかし、殺意は後ろからあげられた。唐突に現れたそれにライトは振り返り蹴り飛ばそうと踏ん張りをきかせて対応する。


しかし、視界の暗い夜の世界での戦闘は相手を見間違えても不思議ではない。


彼女も彼も躊躇なくそれを奮っていた。


「……」

「……」


だが、息を漏らした2人は同時に。勢いの殺しきれないそれらの軌道を力いっぱい横に捻じ曲げて反らす。何も壊すことのなかった刃と足蹴り。地面を崩したそれらの衝撃とともに彼らは顔を見合わせて互いを知った。


「なんでお前が!!」

「……なぜ君がここに?」


確認しあったライトはシルヴィアの顔を両手で覆って近づけた。じっと顔を見てそのまま視線を下ろしていく。寝巻き姿のワンピースに薄地の羽織を着たシルヴィアは久々にその黒髪をストンと下ろしていて新鮮な雰囲気だった。しかしながらそこが問題ではない。胸元が開いたシルヴィアのワンピースはそのしなやかな身体のラインを強調している。無意識に見とれていたライトは自分を立て直し、手を離した。そんな様子にシルヴィアは冷ややかな視線を向けて。


「なに?」


気恥ずかしさが混沌としてライトの中を駆け巡った頬は、今頃になって赤くなっていくのだろうと。自分は何をしているんだと感じたライトは自分のコートを投げ渡す。あえて、平静を装って。


「なんでもない。暗がりでハッキリとしていなかっただけだ。それより、冷えるだろうから羽織っとけ」

「キモイんすけど……」


彼の心情など知らないシルヴィアは、紳士的な対応に毒舌を吐き捨てる。一応は受け取るのだが。そして、そこでライトが思い出したのは彼女の歳。ババアの彼女に何を想ったのだろうかとより羞恥を感じて表情を下げて真っ直ぐに見れなくなる。


それを踏まえないのも彼女の欠点でもあり、美点でもあるのだが。青年の存在理由をまず初めに問いただしていったシルヴィア。


「それより、なぜ君がここにいるのかしら?今は真夜中。普通に考えてこんな場所をほっつき歩いている時点でどういう心意なの?」


それに対して、至って単調な言葉を返す。


「ただ寝れなかったから少しの散歩を。それよりもオレよりお前だろ。こんな夜更けに妖術使いまわして暴れ回っているのは……」


同時に問いただす声音は白熱していきどんどん音量を上げて加速していった。しかしながら、2人が言うように現在深夜である。一応の気遣いは残っていたため2人は小さくも強気な姿勢で互いに質問を始めた。


「何か、そっちにもおかしなことがあったの?」

「何かって何が?オレはただ眠れなくて興味本意に散策をしていただけであって。別に大したことがあったわけじゃない。それよりも『も』ってことはお前らにはあったってことかよ……」


自由の身になったシルヴィアは、冷静にそれでいて真剣に説明を施した。


「短絡的にいうと、私たちの部屋に誰かが侵入した。そしてトオリを連れてどこかに逃げて消えてしまい、今その犯人を追っていたところ。だけれど犯人の目的は私のようで、だからその罠に今自分からハマりに行ってやろうというのよ。トオリが連れていかれた時に私は彼女を助けることが出来なかったから」


唇を噛んで苦渋を呑んだ彼女自身もトオリを守りきれなかったことに悔しさを感じているのだろうか。しかし相手の力量を知ることが出来たし、堂々巡りに突き進んでいた探索も一気に答えに近づいたのではないかと思えば好都合だ。


「つまり、狙いはお前でそのためにトオリを連れ去りあちらからアピールをしてきたということか?それならトオリの足取りを追って、手っ取り早く相手と衝突できるんじゃないか?」

「そういうことになるわね……まさか、あちら側からこうして姿を現してくるとは思っていなかったのだけど。少々複雑な展開になってきた。君の所には私が到着する前に、牙を含んだ突風か何かがこなかった?」

「きた」


情報共有をして、整理をしていったライトは今の1番危険な状況を察する。彼女が少しでもたじろいで、見くびっていたのかもしれないがトオリを奪われた。それが意味するのは、トオリの危険な状況と相手の高い能力値である。


「君の五感は何かを感じるのかしらね。こういう時に限って、君は闇を見ることになるんだから」


それでも自嘲を載せたシルヴィアはいつも通りの様子である。焦りは一瞬、経験を持つとそこまでの感情の揺さぶりはないらしい。あの突風とあの薬品臭の甘い香りをまずは探す必要があるらしい。


「トオリを助けにいかないと。彼女自身だって助けられることなどプライドを傷つけられるようなものだけれど、それでも今はそうこう言っている場合ではないから」

「どうやら、今回の依頼はいろいろ混ざりあっているらしいな。魔女を殺すのを目的としているのにまどろっこしいこんなやり方。何かあるに決まっている。それに彼女の身も危険にさらされる可能性が高い……」


シルヴィアは地面に座り込んで魔法陣を。頷いたライトは甘い香りと風の勢いの方に視線を下した。


「シルヴィア、場所を特定することが出来たらコンタクトで情報を送ってくれ」


ニヤリと笑ったシルヴィアはそっと地面に手をついて自身の血液を垂らしていった。彼女を置いて走り出した青年はぐんと足を前に伸ばして組織内に足を踏み入れて行ったのだった。

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