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Realizeー果てなき世界の物語ー  作者: 神木ひかり
第1章 腐敗した世界の魔女狩りは
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【15】少年と青年

少年時代の自分は弱かった。強く在りたくて、強いと信じていて。そうしなければやっていかれなかったから、どうしてもそう思うようにしていたのだ。だが、それは現実と向き合い簡単に砕け散った。虚しくも哀れに無力な少年は、ただ足掻いていたに過ぎなかったということである。それから頑張って。本当の強さを掴んで、痛みも苦しみも我慢し続けてやっと手にしたのが誰もが当たり前に持っていた自由だった。しかし、それでもまだダメだったのだと思う。


大切な大切な親友を亡くした。


あの時、乗り越えたと思っていても記憶には蓋がされていて視界が闇へと包まれることに恐怖を感じてしまうのは変わらない。また自分の目の前で。知らぬ間に、誰かが死んでいるのを目の当たりにしたらと思うと視界が闇に包まれるというのはそれだけで恐ろしいことで、いつの日か本能的に妖術を行使できなくなっていた。それが、実戦でも大きく目立ち始めたのが2年前の出来事からだった。


その時の記憶は、曖昧で明確なものは存在せず今覚えていることは単純だ。過呼吸を起こして意識を失った自分が、目が覚めた時にはシルヴィアがいて既にベッドに運ばれていた。それは、成長していない自分を見たようで心にひとつの障害物を築き上げたように感じた。



「では、ライトからお願いしましょうか」


響いたその声にアレンたちが頷き、自分も足を動かしていた。彼女に視線を向けると口を動かしてこう返してきた。


「大丈夫」


その後、脳内に流れ込んできた声を読み取りライトは魔法陣の上に立った。


「これは失敗する。でも無意識的にストッパーをかけているのであれば強制的にこじ開けてもらうのが最善だろう。悪魔と天使が顔を合わせば、その時点で肉体破壊を免れずそれは十字に捧げられることとなる。人間は死ぬと、どんな罪人でも同じ天界へと行くとされているからだ。しかし、悪魔との矛盾を抱えたものがそちらに行けばそれは契約違反となる。悪魔が当人の魂を喰らい、解放されそれはひとつの夜空を覆う剣となるから」


その言葉をライトは、知っていた。情景も鮮明に映されて契約の誓いを裏切った人間が崩壊した姿を確かに目の当たりにした。それは、衝撃的な景色で信じることは難しかったが。


「天使が降りてくる前のギリギリのところで私はストップをかける。君の身が粉砕する前に契約を中止させるからそちらの方は気にせずに。今は、ただあの悪魔との再会に備えて」


笑った唇は、ライトを真っ直ぐに向かせた。そうして光が差し込む中心地でアレンが手を挙げた。


「これより、契約の儀を行う。両者の決意あってこそここに成り立つ」


アレンがライトに拳をつき出し広げて唱える。囲むルークとケイティも、同時に挙手してそれに続くようにして唱えた。


「我、それを見届けるもの」


エイジが疑問に思ったことをトオリに小声で尋ねると、は?とでも言うように呆れた表情が送られてくる。


「何をしているんだ?」

「エイジもこれをやられたでしょう?天使を降ろすための神聖な儀式であり死傷者が出ないようにするための安全の儀式でしょう?」


そこでああと納得をしたエイジは、目線をライトに戻して思い出すように続けた。


「天使か……確かに、俺も6年前にやったわこれ。白い大きな翼を持った得体の知れない何かに包まれる感覚」


2人はそれぞれ現在トオリが17歳、エイジが16歳とまだまだ幼い。6年前と言うと彼らが10歳11歳の時点だ。エイジがポツリと続けたものにトオリは違和感を覚えるのだった。


あれ、天使って確か……


古い記憶を思い出すのは誰もが考えているよりも難しいものだ。それでも天使の姿を浮かべトオリは頭を横に捻った。


「契約者、了解の意を込めた拳をここに」


アレンに言われた指示通りに拳を前に突き出して広げた。それと同時に魔法陣が青く光り出す。目を見開いたライトを置いて、アレンが次の言葉を発した瞬間それが白い光へと変わるのだった。


「術者、ここに天使を降臨す」


眩しい光は一瞬に誰もが瞳を閉じたのだった。



◇◇◇



「ッ!!」


息が止まるような感覚に陥って咄嗟に開いた重いまぶた。辺りに滞るのは白い白い真っ白な空間。


「久シブリダナ」


背中をなぞるように寒気と共に襲った一言にライトは振り返った。顔なじみのソイツはひとつしかいない。


「あぁ。3年ぶりだよ、悪魔」


その声に反応するようにクククと口角を浮かべた黒モヤは飄々と宙を舞い以前と変わらぬ様子で話しかけてきた。


「オ前ノ心ガ、閉ジラレタト同時ニ矛盾ハ発生シタハズダッタ。シカシ、ナゼカ己ノチカラガ届カヌトコニオ前イタノダ」


コロコロと変えてくる表情にライトは変わらない悪魔を感じてそこに座り込んだ。


「なんでだろうな……何か、俺は特別らしい。前にもシルヴィアにそんなことを言われた」


魔女の名前を口にした時、悪魔は激しく憤慨し悔恨をその表情で顕にした。目じりが深く上がり口角は下がる。能面のような表情をしてグルングルンと宙を駆け巡った後ライトの正面に回り込んだ。


「アノ、魔女メ……」


静かに呟かれたその声をライトは聞くことはなくそのまま彼は挑戦的に悪魔を睨んだ。


「俺はお前と向き合うのを、警戒していた。だから、心の底でずっとお前と会いたくなかったんだと思う。俺の視界を奪ったお前に、他のものまで奪われるのではないかという怖気が真っ先に立ったんだと思う」


黒いモヤはそれを満足そうにウンウンと頷いた後急に口調を悪くし、ライトを糾弾し始めた。


「己ココ二閉ジコメラレテ、ナンモメリットガナイママ過ゴシテキタ。アリエン、早ク出シヤガレ」


その声は空間にこだまして、響き渡った。それを何を感じたのか素直に頷き真剣に語るライト。白い空間に光が届き、それが強いものへと変化していくことを彼らはまだ知らなかったのだが。


「出せない、と言った方が正しい。お前は俺からことを奪った。逆恨みに等しいその想いが蓋をしてお前にのしかかっているんだよ。契約は、対等に行われるべくして行われた。しかしこちらからの要望が、つまりゴーサインが出ない限りその天秤はまずの話に動かないんだろうな」


それを睨む悪魔は、悔しそうに顔を歪めている。ライトが言う事に間違いはないのだ。それも普段ならこの当人の心の弱さに入り込んで、心を歪ませ簡単に乗っ取ることが出来るのに何故かこの青年の身体には干渉できないのだ。


「普段ノ、己ナラ。今頃、モウ既ニオ前ヲ支配シテイルハズナノニ……」


悲しそうに今度は、目じりを大きく下げたその悪魔が嘆くように叫びを発した。それを聞き流しライトは続けた。


「俺は、自分の意思で蓋をしている。今日はそれを取るためにここに来たんだわ」


立ち上がったライトは、真っ白の変哲もないその空間に違和感を感じた。自分の所だけが照らされており本当はそこに光など存在しなかったからだ。


「光って、この空間入り込む場所あったか?」


その言葉に悪魔は大きく首を振り、笑って上下に揺れ動く。翻弄してくるその動きをライトは、華麗にスルーしてその光の先を眺めた。


「ソンナモノ、ナイゾ?バカカ。オマエ?」


眺めた光の先には、白い右翼が見え隠れして降りてこようとしていた。


「まさか、これが天使?」


その言葉に反応したかのように悪魔は飛び跳ね、有頂天に喜びを示した。それは、狂気を帯びて長年の蓄積されたものが発せられるように。


「マサカ、オ前ガココ二コレタリユウガコレダッタトハ……思イモヨラヌ好機トイウベキ」


右翼は、パサリト広がって羽を落として天使と化した。



◇◇◇



「光がない?」


ケイティが言った、その言葉にルークも眉を寄せたのだった。契約者は天使と結ばれ白く光を体内から放出する。それが、成功の証だからだ。だがその本来の姿が現れないのだ。


「契約は失敗しているということですか?」


しかし、組んで願うような両手に抑制を働かせる強い反発は感じられない。ルークもケイティもアレンを不安をその目に宿して見た。しかし、アレンはそのまま地に手を着いたまま話すことをせず黙ってそれを見守っていた。



シルヴィアだけが、その意味を知っていた。トオリもエイジもライトが悪魔を宿していることを知らない。だから、それを知っているのは彼女1人だけなのだ。悪魔と天使が交差しようとする時、闇が光を消して光が闇を消す。つまり、何も変化のない状況が作り出されるのだ。トオリとエイジが自分に視線を送ってきたので、シルヴィアは口に指を当てることで安心を示した。


ライトの身体から光がチラチラと見え始め、天使が優勢になった時点が危険の合図であるのだった。


いつの日も、己の弱さと向き合うことは大事な意味を持つものだ。見守ることは自分に似合わないのだがな。


そんなことを感じながらもシルヴィアは腕を組んで青年を見ていた。宙に浮き上がって瞳を閉じている青年はまだ穏やかにそこにいる。

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