第30話 最弱魔族転生 〜『略奪』スキルで異世界成り上がりでハーレム作ってやる〜(中編)
前回までのあらすじ。
オス! オラ、古部 林――じゃなかった。俺の名前はアル。
人畜無害でちょっとイケてるゴブリンだ!
ある日ちょっと頭のネジが緩くなったらしい聖女セレナと出会い、訳の分からない理由で勇者とやらを探す旅をすることになった俺は、幼馴染のゴブリン姉妹――ノアとクシィを引き連れゴブリンの森を飛び出すことに。
なんで勇者を探すかって? それは世界を滅ぼそうと企む魔王を倒すためだ!
世界を救おうとする使命感が俺を突き動かしたってやつだな!
つまり、俺達こそがジャスティスな訳だ。
そんなこんなで苦難の旅を始めて、はや七ヶ月。
俺達は勇者の情報を求めて各地をまわった。
東の大草原に勇者を名乗る男が居たと聞けば駆けつけ、なぜかケンタウロスとミノタウロスの戦争を回避してみたり。
北部大森林に伝説の武器があると聞いて行ってみれば、何でか犬系獣人と猫系獣人の諍いを止めてみたり……と、勇者のゆの字も見付からず、ぶっちゃけ本来の目的としては概ね無駄足に終わっているのが現状だ!
とは言え、勇者とやらを見つけることは出来ていないが、ケンタウロス(巨乳)やらミノタウロス(巨乳)やら各種獣人(巨乳)やらハーピー(虚乳)やらオーガ(巨乳)やらと、亜人やら魔族の女の子がいっぱい仲間になった。
世界を救うパーティメンバーが増えたことは、凄く良いことだな。
今日も俺達は、世界を救うべく旅を続ける!
以上、あらすじ終わり!
「――それで? お主ら、勇者伝説を求めてこんなところまで来た、と言うわけじゃな?」
岩を切り出して作られたような玉座に座るボンッキュッボンッのドラゴンの女王が、あきれたような視線で睨みつけてきた。
「ああ! 勇者は必ずドラゴンの王から洗礼を受けるものだと聞いてな。もしかしたら、と思ったんだ」
「ドラゴンの加護で不死になる、というやつかの……そんなもんはお伽話に決まっておろうに」
ドラゴンの女王が大きくため息を吐く。
「そもそもじゃ、今代の魔王すら行方が知れぬのに、それを倒す旅とはどういう理屈じゃ」
「え……? そうなの?」
しれっと衝撃の事実を知った。
思わずセレナのほうを見る。
「先代魔王が二〇年ほど前に死去して以来、人間の側では次の魔王は観測できておりません」
「……」
するってぇと、あれかい?
俺達は居るかも分からない魔王を倒すために、居るかも分からない勇者を探しているのかい??
「聞いてないよー!?」
「す、すいません……一般常識なので、ご理解されているとばかり……」
いや、確かに色々旅してきた先でも、あっちの村が魔物に襲われただの、あの国がどこそこの魔族と戦争になっただのって、各々バラバラに小競り合いをしてるんだなーって感じではあった。
どういう目的で戦ってるんだ? と疑問には思ってたけど、そもそも魔族に王が居なかったのか。
そら、バラバラだよね。
「私達の使命は勇者様を見つけ出し、また同時に世界を破滅に導く魔王も探し出すことなのです」
「て言うか、ちゃんと理解してないのアルだけなんだからね!」
「兄さん、女の子を増やすことばかり考えてるから……」
「うぐ……!」
セレナ、ノア、クシィの鋭い言葉が、胸に突き刺さる。
彼女らはパーティーの女の子が行く先々で増えることに、不満を抱いていらっしゃるのだ。
まぁ……けど、不満を抱くのは理解できる。
今や俺達のパーティーは、種族ばらばらに十八名にまで膨れ上がっているのだ。
夜のターン制バトルで、行動順が回ってくる頻度下がるもんね!
いやぁ…………正直、冗談を抜きにしても我ながら凄いと思うわ。
何でか知らないけど、行く先々で都合よく(?)トラブルに巻き込まれて、それを何とか解決すると女の子が増えるんだもの。
ナニコレ? 主人公補正? とか、最初は楽観的だったけど、ここまでくるとちょっと怖いレベル。
なんかの呪いじゃないだろうな?
「ふむ……興味本位で会ってはみたが……お主、ちょっとこっちを向け」
「え?」
ドラゴンの女王――地母龍ドラグノフ=アーク・スカイレイが、玉座から立ち上がり、俺の元まで歩み寄ってくる。
おぉ……威圧感が半端ねぇ……。
俺が小さいのを差し引いても、かなりデカい。一八〇センチはあるんじゃないだろうか?
そして何より胸がデカい。メロンというよりスイカだな、こりゃ。
いや、もちろん威圧感の正体はそんなサイズ的な理由だけじゃない。
これは明らかに捕食者を前にした獲物の気分だ。
生物として、絶対に勝てない存在だと本能が教えてくれる。
そんな上位存在が、俺の目を覗き込むように身をかがめ、その血のように真っ赤な目で見つめてきた。
思わず身震いする。
「ふむ……なるほどの……」
好意的な笑みを目の前で浮かべられ、生存本能が生殖本能を刺激した。
え!? まさか、今回もまたメンバー増えます?
「――ただの大うつけか……」
「ひどいッス!」
何かがご期待に添えなかったのか、興味を失ったとばかりに放られた。
「まぁ、良いわ。お主ら、勇者や魔王を探すのなら他所へ行け。どちらもワシの敵ではないし、今は興味も無い」
「承知いたしました。突然の来訪にも関わらず謁見の機会をお与えくださり、誠にありがとうございました」
(意外と)常識と教養のあるセレナが、慣れた様子で深々と頭を下げた。
こういう場においての彼女は、完璧な淑女のソレを見せる。
「――小僧、一つ忠告じゃ。力を求めるな。それはお主を不幸にするものじゃぞ」
「??」
「分からぬのなら良い。阿呆は阿呆のままが一番幸せよ。誰にとってもな」
妙な言葉だけを残し、謁見は終了となった。
「どうしましょうかー」
淑女モードの効果が切れたセレナが、これみよがしに密着してくる。
巨大な二つの果実が実に心地よい。
甘露甘露。天国モードに突入である。
「他に有力な勇者・魔王伝説と言えば、世界の中心である世界樹、勇者が神託を受けたという聖王国あたりでしょうか……勇者とフェンリルが戦ったという不毛の草原なども有名ですが……と言うか、セレナさんは兄さんから離れて下さい」
「アルも鼻の下をすぐ伸ばさない!」
クシィとノアに引き剥がされ、天国モードは開始七秒で終了した。
どうやら確率変動は無さそうだ。
「やれやれ……この調子で、本当に勇者やら魔王なんて見つかるのかね」
「きっと神様がお導きくださいます!」
ちょっと怖い笑顔で大丈夫だといわれると、途端にうさんくさい感じになるな。
まぁ、とはいったところで、
「……ここまで来たら、全部行くしかないか」
なーに、悪いことばかりじゃないさ。
まだ見ぬ異種族の女の子達と出会えるかもしれないしな。
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その後、まさか三年半もかけて世界各地を回ることになるとは思ってもみなかったが、俺達は世界中の勇者・魔王情報を求めて旅をした。
その間に、色々な人達に出会った。
獣人族の隠遁した王や、樹人族、ノーム、ドワーフ、ホビット、フェアリー、マーマン、悪魔族、天使族、人間……etc。
その度に色々なハプニングに見舞われつつも、謎の運? で、順調にパーティーメンバーや協力者を増やしながら、何とか旅を続けた。
その間に知ったこと、というか共通して魔族と呼ばれる者や亜人の一部が口にしていたのは、魔王軍の召集があれば抗えないという話だった。
どうにも魔王には魔族――何故か亜人にも――に対する絶対命令権でもあるらしい。
今代の魔王とやらは、それを行使せず隠遁しているのではないかというのが通説だった。
平和主義者なのか何なのかは分からないが、俺達の旅は無意味なものに終わるのかもしれない。
魔王が世に出るつもりが無いのであれば、そもそもの問題も解決だろう。
しかし、もう回れるところも殆ど無くなった――旅も終わりに近付いたことを肌で感じ始めた頃合いに、俺達は不穏な噂を耳にすることになる。
この世界の始まりの聖地――エルフ達の守る世界樹の森を訪れた際のことだ。
そこは想像に違わぬ、如何にもファンタジーしていますという雰囲気の森で、森の守護者であるエルフが守る――まさに聖域だった。
そこでエルフのお姫様を助けたり、エルフと仲の悪いドワーフとの仲介をしたりと順調にイベントを進め、ついに勇者や魔王という仕組みそのものを研究しているエルフの長老から、話を聞けることになった時のことだ。
「――ところで、最近流れている噂を知っているかね? 今代の魔王はハーレムを作っているゴブリンらしい、と」
ナイスミドルなイケメン――エルフの長老が、超重要情報を教えてくれたのだ。
「え……? ゴブリンって、最弱で戦うの嫌いだから森に引きこもってる超絶弱小亜人の? あのゴブリンですか?」
「ゴブリンである君が言うのかね?」
まぁ……否定しようもない事実だからな。
「て言うか、あんなチビっこい種族にハーレムなんて作れないでしょ!」
あははは、と笑う俺を――何故か、全員が真顔で見詰めてきた。
「いやー、冗談キツいッスよー」
「……」
……うん。大丈夫。流石に分かってる。
ちょっと現実逃避してた。
「……何で、そんな荒唐無稽な噂が?」
「少なくとも、各種亜人や魔族――つまるところ、魔王が引き連れているべき者達を従えているのは事実だ」
それにしたって……いや、一応別人の可能性もあるのではないか? と藁にもすがる想いで問いかける。
まさか、俺のことじゃないですよね? と。
無論、返ってきた答えは、
「いいや、残念ながら今代の魔王は君だ。少なくとも世間はそういう形に決めたらしい。既に討伐命令が幾つもの国で出ているようだね」
「決めたって……そんな……」
こうして俺達の『勇者と魔王を探す愉快な旅』は終わりを迎え……逃亡劇が始まった。
次話あたりからは、いつも通りの流れになっていきます。
応援のほど、何卒宜しくお願いいたします!