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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第1章 腐敗した世界の魔女狩りは
22/64

【21】星たちだけがそれを知る

アレンとの話を終えた時には、既に太陽も空に浮かんでいて。現在、朝食を済ませようと4人は、彼の部屋を後にして食堂に向かっていた。それと同時に奇妙な緊張感から開放された一同は肩の荷を下ろすように大きく息を吸うのだった。


「シルヴィア。あんな協定、本当に組んでよかったのか?確かにオレたちは最初からその依頼が目的でここに来ていたし、バレたのなら隠してもらえる方がベストだ。だが、それはアレンが口を閉じていることが前提の話であってアイツが口を割った時点で壊れる脆いものでもあるんだぞ?記憶操作は確実に無理だとして、まずアレンとの直接対決だって決して無傷で済む話でもないと思うんだが……お前の思考回路的には、普段なら有利な取引しかしていないだろ?」


彼女の考えを考慮した上でのライトの言い分。すると、トオリも腕を組んでその意見に賛同してくる。


「確かに、それはありますね。ヴィアは慎重かつ冷静にことを進めていくタイプなのに、どうして今回はここまで挑戦的な選択をしたのですか?」


食堂に入って4人がけのテーブルに座るとシルヴィアが口を開いてそこらの空を見るように述べた。


「あの男、アレンは何かを隠している。重要な何かを彼は手札として隠して持っているのよ。あの含んだ言い方と1人だけに課せられた責務。矛盾は矛盾を読んでいき、考えてみると機密事項にしたって1人の仕事量としては荷が重すぎる。従って彼には何かがあるってことだ」


トオリとエイジが朝食を取ってこようと、座る2人に声をかけたので彼らに頼んでライトは小声でシルヴィアに話した。


「シルヴィア、少しいいか?」


察した様子でシルヴィアが、ライトの方に視線だけ向けて了解を示す。髪を耳にかけるようにしたシルヴィアは自分も気づいたとでも言いたげな眼差しをそこに置いて。そこでライトはさきほど導いたアレンの意図をそのままの情報整理とともに口にした。


「アレンは、多分。この組織内で一二を争う強者であることが推測される。それは、ここの統括者からの信頼と振る舞い方からよく分かった。そこまでは、さておき。オレの観察からするとアレンにとっての魔女への興味も、オレたちへの興味も薄いことは判明した。ではなにに興味を持っていて、なんのためにここでこんな仕事をしているのか。アレンは、見極めと言った。アイツがもし、アイツ自身の正義感を軸として動いているのだとしたら?信じるのは自分だけ、アレンは自分が立てたルールの上で行動し取引を持ちかけた。結局、アイツは誰からの束縛も受けておらず本物の自由として動いているんだわ。イコール、アレンはアレンの意思でこちらに協力を持ちかけて自分勝手に行動しているんだよ。だから、好きなようにできるしアイツにとっての仲間たちにこの話をしていないんだ。そして、協力を求めることも不可能」


そこまで言ってライトは、細く笑った。アレンは確かに1匹狼のような感じだった。シルヴィアは、そこまでを脳裏に置いて足を組み直した。


「まぁ、アレンと話していればきっと私が感じた違和感も君の推測も全てが表に浮き彫りになって現れてくる。そしたらその時だわ。魔女狩りになると仕事を与えられる。それが降りてくる前にさっさとここから立ち去る予定だから、段階を踏んで行きましょうか」


戻ってきたトオリとエイジは、テーブルの上にパンやサラダを置いて腰を下ろした。


「そんで、気になったこととか話せたんか?お前らだけで話す必要があることだってあるだろ?」


エイジの気の利いた一言にシルヴィアもライトも表情を緩めた。彼らは、気づいていてそれで席を外してくれたのだったから。エイジにとってもトオリにとっても自分が信じていた上官が自分勝手な行動をとって、仲間を仲間だと思っていなかったことを知れば少なからずショックは受けるだろう。そういう考えが2人にはあって、それをなんだかんだで感じていたのだろう。


「それで、2人は情報は入手することが出来たのでしょうか。ヴィア、私はアナタを信じていますからどうなろうと着いていくのですが」


そこまで言ったトオリは1口、パンをかじってニコニコと笑顔を漏らした。彼女は本当にシルヴィアが好きなようでそれは微笑ましいほどに。ライトは一息ついて持ってきてもらったコーヒーを口にふくむ。


「それより、魔女狩りの中で殺された人数は何人か知っているかしら?あと共通点とか……」


エイジとトオリに聞いてみるもの、答えは無言しかなくシルヴィアはため息をついた。それを見たライトはサラダに口をつけて、


「そうか。なら、絞りきるにはもう少し証拠と情報がいるってことだな。無闇に行動しても時間だけが過ぎていくから徹底して見つけ出すしかない、か」


と言葉を口にした。エイジはそれに賛同するかのようにニヤリと笑った。


「ま、最初の仕事までは自由時間と呼ばれる自主鍛錬の時間が1ヶ月くらい設けられるし。焦ることもないよな?」


そう言ってエイジは、パンを頬張ったまま気楽に話した。トオリもエイジも2人の関係性をまだ疑っていたもののそんな様子ではない2人に興味も半減されたのか何事もなく時間は過ぎていった。



◇◇◇



「それにしても視線が痛い……俺に当てられたものじゃないのになぜか居心地が悪いのはお前の存在感のせいだな」


1週間もすると、初日のあの1件も組織内に広がって口々に噂されるようになった。さすがに居心地の悪さを残すそれを軽く無視してそのまま直行するライトをじろりと横目で見るエイジ。調査は一向に進まないが、それに変わって魔女についての知識は増えた。シルヴィアはあまり自分たちのことについて話さないことが多いため、ここでの情報はある意味新鮮なようにも感じるのだ。


「魔女は、悪魔と取引をした人間たち。狩人は、天使と取引をした人間たち。2つはいつも対立していたが、それもこれも害役を成すため。しかし、それらが根本的に異なるものこそ最大の差であるらしく、魔女は失うものが多くその代わりに願いを叶えることが出来るのだとか。魔女は、女性だけではなく男性も当てはまることがありドイツに集落を持っているらしい。最近はあまり魔女の話を耳にしなくなったものの未だに彼らは残っているとされる。興味深い話だよな、こういうのって」


そう言ったエイジは庭にあった噴水を見て面白そうにひとつ呟いた。


「水って滞ることなく流れるじゃん?それって不思議と心が落ち着くよね。だからさ、この噴水も綺麗だよな」


くるりとライトを見たエイジは、不思議な雰囲気を持ってして彼に言葉を投げかけた。


「やっぱりさ、そこに存在するものへと到達するには邪魔なものを消さなきゃならないじゃん?水も障害物とか不純物とかが交じれば流れが悪くなる。止まることなく絶え間なく流れるのがいい所なのにそれではダメなんだ。だから整備が必要なんだな」


そうして、指さした噴水は綺麗に水を放出した。ライトが無反応なのでエイジが苦笑いしていると、


「誰かの思考に触れるのも悪くないことか。アレンの考えもエイジ、お前の考えもなかなかオレにとっては新鮮に感じるものだ」


静かに笑ったライトは、そっとそう呟いて頷いた。



◇◇◇



今日はやけに夜の空に星が浮かぶ。綺麗に輝くそれらの星とは裏腹に黒い闇は動き出す。


シルヴィアもトオリも寝静まった頃、部屋は静かに時を刻んでいた。しかし、いつも通りの夜なようで普段とは異なる闇が迫る。その異変に気づいたシルヴィアは、寝たフリをそのままに目を少しだけ開くのだった。変わらぬ部屋の様子が一変したのは一瞬。


開くはずもない鍵のかかった部屋の窓が開いてカーテンをなびかせたのだ。バサバサと音を立ててカーテンが揺れて夜風が部屋に入ってくる。流石なシルヴィアも何が起きてもいいように布団の中では準備をしておき様子を伺った。トオリもシルヴィアの様子を確認し同様に騒ぎ立てなかった。


「あらあら、本当に寝ているのかしら……まぁいいわ。魔女はいらっしゃいませんかねぇ。綺麗な瞳は何処にあるので?綺麗なあの魔女の瞳は私のものなの、絶対に」


くすくすという笑い声が脳に響いて2人は、ベッドから同時に起き上がった。トオリが上から、シルヴィアが下の段から部屋に降りたって警戒する。


「こんな時間に誰かしら?」

「来訪なんて聞いていないのですがね」


2人は颯爽と短剣を握った。1人は、銀色の。1人は赤黒の。だが、見えない夜風は鋭く彼女らの服を裂いていき切り傷を産んだ。


「妖術?でもここまで強いものならば隠し通すのが大層難しいと思うのだけど。他の反応がないことから察するに結界が貼られているのかしら」


見えない相手にシルヴィアは冷静に短剣を前に構えた。周囲は寝静まっているのにここだけが荒々しい。だが、警戒は緩めていなかったはずなのにそれらは一瞬の風圧で上に持ち上げられた。


「風ッ!?」


言い終わる前にシルヴィアは目を見開いた。いつの間にかカチャリという物音ともに窓の鍵が閉められていたのだ。そして、目の前に急激広がった白い煙。短剣で手のひらを切ったシルヴィアは、そこから長い長剣を構築し握り直した。横に線を引くように空を切った剣はそのままの斬撃で窓枠ごと割っていった。風と共に流れていく煙の中でシルヴィアはある違和感を覚える。煙があったのはほんの数秒だったのに。


そこからは1人の存在が消えていたのだった。


刹那の刻に消えた実態を探すことには状況理解の時間を有した。遅れた反応にシルヴィアは息を漏らした。久々に自分にふっかけられた喧嘩の相手は思っていたよりも手強そうだと。シルヴィアは煙が全て消えるのを待った。


そして、わかったこと。自分と同室で眠っていてさっきまで一緒にいたトオリという少女がそこにはいないことを。


「やってくれたわね、これはどちらの暗殺者なのかしら」


その時一陣の風が吹く。威嚇するように通り過ぎた風は何ともシルヴィアを招くように。彼女の瞳は赤く光って闇に映えていた。そして忍び寄る悪意の影を知るのは、闇に光る星たちだけだった。



◇◇◇



「今日も始めよう。その歯車が回る限り、終わることのないこの世界に知らしめるために」

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