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異端の百合園  作者: 音無ミュウト
第二章
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私怨巫女 二千十八年・五月十一日-05

「わたくしには神霊識別の力はありません。ですがこの秋音市には、潤沢なマナが沢山あります。


 一説によると神霊は、潤沢なマナが存在する場所に長期滞在をすると言われていますので、貴女の言うフレイアさんも、もしかしたらまだ、この街に居るのかもしれませんよ」


「……そうだとして、見つける方法は、あるんだろうか」


「一つ、提案があります」



 ニッコリと笑みを浮かべながら人差し指を立て、提案を言い放つキャトル。



「わたくしが貴女に、魔技を伝授致しましょう」


「それが何になる」


「まぁまぁ、素直にお聞きになってくださいな。


 貴女は今、力を制御できずに『度の合わない遠視用メガネをかける』事で、三つの魔技眼を封印している状態です。そんな状態では神霊識別の魔技眼を使う事は出来ない。


 しかし魔技を覚える事が出来れば、そんな乱雑な方法で魔技眼を封じる事無く、オンオフの切り替えが出来る様になるはずです。


 ――まぁ、先天性の神霊識別を切り替える事はできませんが、後天性の二つを切り替えられるようにするのは、そう難しい事ではありませんからね」



そうなれば、普段の日常生活だけで、フレイアを探す事自体は出来る。


キャトルの提案に、スミレは唇を噛みながら、どうするべきかを思考していた。


受けるべきか、それとも否か。



「………………所で」



 と。


そこでキャトルが、何だか申し訳なさそうな表情で、スミレへと頭を下げた。



「魔技を教える代わりに、その……授業料を、頂けないでしょうか……?」


「……ちなみに、幾らだ?」


「ええっ、とぉ……」



 キャトルの視界は定まらない。瞳を右に向けたかと思えば左下を見据えて、今度は手でそろばん勘定をしているようにも見えた。



「……毎月、十万で良いです」



 スミレの答えは決まった。迷わず否だ。



「帰るぞ鳴海」


「え、いいのスミレ?」


「親の遺産だけでご飯食べてる女子高生に毎月十万要求するヤブ医者とこれ以上一緒に居られるか!」


「あ、ならアタシが払ってあげよっか?」


「え?」


「へ?」



 ポカンと、目を見開いて、今まさにミズホが放った言葉を、脳内で繰り返し再生した二人。


そんな二人の気持ちも知らずに、カバンの中から長財布を取り出したミズホは、今幾らあるかを一先ず確認した。



「あ、今財布の中に十二万あった。じゃあ、はい先生。まず今月と来月の分。今月はあと少しだし、二万でいいよね?」



 福沢諭吉先生がプリントされたお札を十二枚差し出したミズホ。いきなりそんなお金を手渡され――ボロボロと涙を流し、泣き始めるキャトルに、スミレはギョッとしていた。



「よ……よかったぁ……! わたくし、わたくし……っ、もう二日、塩水しか、飲んで無くて……っ、優しい……っ、優しい女子高生……っ!」



 わーよかったーハンバーガー食べるー? 等と気楽に喜んでいるミズホの姿を見据えつつ、スミレは深いため息をついた。


――やらないから鳴海に金返せなどと、今更言える雰囲気ですらなかったのだ。



**



キャトルは、ミズホが持っていた冷めたハンバーガーを小さな口で食べ進めながら、スミレの身体をペタペタと、何やら触り続けている。


 制服の上からではあるが、何だかむず痒い感覚を覚えたスミレは「なんだ一体」と訊ねた。



「ああ、すみません。何だか違和感がありましてね? なぜでしょう、貴女には魔技師としての才も感じれば――別の才も感じる事が出来る」


「これ以上設定を上乗せしたくないぞ。今度は何だ、魔法少女にでもなれるってか?」


「魔法少女にしては口調が男勝り過ぎますよ」



 そう言ってスミレを茶化したキャトルだが、それでも尚手は止めぬ。


手が、スミレの右肩へと触れられた瞬間――キャトルは眼を細め、そして「なるほど」と小さく呟いた。



「何がなるほどと?」


「いえ。これは貴女が魔技師としてある程度熟してから教えましょう。……さて、ハンバーガーも頂きましたし、今からレッスン開始ですね」



 ハンバーガーの包装を綺麗に折りたたんだ後、両手を合わせて「ご馳走様でした」と礼をした彼女は、まずスミレの眼鏡を取り外した。



「……返せ」


「一旦没収です。どうせ付けるなら」



 眼鏡と入れ替えに、キャトルはポケットの中に入っていた、一つの容器を取り出す。コンタクトレンズを入れる容器のようだ。



「こちらを。特別製なので、一生取り外さなくとも大丈夫です」


「それを付けて、私に何の得がある」


「えー、いいじゃんスミレ。眼鏡が無い方が可愛いと思うよ?」


「お前は黙ってろ」


「むぅ、お金出したのアタシなのにぃ」


「まず眼鏡を没収した理由としては、この眼鏡自体が魔技眼の力を乱暴なやり方とはいえ、封じ込めてしまうというのが理由になります。魔技を使役する際、この眼鏡自体が抑止力となり、効力が弱まってしまうのです」



 そしてコンタクトレンズを付ける利点は、と。キャトルは続けた。



「このレンズには、度が入っていません。魔技眼を封じ込める物でも無ければ、魔技眼を制御する為のものでもありません」


「なら眼鏡が必要だ。やたらめったら人の未来を視ろってのか。そんなの私自身ゴメンだ」


「貴女は結論を急ぎますね。女性は会話自体を楽しむ生き物ですよ」


「可愛げが無くて悪かったな」


「飛躍し過ぎですよ」



 溜息と共にキャトルはまず、必要な説明を語る事とした。

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