表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

5.自問

大聖堂を出ると、既にボルドー家の儀礼用の馬車が停めてある。


御者台にはポールが、ワゴンの中には誰も乗っていないようだ。


カイルは一つため息をつき、颯爽と乗り込む。

洗礼に来ていた子どもやその保護者、街中の人々が、大きな歓声を上げている。


馬車は、流れるように走り出す。


カイルは車窓から手を振って、領民の歓声に応えた。


(あの娘たちには、悪いことをしたな)


ちょっとした約束さえも果たさずに、王都へ向かわなければならない我が身を、カイルは浅ましく感じた。


洗礼の瞬間、カイルは自分の耳を疑った。


おそらく、我々が「神」と呼ぶ存在が、光となって現れ、≪勇者≫と≪魔王≫の誕生を告げたのだ。


その後は、神の声というより、神の意識に同化したような気がした。


≪勇者≫と≪魔王≫は不可分の存在で、この世界のどこかで、まるで双子のように≪魔王≫が生まれたという。


(なぜ、そのような仕組みを作ったのだろうか?)


(なぜ、私が≪勇者≫なのだろうか?)


カイルは揺れる馬車の中で考える。

しかし、答えは出ない。


さらには、自らを心身共に鍛え上げ、最強の武具を身に纏い、≪魔王≫と戦わねばならぬと告げられた。


伝説にあるような仲間集めは必要ないようだが、最強の武具というものが、厄介だ。


(王都で情報を集めねばならないだろう)


カイルは、今後について、一応の方針を固めた。


***


馬車は王都に入り、王宮に向かう。


現王クロムウェルは、かなり派手好みだと言うのが世間の認識だ。


確かに、王宮も庭園も豪奢に作り上げられている。


ポールが衛兵に告げる。

「この度、ボルドー辺境伯のご子息、カイル様が≪勇者≫の称号を授けられた。クロムウェル国王にご挨拶を申し上げるために馳せ参じた。通行を許可いただきたい」


「な、≪勇者≫と? わかりました。すぐにお取り次ぎいたします」


衛兵の一人が、王宮へ走る。


しばらくして通行が許可され、カイルは王宮の中へ入って行った。


玉座に座っていたのは、ふくよかな体格をした白髪、白い髭をたくわえた男性だった。


横には苦虫を噛み潰したような顔をしている、侍従が控えている。


「おお、カイル殿。そなたが来るのを待っておったぞ。その昔、伝説の≪勇者≫アリスは、光の剣、光の盾、光の鎧を探し、この世界を乗っ取ろうとした≪魔王≫を封じ込めたという。しかし、≪勇者≫の誕生は≪魔王≫の復活を示す。このままでは世界は闇に飲み込まれ、やがて滅んでしまうことだろう」


「はい。」


「勇者カイルよ! どうか≪魔王≫を倒してくれ! わしらには何もできぬが、わしからの贈り物じゃ! そこにある箱を開けるがよい。そなたの役に立つ物が入っておるはずじゃ」


カイルは一つ目の箱を開けた。


錆びた剣、錆びた盾、錆びた鎧が入っていた。


「それは、≪勇者≫アリスの装備だと伝えられている。隣の箱は、通行許可証じゃ。500年前に、この世界のあらゆる国が統一して作ったらしい。これで、カイル殿はいずれの国でも通行ができるだろう」


二つ目の箱を開けると、書状を入れる筒が入っていた。

念のために、中身を確認したが、確かに各国の言葉でかかれた通行証のようだ。


「お気遣いありがとうございます。一度、自宅へ戻り、準備を整えて旅に出ようと思います」


「あいわかった。くれぐれも気をつけてくれ≪勇者≫カイル。」


「もったいないお言葉、恐悦でございます」

が、がんばってみます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ