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第8話 ご令嬢は可愛いものがお好き(邂逅編)



 ――可愛い。


 この世には、その言葉で表現されるものが数多存在している。


 アクセサリー、ぬいぐるみ、小動物、果ては食べ物ですら可愛いの対象になることもある。

 可愛いとは正義であり、概ねの女性が好むもの、とも認識されている。


 これらの事実から導き出される仮説が一つ。


 この世のありとあらゆる物質や概念には、可愛いという属性が付与(エンチャント)できる余地があるのではないか、と。


「まぁ、本当に可愛らしいですわ!」

「ぬ、ぬぐぅ……お、おい! お主やめんか!」


 そして無論、如何に合理性(悪神)を信仰する令嬢とて、年頃の女子である。


 むしろ神の信徒であるからこそ、エンチャント(神の祝福)ができる可能性すらあった。


魔王(ひよっこ)よ! 見ておらんで止めるのじゃ! お主の連れであろう!」

「はっはっは! 貴様がそんなに弱っているのを見るのは初めてだぞ、気分が良いな」


 銀髪赤眼の色黒な美幼女が、金髪縦ロールの美少女に抱き締められる姿は一見すると微笑ましい。


 だが、魔王の抱く愉悦はそういった類のものでは無かった。


「狼の! お主でも構わん! ワシとお主の仲じゃろう! 助けよ!」

「遺憾ながら不可能です」

「嫌がっている姿も可愛いですわー!」

「ぬがー! やめよー! 精霊の影が! 濃い! 濃すぎる! お主、本当に人間か!? 力が抜けるのじゃー!」


 如何に数千年を生きるドラゴンとて、少女の姿をしているのであれば、十二分に可愛いの対象となり得るのだ。


「はーなーせー!」





----





 ――遡ること数日前。


 魔王城大会議室。

 第一回魔族連合国軍幹部会。


「――まず以って、航空戦力の拡充が必要ですわ」


 開口一番、令嬢が議題を提示した。


 魔王城においては、令嬢が自由気ままに居ることを疑問視する者が居なくなって久しい。


 しかし、国家の中枢とも言える場で、野放図に発言が許容されるのかと言えば話は違ってくる。

 そもそも国軍の最高幹部会において、何故人質の少女が同席しているのか、と糾弾されてもおかしくは無いだろう。


 実態としては、誰もそんなことを考えていないとしても、常識としてはそうである。


「一応、確認なんだが……この書類は何だ?」


 軍部の最高指揮官である魔王は、配布された資料に疑問を抱く。


「何か、書式が間違っていまして? 所定の様式に則って記載したつもりですわよ?」


 その言葉に、魔王は書面を眺めてみる。

 一見して、おかしな部分は見当たらなかった。

 むしろ完璧な資料である。


 だが、勿論のことながら、魔王が口にしたいことはそういう事では無い。


「そうじゃなくてだな……何故、貴様がここに居る――と言うか、何故議題を出しているんだ」


 魔王は極常識的な発想で以って、疑問を抱いた。


 半ば脅迫的に、令嬢の意見によって国軍の設立を果たしまでは良い――いや、良くは無いが、あくまでも第三者の意見を取り入れたとも表現が出来る。


 だが、その運営や運用にまで口を出されては、第三者の範疇を超えるだろう、と。

 それは主権国家の国軍においては、その存在理由すら揺るぎかねない事態である。


 というか、こいつにこれ以上好き勝手にされるとヤバイ、と魔王は本能的に察していた。


 その考えは至極真っ当であり、概ねにおいて正解だった。

 しかし、残念なことに致命的に遅かった。


「……アナタ、今さら何をおっしゃっていますの?」

「何をって……俺は普通のことをだな――」

「――宰相殿、私のこの場における立場は何ですの?」

「はっ。現在、魔族連合国軍参謀本部総長としてご出席されておいでです」

「なん……だと……?」


 魔王にとって、寝耳に水とは正にこのことだった。

 何故、国家元首である自分が与り知らぬところで、このような危険な人事が発令されているのか、全く理解が出来なかった。


「馬鹿な! 俺は聞いておらんぞ!」

「いえ、魔王様……確かに書類に押印頂いております」

「いつだ!」

「国軍設立後、反乱鎮圧時には既に頂戴しております」

「……思っていたより、かなり前の話だな。記憶には……無い、が」

「当時は国軍設立や、緊急動員等で慌ただしかったので、致し方が無いことかと」


 決裁する案件が多すぎて、ポンポンと押印していた時期であった。

 よく読まずに押した可能性があるな、という考えに思い至ると、魔王は青黒い肌の顔面を更に青くした。


 無論そういった時期を狙い、更にはまだ影も形も無い――部隊への指揮権すら持たない参謀本部なる組織の長に任ずる、という目立たない書類を紛れ込ませたのは、獣人宰相と令嬢の二人であった。


「ご納得頂けたかしら?」

「ぐ……ぬ……理解は、した」


 納得は絶対にしていない顔で、魔王は渋々ながらも頷く。


「他に、ご納得頂けない方はいらっしゃるかしら?」


 会議参加者――主に各族長からなる軍部関係者は、全員が無言のまま首を横に振る。


 その心境は、滅相もございません、と表現するのが最も適切であろう。


「それでは、議題に戻らせて頂きますわ。まず第一に航空戦力の重要性と優位性から――」




 会議のその後について、令嬢の独壇場であったことは説明するまでも無いだろう。


 ほぼ満場一致により、現在不可侵条約を結んでいるドラゴンと強固な軍事同盟を改めて結ぶべし、という結論に至った。


 魔王を含む少数精鋭の使節団が行動を開始したのはその翌日のことであり、最早事前に準備がされていたとしか思えない周到さに、魔王は深くため息を吐いたという。





 この日この時より、魔族連合国軍は独裁者の手に委ねられた、と後の歴史書は語る。


 だが、当事者達に言わせれば、とっくの昔に誰も逆らえなかったのだ、と弁明するであろう。





人生初の、のじゃロリです。

書いていて楽しいのですが、脳の新しいチャクラが開いた気がします。


もし少しでもお気に召されましたら、是非とも感想やブクマや評価をお願いいたします!

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