第29話 最弱魔族転生 〜『略奪』スキルで異世界成り上がりでハーレム作ってやる〜(前編)
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俺の名前は古部林太郎。21歳の大学生。
特徴がないのが特徴の、極々平凡で人畜無害な平均的男子だ。
しかしある日、深夜バイト終わりの帰り道で居眠り運転のトラックにはねられてしまった。
薄れていく意識の中、死を確信した俺は気付けばどこか白い場所に――
「――うぎゃあああぁあぁぁ! 死んじゃうぅぅぅ!」
と、そんな前世をさっき思い出したゴブリンが俺だ。
本当ならこのタイミングで『すわ異世界転生物か』なんて感動する場面のはずなのだが、残念ながらそんな暇はまったく無い。
何故かといえば――異世界の森の中、俺は現在進行形でモンスターに追いかけられているからだ!
体感的には死んで蘇って、またすぐ死にそうな感じになっていて大混乱している!
「誰かぁぁ! 助けてくれぇぇ!」
後ろを振り返ると、俺の三倍はあろうかという巨大なクモが、八本の脚をガサガサと蠢かせながら気持ち悪い感じに追いかけてきている。
ゴブリンとしての記憶から、あれがジャイアントタランチュラなるベタベタな名前のモンスターだというのは分かるが、弱点やらは一切分からない。
精々理解できるのは、真っ向勝負じゃ絶対に勝てないし、捕まったら食われるってことくらいだ。
紛うことなき大ピンチである。
「ぎゃあぁぁ――……え?」
どうにも前方不注意なまま逃げ回っていたのが良くなかったらしい。
不意に重力の支配から解放される。
いわゆる無重力状態だ。
下を見る。
崖だ。断崖絶壁だ。
そして、ヤバいことに俺は既に飛び出している。
「のおぉぉぉぉぉ!?」
一瞬の浮遊感が終わると、重力ちゃん(ヤンデレ)がもう離さない、といわんばかりに愛の告白をしてきた。
結論:自由落下運動
公式は思い出せなかった。
義務教育の敗北である。
「ウギャァァァ!」
『キシャァァー!』
二度目の死を目の前にして、さっきから叫んでばかりだなとか、崖の下も森かよとか、クモも一緒に落ちてんじゃねぇかよとか、下の森でも誰か襲われてるじゃんとか、本当にどうでも良いことが頭をよぎっていく。
「――って……下の人避けてぇぇぇぇ!」
「……ッ!?」
木の枝やらをクッションにしつつ、それでも殺しきれなかった勢いのまま真下に居た人物めがけてダイブした。
「痛ぇ……ッ」
「ぐ、うぅ……」
衝突の衝撃で、目の前に無数の星がチカチカとび交う。
まず間違いなく幻覚だろうが、そんな気分なのは間違いない。
「ハッ……! クモは!?」
身の危険を思い出し、とっさに後ろを振り返る。
するとそこには、二体のモンスター――樹の化物とクモが衝突した衝撃のせいか糸やら枝やらが絡みあって身動きが取れない状態になっていた。
何て幸運! 絶体絶命のピンチが一気に解消されたぞ!
「おっとイカン……」
危険が去ったことに安心したお蔭で、真下に居た人物をクッションにしてしまったのを思い出す。
自分の下敷きになっている人物に怪我がないか、今更ながら確認。
内心、死んでいたりしないか心配したが、気を失っているだけで身体に大きな問題はなさそうだった。
むしろ問題になりそうなのは――
「人間、かぁ……」
相手の種族に大きな問題があった。
パッと見、二十歳前後の若い女性だ。
格好から判断するに、恐らくは女騎士というやつだろう。
そんなものが実在するとは思わなかったけど、ブレストプレートと剣で武装している実物が自分の下敷きになっている。
うん。とりあえず、どこうか。
「ヤバいよなぁ……」
目が覚めたら、襲撃犯として殺されそうな予感がヒシヒシとした。
とりあえず、武装解除として剣を拝借する。
ついでに身動きのとれない二体のモンスター――下敷きになったトレントと、頭上からぶつかったクモを、借りた剣でサクッと倒してしまう。
テレレレッテッテー! と脳内でレベルが上がった幻聴が聞こえた。
うーむ、心なしか本当に強くなった気分。
存在進化でもしてしまいそう。
――などと、現実逃避をしている場合ではなかった。
どうにかして、女騎士に下劣なゴブリンとして討伐されない方法を考えなければ……。
「くそぉ……マジどうしようぅ……」
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数日後……。
「ところがどっこい生きている!」
「……急に叫んで、どうしたのです?」
「いやいや、何でもないです」
結論からいうと、俺は女騎士に殺されるどころか、モンスターに襲われているところを助けてくれた良いゴブリンとして感謝された。
多分、不慮の事故の衝撃で記憶が一部飛んだ結果だろう。
マジで運が良かった!
なんせ彼女――セレナは世界に三人しか居ない聖女の一人で、伝説の勇者を探し出し、この世を滅ぼそうとしている魔王を討伐せよ、なんて教会からの無茶ぶりを嬉々として受ける狂信者さまなのだ!
たまたまゴブリンは人間と敵対していない亜人枠で、俺がモンスターを倒した恩人だと思い込んでいるからこそ命があるのだ。
彼女を上空から襲撃した犯人だと勘違いなんてされた日には、きっと真っ二つにされるに違いない。
空から降ってきた結果として襲いかかってしまったのは、勘違いじゃないがな!
「叫んだと思ったら、今度は思いつめた顔で……どうしたのです? どこか具合が悪いのですか?」
「ちょっ……」
俺のオデコに自分のオデコを合わせて熱を計ってくる聖女様。
超絶至近距離に思わず戸惑った。
整った顔が目と鼻の先にある。
さらさらとした金髪が頬を撫で、良い香りが鼻孔をくすぐり、密着状態なせいでたわわに実った胸が押し付けられてくる。
素晴らしい状況だ! と、普通なら思うだろう。
これ絶対に俺に惚れてるよね? と、普段なら考えている。
ラッキースケベな主人公なら、既に押し倒しているはずだ。
だが、ちょっと冷静になってほしい。
どう考えてもおかしいと、お分かりだろうか?
命の恩人だとかそういう次元を超えた好意だろう。
ぶっちゃけゴブリンに惚れる聖女――しかも美人――なんて居るのか? とも思う。
最初は何かの罠か、すわ美人局か、と疑った。
しかし、俺に読心術なんてものは無いことを差し引いても、これはどうやら本気の好意のように思えた。
そして、俺は一つの結論に思い至る。
頭の打ちどころが悪かったのではないか、と。
そう気付いてしまうと、モテ期でウハウハとか据え膳がどうのという気分にもなれず、妙に冷めてしまう自分を見付けてしまった。
通算二度の人生において初めてモテているというのに……勿体無い。
「ちょっと! 距離が近すぎるんじゃないの!?」
おっと……こっちを忘れていた。
背後からの罵倒に、密着状態を解除する。
「もう……良いところだったのに、ノアさん酷いです」
「何が良いところなのよ! ぽっと出のくせに、アルに近づかないでよね!」
振り返ると、身長一三〇センチほど、肌がやや緑色で小さな角の生えたツインテール美少女が、頬を膨らませプリプリとしていた。
うん……まぁ、どう見ても同族のゴブリンである。
というか、今世における幼馴染様である。
なお、説明するまでもなくアルというイカした名前は、俺の名前だ。
「隙あらば抱きつこうとしないでよね! アルは私の婚約者なんだから!」
「独り占めしないでくださいー」
両側から抱きつかれる素晴らしい環境である。
「姉さんも勝手に抱きつかないで……」
更に後ろからノアの妹であるクシィが参戦した。
混迷を極めつつある状況に、色々と考えるのが馬鹿らしくなってきた。
訳が分からなすぎて、自分のことなのに着いていけなくなりつつあるな。
ちょっと状況を整理してみよう。
ある日、モンスターに襲われているところを颯爽と助けた格好良いゴブリン(俺)に惚れた聖女様が、『アナタこそ私と一緒に勇者を探す運命の人です!』と、ちょっとヤバい表情で言ってきたのが数日前のことである。
逆らうと物理的にも精神的にもヤバそうだったので、渋々――実際はちょっと異世界転生物な展開に期待しつつ――彼女の旅に同行することにしたら、幼馴染姉妹に引き止められたりバトルがあったり、最終的に同行することになったのが一昨日の話だ。
ちなみにバトルの時に、クモの糸やらトレントの再生力やらが使えるようになっているのに気付いた。
セレナが恍惚とした感じに『やはり勇者の仲間たる戦士の力!』などと勝手に言っていたが、原因は不明である。
いわゆる転生ボーナスというやつだろうか?
「ちょっと離れなさいよ!」
「そっちこそですよー」
「二人とも離れれば良い……」
やんややんやと俺を取り合う女子三人。
三人よれば姦しいだったっけ? 文殊の知恵?
うーん、まぁ、何でも良いか。
正直、異世界転生して可愛い女の子にチヤホヤされて、訳の分からない展開だが、何かスゲー楽しそうな予感しかしないので何でも良しだ!
こんなに主人公感ある日々を楽しまない手は無いな!
いっそこのままハーレムでも作ってみるか!
俺は自分の素晴らしいアイディアに、輝かしい未来が幕を開けたと確信した。
いつも拙作を応援いただき、誠にありがとうございます。
まず以って、間違えて別作品や新連載に迷い込んだ訳ではないことを、ご報告させて頂きます。
暫く(数話ほど)典型的ななろうストーリーにて、過去話を展開させていきますが、最後までお読み頂ければ納得の展開になるかと思っております!
それでは、感想などなど心よりお待ちしております!!




