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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第1章 腐敗した世界の魔女狩りは
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【16】右翼の羽のその先の

「天使ハ……殺ス」


細くなった悪魔の黒が突然膨張したかと思うとおぞましさを倍増させて負の念を強く醸し出した。天使がそこに現れたと同時に、悪魔は鋭い牙となって鋭い刃先をそれに向ける。大きく翼を広げた天使は、羽を落としてその空間を壊して行く。白の空間が崩れていくとその場所が青の水辺へと変化し、白を欠片も残さず消していくのだ。天使の原型は天女のように。しかし、なぜかライトはそれを直視することが出来なかった。


「悪魔は人の弱さを喰らい、天使は人の光を強める。全ては対から出来た世界で、存在しうる理りは繋がりを持っている」


ライトは、天使を見上げた。羽がゆるりと落ちてきてそれがライトの手のひらにひらりと触れる。だがそんなやわらかい形のそれも身体に触れると、鋭い激痛を与える1つの剣となるのだった。矛盾が痛みを産み、体内の中で反発し合う2つの勢力がライトの身体を貪る。バリンと何かが砕けるように、細胞という細胞が割れ落ちる痛みが手から腕の芯まで届く。腕の感覚を一瞬、忘れ脱力したその腕は前ほどに力を入れることが出来ない。


「天使が降りてきてしまったか……」


自分から進んでそこに足を踏んだ。もう一度、あの暗闇の中で前に突き進んでいくために。


「……ぇる……?」


どこからか、声が聞こえてライトは頭を上げた。辺りを見回し声の主を探す。悪魔が黒いモヤを刃状態に変形させて、天使に向かって飛ばした。


「それを止めなさいッ!!」


声は、強く脳内に入り込みライトに命令を下したのだった。



◇◇◇



「……正常に戻った?でも、なにかおかしい気がするのは私の気のせい?」


ケイティが目を釘付けにして呑み込んだその唾は、異常と通常の錯覚に陥っていたからだろう。ルークもケイティも同様に異様を察知していたのだ。だが、それが何を表しているのか知らないのである。


シルヴィアは、目を瞑り声を届けるべくして祈った。これは彼が向かうべくこと。彼が死なない程度に手助けをすることが今の仕事だ。誰にも知られず一筋の冷や汗を伝わせ、思想の奥へ奥へと1本の糸を巡らすようにしていく。契約をした魔女と青年はひとつの繋がりで結ばれているのだから。


「……これは」


ポツリと呟かれたその一言とともに真剣味を帯びた姿勢でライトを眺めているアレンはまだ動くことをしなかった。



◇◇◇



言葉の示した筋書き通りにことを進めるべくして間に入り込んだライト。自身の腰にある鞘から剣を抜き取って同時に黒と白を切り落とし両断した。俊敏に引かれたその太刀筋は光としてそこに後を残して天使も悪魔も一瞬の時間を停止した。


「悪魔と話はついたのかしら?」


ライトが悪魔をひっぺがして、蹴り飛ばす。実態は確かにそこにあってモヤであっても蹴り飛ばした感覚はあったのだ。


「悪魔というか、俺の問題というか……」


ライトは双方を睨みつけ、少し渋い顔をした。目を閉じて感覚を研ぎ澄ませ、今までの感覚に集中する。あの血の色が。あの暗闇の世界が。ライトをすぐに引きずり込んでやはりまだ目を閉じることは難しいらしい。


「ダメだ」


ライトが顔を背けて、前を見た。それと同時に天使の羽がはらりと落ちて今度は足の甲に突き刺さる。神経をぶち抜き、筋繊維がブチりとちぎられたその感覚に否応なく、体勢が崩れた。崩れた身体のまま悪魔と天使は構わず、相互に刃を突き刺す。


しかし、対極なもの同士でもなぜに戦いを求めるのだろう。なぜどちらかが消えなければならないのだろう。


体内が煉獄へと焼かれるように煮えたぎる熱さを感じた。命の灯火が消える感覚ではなく純粋に焼かれている痛みに身体を埋めて奥歯を噛む。


「大丈夫」


痛さは、身体を揺さぶり正常な思考を鈍らすものだ。しかしこの程度の痛みは以前に何度も受けたことがあるもの。脱力感に包まれたライトは、身体からストンと力が抜けてぶらりとした姿勢で虚像を眺めた。思い描いたもの。それは一体どんなものだろう。


羽がライトの頭を撃ち抜き、脳に大きな衝撃を与えた。記憶が壊れて再現される。


シルヴィアがいる。エイジがいる。トオリがいる。そして、仲間がいる。次々に思い浮かべた顔にライトはぐっと苦しそうに唇を噛んだ。皆弱いわけではないし自分が守らなくても大丈夫だと言っている。それだけ彼らは強いのだから。自分の心が軽くなり、肩の荷が下りるのをを感じた。


悪魔に昔の記憶を貰った。シルヴィアに向き合えと押し出された。そして、自分を知ってくれる仲間がいた。それだけでもう十分なのだ。


未だに、悩まされるのもバカバカしいものだ。吹っ切れていても心は感傷からなかなか解放かれぬままだった。それから時だけが過ぎていき、自分の意思でついてきた旅でさえ、彼女な足でまといへとなっていたのだ。このままじゃダメだとわかっていても行動は心理に逆らえない。悪魔の歪んだ笑みと、天使の裏の見えない包容感。どちらもあって正しさだ。


「面倒くさい男は嫌いよ?」


瞳を閉じて暗闇に自分を立たせてみた。ひと波も立たない水面下のように。それは静かにライトを深く深くの集中力へと誘った。


「どこかで聞いたことがあるセリフだ」


フッと笑ったその顔に仮面はあらず、既に闇に生きても問題ない精神状態へとたどり着いたのだった。悪魔も天使も今まさに2度目の刃を交えようとしていたところだ。衝突は光と共に。重圧は空間の崩壊と共に。


「ッ!!!?」


しかし、白の空間は音もなく一瞬にして割れていった。それは2つの勢力が理由ではない。崩れたそこは現実となる元いた大聖堂の景色を移していったのだった。


「……ドウイウコトダ?」


これからという所で戦局をストップされた悪魔にとってそれはタイミングの悪いものでしかないのだろう。自分の身体ごと壊れていく悪魔と天使は同時に驚きを浮かべていた。


「外カラノ干渉。中止サレタ契約ト壊レユク異空間……マタモ、己ヲ閉ジコメルトイウノカ」


牙を剥いて悪魔は、ライトに飛びかかろうとした。しかし分断された上と下は悪魔の実態を切り裂き存在ごとを消し去った。


苦渋の言葉を残した悪魔は肌寒い鳥肌を残して消える。天使も同様に、羽を散らしてそこから姿を崩していくのだった。


ライトは、辺りを見回した。悪魔も天使も霧散した世界で大聖堂に降りつくライト。しかし全ての白が崩れたと同時に眩しい光に打ち付けられ、瞳はそれに耐えきれず閉じられてしまう。闇を克服できた青年は、既に仮もので塞いでいた心の穴をより強硬に固めて世界を見れるようになっていく。



◇◇◇



次にゆっくりと目を開いて映りこんだ景色は、変わらず大聖堂内の光が差し込む天井だった。それでもやはり、虚像の世界とは違った現実感がそこには実在していて次に映りこんだのはシルヴィアの顔だ。覗き込むようにして近づけられた口元は「心配かけさせんな」と動いて目線を細くさせられるのだった。


彼女なりに心配したのかもしれない。


「ごめんな」


彼女のスっーと真っ直ぐに通った髪を優しく撫でてライトは細々く笑った。すると、シルヴィアがしゃがみこんでいたのを立ち上がって急に怪訝そうにライトを見返す。


「君、私に軽々しく触れないでくれる?」


周りには他の6人もいる。みんな呆れて笑ってこちらを見ているのでライトは、脱力とともに身体を倒して腕で顔を覆った。


「ま、何事もなかったんだし良かったんじゃね?」


楽観的に発せられたエイジの一言にライトは、場の雰囲気を和ませる意味で彼にも感謝を伝えた。


「ありがとう」


そうして、一息ついたライトはアレンに問うのだった。術者の彼なら全てを知っているだろうと言う考えを巡らして。


「アレンさん、オレ本当はどうなったんですか?」


悪魔と天使の空間は壊れて、滅ぼされるはずの命はそこに繋がれたのだった。それでも当人は状況を見ていないので結果的にどうなったのかを知らないのである。


「単刀直入に言うと、お前は契約に失敗した。お前の中の何かが天使を拒み結果的に光が弾かれたんだよ。それで危険な状況の打破のために途中で契約をこちら側から断ち切ったという訳だ」


腰に手を当てて、頭をかいたアレンに賛同を示すように幹部の2人も頷いた。


「ライトは、何か他の人の契約時と異なったんだよ。光が弾けるような感じだった」


ルークが感想を述べてライトは、シルヴィアをちらりと見た。彼女が何かをやった訳では無いようで身バレ防止にもラッキーだったのかもしれない。


「まぁ、結局。契約が絶対なものではなくて実力さえあればなんでもいい。死なない力量さえ持っていれば協会側からはOKサインが出るってこと」


一通り説明したアレンは、トオリに引っ付かれていたシルヴィアに視線を向けた。あの状態を見せられた彼女の選択は1番に尊重すべきものとして優先されるべきものだからだ。


「どうする?お前はやってみるか?」


契約をしても失敗する人間は数多といる。それ事態は珍しくはない現象だ。だが、それでも見せられた失敗に怖気付くものもいれば弱気になる人間もいるのだ。


しかし、シルヴィアはここまでの筋道を呼んでライトに契約をさせていた。初めから断るのは不審がられるに決まっている。しかし、失敗談さえあれば話は別となってくるものだ。


これを好機と転じてシルヴィアは弱々しそうに表情を作った。苦笑いをそこには浮かべて。


「私は、遠慮しておきます。一応は自分の力に自信はありますし。もしもの時に足でまといなどにはならないので」


と、答えて逃げの道に進むのだった。

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