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第11話 ご令嬢は山脈がお嫌い



 龍族(ドラゴン)の領域は、その面積の八割ほどを火山地帯が占めている。


 端的に一言で説明するならば、辺境だ。

 知性ある種族の大半が、概ね永住したいとは思わないような地域とも表現できる。

 つまるところ、田舎である。


 最強の種と呼ばれる龍族が、何故そのような辺鄙(へんぴ)な場所に居を構えるのか。


 無論、それには幾つかの理由がある。


 最も合理的な理由を最初に挙げるならば、他種族に攻め込まる危険性が減るからだろう。

 起伏の激しい地形は、空を飛べない種族には攻めづらく、空を飛べる龍族には守りやすい。


 更に言えば、誰も苦労してまで手に入れたいと思えない場所であるのも大きい。


 故に、龍族の精強さも相まって、この数百年で侵攻を受けたことは唯の一度も無い。


「ふぅ……」


 そしてもう一つ、恐らく龍族にとって最も重要な理由がある。


 龍族は如何に魔法的生物であるとは言え、基本は爬虫類――変温動物なのだ。

 体温調整をある程度ではあるが、外部に頼る習性がある。


 つまり――


「――実に、良い湯ですわ!」

「その通り! 温泉は最高なのじゃ!」


 火山有るところに温泉有り。

 温泉有るところに龍族有り。


 温泉が大好きな種族なのである。




「お主と一緒でなければ、もっと良いのじゃがな……」

「ひどい言い草ですわね……女の子同士なのですから、取って喰いはしませんわ」

「ならば、まずはその怖い目をやめるのじゃ……」


 明らかに捕食対象を見る目をしているのだが、本人は知る由もない。


「絶対に取って喰う気じゃろ……」

「おほほ! 何のことだかサッパリですわね」


 令嬢は普段ストレートな反面、何かを誤魔化す時に胡散臭さが隠し切れない性分であった。




『――おー……中々、風情のある露天風呂じゃないか……』

『左様でございますね』


 女子二人が戯れていると、入り口の方向から男の声が二つ聞こえてくる。


「流石は地獄の火山地帯と呼ばれるだけあって、湯温もなかなか良い、塩梅、に……」


 湯を掻き分け、風呂の中心へと移動する魔王の歩みが、そこだけ凍りついたかのように止まった。


「――アナタ、ちゃんと体を洗ってから湯船に入りましたの?」


 一瞬の静寂。


 そして、魔王の悲鳴があがった。


「ちょっと待てい! こ、混浴なのか!?」

「龍族は男女どちらでもあるからの。男女別の風呂に入る風習なんぞ無いのじゃ」

「そんなの初耳だぞ!」


 魔王は盛大に慌てふためき、湯の中に隠れるようにしゃがみこむ。

 まるで乙女のような反応であった。


「誰もお主の貧相な物なんぞ興味無いから、大人しくしてるのじゃ」

「貴様は兎も角、令嬢が居るだろう!」

「別にアナタの裸に興味はありませんので、ご安心を」

「貴様は貴様で、前を隠さんか!」

「あら……気になりますの? 案外小さいのですわね」


 堂々とした態度で胸を張る令嬢を、包み隠す物は何も無い。

 常日頃からストレートな分、こういった場面では少々残念な一面があった。


「小さっ……お前の平野よりはマシだ!」

「――平野? 何の話ですの? 私は器の話を……」


 一瞬の間。


 そして、言葉の意味をその胸に聞くまでもなく気付く令嬢。


 火山地帯に季節外れの血の雨が降ったことは、説明するまでも無いだろう。


「折角の温泉を汚すでないぞー」






「何で、俺達はこんなところに居るんだ……まるで地獄だぞ」


 傷に効能がある温泉故か、それとも自動回復の性能故か、ほぼ死体同然の傷があっという間に癒えた魔王は、ぶつくさと言いながら湯に浸かっていた。


「龍族の王から親好の証として誘われた以上は、致し方ないかと」

「そういう問題では無くてだな……」


 この世界は、魔王の中の一般常識からすると、男女の恥じらいに関する概念が薄かった。


 禁欲を善しとするような宗教が発展しなかったことが、理由としては大きい。

 また、知的種族があまりにも多く、各種族毎の風習が入り乱れすぎていることも要因であろう。


 一言で言えば、固定観念に囚われ過ぎると無駄に驚く羽目になる。

 常識など、その時や場所によって変化するものに過ぎないのだ。


 それを誰もが理解しているに過ぎない。


「こういうのは、どうしても慣れん……」

「――何のことですの?」

「お、おい! そこの岩からこっちに近付くなと言っただろう!」

「誰もアナタの裸を気にはしないと言っているでしょうに」

「俺が気にするんだ!」


 魔王も年若い雄であり、美少女に分類される令嬢の裸に――胸の大きさは兎も角として――何も感じない訳ではない。


 むしろ、油断するとついつい目で追ってしまいそうで、後が怖いと認識している。

 具体的には、後日強請(ゆす)りたかりの類に遭うのではないかと危惧していた。


「まったく……」


 無論、半分は強がりに起因する歪んだ認識に過ぎない。

 実際のところは、純粋に恥ずかしがっているだけだ。


「逆に聞くが……貴様は、恥ずかしくないのか」

「何を恥ずかしがれと? 我が人生に隠すものなど何も無いですわ!」


 言葉の通り、堂々と、何も隠すことなく、胸を張り腕を組む令嬢。


 その姿は一見すると変――破廉恥な姿であるが、清々しいまでに令嬢の気風を表していた。


「――()()()、いつも真っ直ぐだな……羨ましくなるよ」

「アナタは、いつも自分を押し殺していますのね」


 いつ如何なる時も、凛とした姿勢で令嬢は相手を見据える。


 人類を害すると宣言した時ですらも、そうだったように。


「ふっ……俺は――魔王だぞ」

「裸で言っても、締まりませんわよ」


「貴様もな……」


 地獄と呼ばれる火山地帯に男女の笑い声が響いた。




「やれやれ……ヒヨッ子同士お似合いじゃのぉ」






小説家になろう様の仕様が変更になり、ポイント評価が最新話以外でも出来るようになりました。

是非ともお気軽にお試し頂ければと思います(露骨なマーケティング)


何卒! 清き一票を!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王が男の私から見てもかわいいですね。 器の小ささと平野の話はめちゃ笑いました。www それから竜の設定が興味深いです!
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