30 ピエロと僻み
ホワイトキャットと別れた俺たちは『マグ・メル』に向かって歩いていた。
「はぁ、レミが待っているってそういう意味だったのかよ。そりゃ焦るわ」
「………私は焦ってなどいませんが」
嘘つけ。心配で仕方無かったんだろーが。と思ったが指摘はしない。後が怖いから……
プイッと明後日の方向を向くフレイ。出会った頃は嫌っていた気もするけどなんだかんだ仲がいいんだろうな。
「はは。まぁさくっと話をしてレミを返して貰うか。」
「そうですね」
どこか気合いの入った様子のフレイは少しペースを早めて歩き出した。
「急ぎますよ」
「おう」
(にしても、フレイってツンデレだったのか?)
よくよく考えてみれば俺はフレイのことあんまし知らないんだよなぁ……レミもそうだけど。
(うん。これから知っていけばいいか。)
フレイの新たな一面をみた気がした俺は緩む頬を誤魔化しながら隣を歩く事にした。
*****
「……どうするよ」
「まずはレミを見つけましょう」
「見つけるつっても……」
俺たちは現在『マグ・メル』の中心部にある噴水にの前に来ていた。
驚いた事に時計塔のある城は入口・・で城の裏側には自然と調和した建築が施されており、悠然と立ち並ぶ木々にはリス? などの小動物が見え隠れしていおり小鳥の囀りまで聞こえてくる、一種のテーマパークみたいだ。
中央を走る道は奥にある大演劇場に繋がっており、その中心を白を基調とした荘厳な噴水が建てられていた。
「……ここってデートスポットか何かなのか?」
「そうですね。この街の名物として人気があります」
「………なぁ、ここ広すぎない?」
奥に見えている演劇場の周りにも丁寧に舗装された道が広がっており、裏側にも何やらありそうだ。
ここでかくれんぼとかしたら盛り上がりそうだ。いや、別にしてないけどさ
中でも気になったのは隅の方にあるベンチ。日当たりもいいし、木漏れ日を浴びて昼寝したら最高だろうな。
「取り敢えず演劇場に向かいませんか? 団員の方に話を聞けばレミがどこか分かるかもしれませんし。」
「……………」
(よし、余裕があればここでのんびりしてみよう。)
周囲の人は大半がカップルだが、一人で来る気満々のレヴィ。睡眠のためならばリア充なんて気にしないのがレヴィクオリティ!
「レヴィ」
「………はっ」
危ない危ない、自然とベンチに吸い寄せられていた。恐るべき誘惑だ。
「よし、探しに行くか!」
「………はぁ。」
気を取り直して華麗なターンを決めるレヴィ。仮に彼がマントを羽織っていたならばそのマントはそれはもう見事に翻っていた事だろう!
隣で深くため息をつかれたが、気にしない。今の俺は待ち受けるユートピアの為にもさっさとレミを助けなければならないのだ!
「ようこそ! 夢と希望の楽園『ザ・フール』へ! チケットをお買い求めでしたらこちらにある販売所へ! 既にお持ちでしたら奥に居る団員の案内に従って入場して下さい~」
取り敢えず中に入ろうとしたらどこか愉快な声をかけられる。
振り替えるとそこに居たのは派手な服装をしたピエロ。顔の中心には天秤?の様なマークが大きく描かれている。周囲に居る殆どの団員は礼服を着込んでいるが、何人かはコイツと似たような奇抜な格好をしている。
見た目は華奢な男だが、はっきりと判断出来ないのは化粧の影響もあるだろう。まぁ、性別なんでどうでもいいのだが
レヴィがどのように聞き出すか思案(という名のコミュ障)していると痺れを切らしたフレイが話しかけた。
「いえ、人を探しているのですが」
「迷子ですかな?」
謎に顎に手を当てて目を光らしてるレヴィの代わりにフレイ主導の聞き込みが始まる。
「いえ、つい先日からこちらで世話になっているDランク冒険者です。人魚族マーメイドで名前はレミというのですがどこにいるか知りませんか?」
「…………ほほう?」
「知っているならどこにいるか教えてもらおうか」
がしかし、任せておいて出しゃばるのがレヴィでもあった。
一瞬、ほんの一瞬だったがピクリと反応したのを俺は見逃さない。ここは強気に出るべきだろう。
「……はて? 軽く耳にはしましたが詳しくは知りませんね 詳しい者を探して来ますね」
「おい待てよ、何か知っていると俺の直感が告げてるんだよこの野郎」
途端にそそくさと何処かへ行こうとしたので咄嗟にその肩を掴もうと左手を伸ばしたその時
バチィッ!
触れた瞬間、レヴィとピエロの間で黒い光みたいなモノが弾けた。それは静電気にも見えたが余りにも突然の事だったので掴もうとした手は空を切ってしまう。
「「っ!!」」
(何だ、今の。ていうか何故指輪・・・がここにある!!! 訳がわからないよ!!)
「…………? どうしましたか?」
「いえいえいえいえ、何でもございません! ところで私は急用が出来ましたので代わりの者を呼んできます!」
「はぁ……わかりました」
「────はっ! まて!」
シュバッ
「くそ、逃がしたか。」
レヴィが混乱している隙をついて転移でもしたのかという速度で消え去るピエロ。
「逃がしたって……確かに少し怪しい気もしますが詳しい人を呼びに行かれた様ですし大丈夫でしょう。」「んぁ……? 今の見てなかった?」
「? 何がですか?」
「あぁ、何でもない。後で話すよ。」
どうやら今起きた現象はフレイには見えていなかった様だ。それより問題はこっち・・・だ。
「なぁフレイ、これ何に見える?」
俺はそう言いながら左手をプラプラさせた。もちろん指輪の事である。
「急に何をいってるんですか。相変わらず綺麗な指輪ですね。」
「だよなぁー 俺指輪つけてたっけ?」
「? 急にボケてしまったんですか? ずっとつけていましたけど。」
「は? へ? ちょ、「これは困りました。レヴィが壊れましたね。」
ずっとつけてた? んな訳あるかぁ!
「いや、俺宿に置いてきたって!!」
「いえ、ずっと嵌めていましたよ」
「………マジか?」
「まじです。」
いやいや、俺間違いなくベッドに放り投げたはずだ。部屋を出るときも確認したし………え、そうだよね? ここまで否定されたら本気でボケていると思えてくるから笑えない。
「……何がどうなってんだ。」
再び混乱するレヴィだったが、事実として指輪があることは変わらない。帰ってからノアに問いたださなければと考えているとシルクハットを被った男が近づいてきた。
「これはこれは、あなた達がベアウルフを討伐されたというCランク冒険者・・・・・・・のレヴィ様とフレイ様でお間違えないですね?」
思考の迷宮で彷徨いかけていたレヴィだったが、頭に直接語り掛けてくるような声音に現実へと呼び戻される。
「えぇ、そうですが……」
「これはこれは申し遅れました、私はザ・フールで幹部をやらせていただいているウォンと申します。以後お見知りおきを」
そこらにいる団員とは比べ物にならない程の豪奢な燕尾服に包まれたウォンと名のった男は優雅に一礼しながらステッキの先端を怪しく明滅させた。演出だろうか?
「あぁ、貴女程美しい女性に会えたのは久しぶりです」等と言いながらフレイの前に跪きその手を取ろうとして……
「ちょっっっっっっとまったぁー!! 何してんの!?」
まるで劇中の王子と見紛う所作に見入っていたレヴィだったが、ウォンが触れようとした寸前で阻止することに成功した。
「あんた何してんの? 唐突にそーゆ―こと止めてくれる!? キザったらしくて鬱陶しい!」
ただの僻みである。この男、つい先ほどはリア充全く気にしない発言(思考)をしていたが実の所、リア充が嫌いなのである。色々と複雑な理由があるのだが、目の前でラブロマンスなドラマを繰り広げられることを許容出来ない程度には嫌いである。しかし、自分にもそういった存在がいれば……と思っている。故に、僻みなのである。
重要なのでもう一度
ただの僻みである。