表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の百合園  作者: 音無ミュウト
第四章
41/45

感情慟哭・後 二千十八年・七月二十九日-05

『例えば!?』


「ハンバーガー三十個も買って、五個で食い終わるとか、お前は何考えてんだ! 食べ物を粗末にするな!」


『二十個だもん! それに食べきれなかった分はキャトルさんにも、その辺に居た男の人にもあげたし! やーい、スミレの鳥頭ーっ』


「そもそもそう言う事をするなと言っているんだバーカッ!」


『だってタイクツだったんだもんっ! そんな事でもやってなきゃ、タイクツでアタシ死んでたもん!』


「そんな事で死ぬタマじゃないだろお前は!」


『じゃあスミレはアタシの事なんだと思ってんのさ!』


「お前は心臓と脳みそに剛毛が生えた大バカ娘だ!」


『そ、そんなのスミレだって、考えなしで死にたがりのバカ娘だったじゃんっ!』


「ああ、そうだよ――そうだったよっ!」



互いに罵声を浴びせ合うのを、そこで止める。


スミレが、ハァと溜息を強く吐き出した後、ハハ――と、今度は小さく笑った。



「まだ、あるぞ」


『今度は、何さ』


「……いや。今度は褒めようと思ってるぞ」



 ニッ、と。確かな笑みを浮かべたスミレの表情を、ミズホはボウ……と、見つめていた。



――彼女は、しっかりと笑うようになったものだ。



感慨深い感情に、身を委ねていた。


それは、強欲の化身となった彼女自身にも抱ける、ただの感情である。



「お前は、人の命の尊さを、私に説き伏せた」


『……そんな事も、あったね』


「あの時の私は、正直言うと内心ムカついていた。


 フレイアを視た事も無い、何も知らないただの小娘が、知ったかぶって説教垂れてんじゃないぞ、ってな」


『やめてよ』


「いいや言ってやる。


 ――でも私は、そんなお前の言葉を聞いて、生きる意味を見つけたんだ。


 お前って言う【友達】が出来て、私はお前と、こうして笑い合っていたいと思った。


……ほら。私はずいぶんと、笑えるようになっただろう?」



 両手の人差し指を、口角に押し当て、持ち上げる様にした。目も細めて、何だか彼女が本当に笑っているように見えた。



「お前は、それからずっと私の傍にいてくれた。


 ……お前をバカだと思っている事は、決して覆りはしないけれど……でも、お前と一緒に居て、私は色んな感情と出会えた。


 笑えるようになった。


 怒れるようになった。


 ……お前と一緒に居られる時間を、嬉しいと、思える様になれたんだ」



『……そうだね。スミレは、ちゃんと笑えるようになった。それが、アタシにはすっごく嬉しいっ!』



 ミズホも、スミレにほだされたか、しっかと笑顔を魅せた。


それは、強欲に塗れた妖美な笑みでは無い。


鳴海ミズホという、十六歳の少女が浮かべる、年相応な、可愛げある笑顔だ。



『でも……でもね?』


「ああ」


『アタシ、ダメなんだ』


「何がさ」



『そんなスミレの笑顔を、独り占めしたいって、そうとしか考えられないの。



 スミレの笑顔をアタシだけの物にしたいよ。



スミレの罵声をアタシだけの物にしたいよ。



スミレの……スミレの感情、全部、アタシだけに向けて欲しいッ!



 アタシが、アタシが欲しいのは――ッ!!』



ボロボロと、涙を流しながら。


ミズホはただ、想いを絶叫する。



――何て、哀しい絶叫だろう。


――何て、年相応の願いだろう。



鳴海ミズホという一人の少女は。


 中村スミレという一人の少女の。


 頭の天辺からつま先、果ては心までを、全て欲したのだ。



スミレとミズホは、互いにだらりと下した両の手を見つめながら、しばしの時を過ごす。


沈黙を破ったのは、スミレだった。



「お前は、狂ってしまった」


『そうだよ。全部、アタシのせいだって分かってる』


「私は、お前の言う『命の尊さ』が、何より好きだった。


 でもお前は、その命を全て、刈り取ろうとしている」


『だってだってッ、そうしなきゃスミレは、アタシの事、視てくれないもんっ!


 神さまを視る眼だっていい。


 未来を視る眼だっていいっ。


 なんだったら千里眼だっていいッ!



 ただ、ただアタシを視て欲しいのッ!



――アタシだけを、視て欲しかったのッ!!』



「だから……お前はバカだと言ったんだ」



スミレは一歩、歩き出す。


 ミズホの防衛本能かは分からないが、彼女の影からゆらりと災いが三体姿を現して、スミレへと襲い掛かる。


彼女はいつの間にか右手に作り上げていたコンバットナイフで、まるで邪魔者を退けるかのように、切り裂いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ