【1】無慈悲な人間たち
18世紀、イグル国、都市ロムリアの街頭。西洋風の街並は、人々が行き交い馬車が通って豪華な装飾が施されていた。そんな街中も時代的なことを考えると当たり前なのか。
豪勢な大通りとは一足外れて路地を抜けると天変地異の差。貧民街にほかならないそこには、確実に敗者がいて生まれながらな理不尽に苛まれる無知なる子供も存在するわけだ。敗者が強者に勝ることはなく、どれだけの善人であれど力がなければ全てが無として捉えられるもの。希望も、幸運もすべて。自分で何かを起こすべくして行動しない限り、それが現実となることは紙一重としてありえないのだ。そこに神が降り立つ以外に。
さて、時代は加速する。18世紀において不可能は可能となり、理不尽はねじ曲げることができるようになった。それはまさに、超上に降り立つ存在があるわけでそれが裏から社会を支え、支配しているということなのである。
従って、力を持った人間たちは幾つもの世界を個々として作り出し自分たちの目的のためにそれぞれが行動していくのだった。
◇◇◇
「止まりなさい魔女!抵抗は許しません。力づくでもアナタたちを捕縛します」
白服が追うのは黒服の2人。黒髪黒眼の青年は、塀を乗り越えて横道を曲がり方向転換を試みる。帽子を被った少女は上空へと大きく飛躍し、建物上に降り立った。
「捕縛なんて笑わせる。お前たちがオレらを捕まえるだと?馬鹿馬鹿しい」
「無駄口を叩くなら足を動かしてくれるかしら?元はと言えば、ライトのせいなのよ?着いた初日に追いかけっこなんて疲労感しか残さないじゃない。ついでに言うと、魔女狩りも大したものよ。ったく……」
今にも舌打ちをかましそうな勢いの少女に青年ライトは付け足して自分だけに非がある訳では無いことを主張する。
「シルヴィア、お前は傍観者だろう?お前が何もやらないから俺が街に出向いていたのに。それでたまたまでくわしたわけなのだから、全ての責任がオレにあると言われれば心外だ」
「……うるさい、ごちゃごちゃ言うな。その口塞ぐわよ」
街を横断していく2人は、止まることなく進み上下で並列に疾走していく。グッと口を塞がれた青年に対し、彼女のは冷静に啖呵を切るよう口を開いた。
「キリがない追いかけっこは嫌い」
その言葉に呆れ気味な視線を向けた青年を無視し、無言で正面を見据えた少女は周囲をチラリと見渡す。
「どうする?」
問いかけたのはライト。彼もふざけてはいないようだ。確かにずっと追いかけられている、というのもなにか癪に障る。
「一旦分散してその後合流する方法が最善かしら。そうね……あの時計台で待ち合わせるのはどう?」
少女が屋根上から目の前に聳えていた時計台を指さしてくる。街の1番高い時計台。耳を傾けていた青年もはいはいと頷き、彼女が遠ざかっていったのを確認して足を止め後方を見た。
魔女という存在も面倒くさいものだ。ほとんどがその存在を知らずして息絶えるというのに。
少々生まれながらにして色々あった結果、このような非現実的な世界へと足を踏み込んでしまったらしい。厄介と言えばそうなるのだろう。
ライトは無愛想な面持ちを浮かべて相手を見た。本当に理不尽はつきものだとつくづく思う。魔女が何をしたというのだか、オレには理解し難いと言うわけだ。
「そこの!魔女の仲間の男!見苦しい抵抗などせずに、さっさと自首しなさい」
「オレたちが何をしたと言うんだ?」
冷たい発言は悲しさも混じえて。罪は罪。罰は罰。魔女は禁書に含まれる1つの悪意的力を持つ方法だからそれは、もっともかもしれない。だが、何もしていない自分たちを追う彼らが腹ただしく思えるの必然的である。
「私たちの仕事はアナタたちを狩ることです。それが私たちの責務であり正義に値することなのですから当然のこと。アナタたちという存在が悪なのです。それを自覚し、ご同行願います」
キリリとした表情を貼り付けた複数人の白服を前にしてライトは一瞬顔を伏せた。その後、何かを考えるようにした後不敵に笑って視線を合わせ口を開いて背を向ける。
「では、オレはお前らに捕まらないように逃げさせてもらおう。捕まって良好な未来が待っているなどオレには到底思えないからな。必死に抵抗させてもらうとするよ」
捨て台詞を吐いたライトはそのまま栄えた街の方に飛び降りた。惨めな捨て台詞ではなく、正真正銘そこに置くような形とした台詞。青年を追っていた白服たちは顔を歪めて奥歯を噛んだ。中心の人物が代表して皆が揃って思ったことを漏らす。
「魔女のクセに」