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異端の百合園  作者: 音無ミュウト
第二章
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私怨巫女 二千十八年・五月十一日-03

 僅かな沈黙。ミズホは数秒の時間を置いた後に「それで」と言葉を挿みつつ、再び質問を開始した。



「どこまでホントなの? それはビョーキが原因なの?」


「全部ホントだよ。信じちゃ貰えないけれどな。ああでも、神さまには三年近く会ってないから、もう視えないのかもしれないな」


「ふぅん」



 そう相槌を打ちながら、ミズホはスミレの表情をよく観察し、言い放つ。



「ウソ、じゃないみたいだね」


「こんな世迷い事を信じるってのか?」


「アタシ、ウソツキは見慣れてるもん。ウソツキはそんな悲しそうな顔しないから」


「お前も変わった奴だな」



 と、そこで視線をミズホの購入した商品に目をやると、そこには多くのハンバーガーが山のように盛り上がっていた。軽く二十個はありそうだ。



「それ、お前が全部食うのか?」


「自分の胃袋の限界を知ってみたくてね」


「ちなみに限界はどれ位だと考えている?」


「五個?」


「残り十五個近くはどうするつもりだ」


「その辺の腹減ってそうな奴にでもあげちゃうの。そうすればヒマつぶしにもなるし」


「お前、そんなにヒマなのか?」


「そ。――ホント、タイクツ」



 物悲しげ、憂いの表情、そう呼ぶに相応しい様子のミズホであるが、眼鏡をかけたスミレには、彼女の表情を理解する事も、ましてやキチンと見ることも出来ないのだ。



「あ。そうだスミレ」


「うん?」


「そう言えば面白い噂があるんだ。山の近くにある診療所は、魔法使いが経営してるって噂」


「ほう。それで」


「何かね、法外な金額でビョーキを治したり、ミョーな依頼をこなしてるらしいよ」


「ふぅん」


「行ってみない? もしかしたらスミレの眼も治るかもよ?」



 スミレは、しばし無言で彼女の言葉を噛み締めていた。


もちろん魔法使いが居るなどと信じているわけでは無い。


 しかしスミレは本当に『神さまを視る』、『未来を予測する』、『数キロ先まで視る』眼を持っている。


 もし本当に魔法使いが居たとしても、それは不思議でもないのだ。



「……そうだな。行ってみるか」


「あ、ホントに行くんだ」


「なんだ、ウソだったのか?」


「ウソじゃないけど、スミレはウソって言うかもって」


「ウソでもいいさ。――私には、会わなきゃならん奴がいるんでな。手掛かりになるならどこにだって行く」


「会わなきゃ、いけない人?」


「――神さまのお姉ちゃんだ」



 スミレは、ミズホの買ったハンバーガーの一つを手に取り、その包装紙を捲りながら、一口それを食す。



適当な会話の間に、ハンバーガーは冷めて、少しだけ固くなっていた。



**



ミズホの言っていた診療所は、白のペンキで塗装のされた、山小屋と呼ぶのが相応しい外観をしている。


こじんまりとした木造建築物。『キャトル診療所』と書かれた看板以外に診療所である事を知る事の出来ぬ、見るからに怪しい場所だった。



「うわぁ。マジで魔法使い居そう」


「ホントだな……入るぞ」


「あ、うん」



 ギィ、と音を奏でる押戸の扉を開け放ち、診療所へと入っていく。一応玄関口には靴箱と、小さなスリッパが四つほど置かれていたので、診療所として機能していないわけでは無いらしい。


受付には『奥へどうぞ』と随分達筆な草書で書かれた板が置いてあるだけ。スミレとミズホはそれに従い、一先ず奥へと向かう。


『診察室』とプレートが取り付けられた、スライドドアの扉を開け放つと、部屋の中には一人の女性が、頬杖をつきながらボーっと、カルテらしきものを眺めていた。



「ん、ああ。お客様ですか?」



 女性は、見た所二十代前半と目せる人物だった。肩まで伸びる白髪の髪の毛を下し、ニッコリと笑みを浮かべた。



「当院は初めてご利用でしょうか? わたくし、ここの院長を勤めております、キャトルと申します」



 まぁ従業員はわたくし一人なのですがね、と苦笑したキャトルという女性。スミレとミズホは視線を合わせ、フッと溜息をつく。



「ハズレっぽいね」


「そうだな。来て損した」



 見た所、普通の女医でしかなさそうだと、二人は判断したのだ。


 一言詫びを入れて退散しようと会話をした二人に、キャトルが「ああ!」と手を合わせて、喜んだ。



「もしかして診察じゃなくて、依頼の方でしょうか? ああ、良かった。最近財政難で、依頼をお待ちしていたのです」



 彼女の言葉に。


スミレとミズホは、唖然と形容すべき表情をしながら、しばしの時間を必要とした。


どうやらハズレでは無く、本命であったようだ。

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