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第10話 ご令嬢は可愛いものがお好き(真成編)




「それで……? 改めて聞くが、ワシに何の用じゃ?」


「それは俺から話すべきなのだろうな……」


 未だ納得していない魔王ではあったが、上に立つ者としての常識から、行動を余儀なくされる。


「端的に言おう。貴様ら龍族(ドラゴン)との同盟を強化したい」


 実態はどうであれ、極々民主的なプロセスを以って決定した方針である以上、従う他に道は無かった。


 如何に魔王といえど――むしろ、国の秩序を守る必要がある身分であるが故に、ルールから逸れることは出来ない。

 その実態が、自分自身以外の独裁者が敷いたレールであろうともだ。


「具体的に、どのような強化をするのじゃ?」

「不可侵条約だけではなく、軍事同盟を結びたい」


 その提案に、地母龍は不思議そうな表情を浮かべた。 

 率直に表現するなら、阿呆を見る顔とも言い換えられる。


「ワシらに何のメリットがあるのじゃ? ワシらはお主らと違って人間共と戦争はしておらん。わざわざ参戦するメリットが無かろうに」


 魔王は内心で大きなため息を吐く。

 誰がどう考えても、その結論になるだろうことが分かりきっていた。

 そして、分かってしまうが故に、これを覆す方策を持ち合わせていなかったのだ。


「その点に関しては、私から説明いたしますわ」

「ふむ……と言うことは、お主が黒幕か」

「黒幕という表現は、語弊がありそうですわね」


 どこに語弊があるんだ、と魔王は叫びたかったが、魔族最高峰の忍耐力と精神力で以って、慎み深くも唇を噛みしめるに留めた。


「率直に私の予想をお伝えしましょう。早晩、このままでは魔族と人間の戦争は誰にも止められなくなりますわ」

「その根拠は何なのじゃ?」

「憎しみ、もしくは歪んだ正義ですわね」

「正義……じゃと? 戦争にそんなものは関係無かろうて」


 この場に居る者は皆が知識階級であり、戦争は交渉ないしは経済活動の延長にある――可能な限り避けるべきもの、と認識している。


 彼等の常識に照らし合わせると、正義という単語は悪い冗談にしか聞こえなかった。


「戦死者数は年々増えており、後先を考えているのかすら分からない状況。無数の悲しみが連鎖的に憎しみを生む状況ですわよ」

「民はそれが当然じゃろうて。だが、為政者はそうでは無かろう?」


 念のため確認するかのように――半ば縋るような気分で、地母龍は口を開く。


「人間の王族を見てきた身として断言いたしますわ。正常な判断など出来ていないと。争いに正義だのを持ち込み始めた以上、もう行き着くところまで行きますわよ」


 その時にはきっと、誰も彼もが泥沼に首までつかって抜け出せなくなる。


「賭けても良いですわ。いずれ……致命的なタイミングになってから、必ず全ての種族が他人事ではなくなると」


 戦争を始めるのは簡単だ。

 どちらか一方が殴り付ければ良い。


 だが、戦争を終わらせるのは至難の(わざ)となる。

 当然のことながら双方の合意が必要なのだ。

 さもなくば、根絶やしにするしかない。


 この場に居る全員が、その程度の答えには簡単に行き着く。

 故に揃って同じ表情を作るしかない。


 それは、沈痛な……絶望一歩手前の表情。


「――お主は何がしたいのじゃ?」

「人間を除く全ての種による大連合を。最早、暴走し続ける人間を止めるには、これしか有りませんわ」


 状況が複雑に入り乱れてからでは遅い、と令嬢は訴える。


「人間であるお主が、人間を滅ぼすつもりか?」

「人間を真に滅ぼさないため、人間である私が殴りつけてみせますの」


 悲壮な……覚悟ある言葉とは裏腹に、令嬢は凛とした姿勢のまま地母龍を見つめる。


「ふ…………はっはっはっはっは! よぅ大言を吐いたの。狂人の類かと思いきや、もっと性質(たち)が悪いとは!」

「返答は如何に?」

「良かろ……と、言いたいが暫し時間を寄越すのじゃ。ワシとて、便宜上とは言え民を預かる身。調整に時間が必要じゃ」

「承知いたしましたわ。良いお返事を期待しております」


 こうして歴史の分岐点となる会談は終――


「あぁ……狼の。お主には話があるのじゃ。ちょいと顔を貸せ」





----





「お主……何を企んでおる?」


 地母龍は開口一番、端的に過ぎる疑問を口にする。


「ご想像の通りかと……試みの方向性は以前と同じはずです」

「それにしては、随分と過激な方策じゃの?」

「その件に関しては……いえ、現状私は何も出来ていません。むしろ彼女が主導権を握っています。私はそれに便乗しているに過ぎないのです」


 その言葉に、地母龍は目を輝かせた。


「独創的じゃな。なるほどのぉ……その能力を以って、人間と戦う。なるほど、ルールの裏をかく反則技じゃな」

「恐らく、気付いていないものかと」

「あれが素か……末恐ろしいのじゃ」

「元勇者としては、どうご覧になりますか?」

「止めよ、昔のことを言うな」


 元人間の救済者は、げんなりとした様子を見せる。


「見よ、この愚か者の姿を。かつての魔王を喰らい、魔王と勇者の両方の力を得ようと失敗した者の呪われし姿だ。ドラゴンにも成りきれず、かと言って最早人間でも無い……死ぬことも出来ない半端者よ」


 かつて龍族出身の魔王が居た時代の話である。

 もはや数千年前の滅んだ文明のことであり、覚えている者は当時から生き延びている極少数の人外のみだった。


「狼の。本音で聞かせろ。どういう魂胆でいる?」

「悪夢を終わらせるため、今少し足掻いてみるつもりです」

「そうかそうか……牙抜かれたかと思っておったが、相変わらずか」

「人はそう簡単には変われません」

「そう、じゃな……ワシも同じか」



 ――こうして歴史の分岐点となる会談は終了した。


 後の歴史書にはこう記されている。


 龍族が魔族に与し、世界のバランスが一変した日である、と。


 だが、実態はそれだけではない。


 歴史が語らない――世界救済の戦いが始まった日となったのである。






◯◯編は、某FFのバハです。


ご感想等を心よりお待ちしております。

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