3.友だちになりたい
父タイゼンの気持ちもわかる。
荒れた領土を丸投げされ、一代で築き上げたこの辺境の地を、他人に任せるようなことはしたくないはずだ。
「カイル、いよいよだな。気をつけて行ってきなさい」
落ち着いたふりをしているが、心中穏やかではないはずだ。
「はい。行って参ります」
***
執事のポールに先導され、屋敷の玄関を出る。
いつもは使わない儀礼用の馬車を使用人たちが磨いている。
タイゼンが、後継者指名の挨拶に王都に向かうために準備をさせていた。
大聖堂には徒歩で向かう。
途中、ポールの報告によると、ゼイムスは捕まり、アカン町から両親が領都へ向かっているらしい。
現段階では未成年なので、子どもの不始末は保護者の責任だ。
おそらく、ある程度の金額を寄付して、大聖堂側に詫びを入れるだろう。
その後は、保護者同伴で洗礼を受けることになる。
どのようなスキルであっても、その人間次第なのだ。
「ポール、ちょっとだけ時間をくれないか?」
「かしこまりました」
カイルと執事は、大聖堂の中庭に向かう。
そこには、気の強そうな女の子と真面目そうな女の子が立っていた。
「ごめんね。待たせたね」
「いいえ! ちっとも! 私たちもたった今来たので!」
カリナは大袈裟に首を振っている。
カイルの姿が見える直前まで、レディを待たせんじゃないわよ、などと愚痴をこぼしていたが。
「君たちに訊きたいことがあるんだ」
「はい、何なりとお申し付けください」
ユリアはそう言うと、軽くお辞儀をする。
カリナもつられて、ちょこんと頭をさげた。
「昨年、マロネ村の夫婦が、メガティガーに襲われて亡くなったね。その夫婦に子どもがいたそうだが……」
「ジェイクのこと?」
「ですか!」
ユリアがカリナを肘で押す。
「ですか?」
あわてて付け加えるカリナ。
「彼はジェイクと言うんだね?」
「はい、今年の洗礼に一緒に来ました」
「彼はどこにいるんだい?」
「カイル様、どうしてジェイクを?」
カリナが突っ込む。
「あはは。気になるよね! 以前、街を歩いていたときに……」
***
行商人たちが空の荷馬車を並べて、飲み屋の前でだべっていた。
「ううう……」
「何も泣くこたねーだろ?」
「だって、そんな話を聞いたら、切なくなるだろう?」
「でも、そのボウズには本当に冒険者になってほしいよな!」
「ああ、ジェイクは本当にいい子だ。雨の日も風の日も、毎日畑に出てるんだぜ」
「ウチのバカ息子に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぜ!」
「前もよ、ジェイクが作ったモノを売りに来たんだ。あまりいい金にならなかったから、色をつけてやろうとしたんだ……」
「うん、うん、それで?」
「あいつはそれをうけとらないんだ!『僕にはもったいない』ってな」
「なんでだよ?」
「あいつが言うには『ただでさえ危険なのに、未成年の僕の代わりに売りに行ってもらってるから、申し訳ない』だとよ」
その男は話をしながら、涙をぬぐう。
「俺ぁ、そいつに会ったこともねーけど、いい漢じゃねーか! よし、そいつに言っといてくれ! 俺が旨いもんと酒をおごるってな!」
***
「それ、バイロンのお父さんじゃない?」
ユリアも黙って頷くが、その心は歓喜に溢れていた。
「そのジェイク君と一度会って話をしたいんだ」
「わかりました。洗礼の後に、時間を作るように話してみます」
ユリアは、すぐにでもジェイクに伝えたい気持ちでいっぱいだった。
不定期で申し訳ありません。
応援があれば、もっとがんばれると思います。