12 初依頼と恐慌
今日も家のかわいい猫ちゃん達は元気に駆け回っています。
家ではこたつは出してないのですが、この様子だと庭に出しても元気に駆け回りそうです。
ところで触れていませんでしたが、クロはヴァイス家でお留守番です。その内レヴィ達に合流する予定です。
今日は2、3話更新出来ればなと思っています。
「きゃあぁっ、飛んできたっ飛んできましたよこいつ!!」
逃げ回っていたフレイが方向転換して、俺に向かってくる
「うわぁっ、こっちにくんな!捕まえろ!!」
「嫌です無理です触りたくないっ!」
「くんなっつってるだろ!!」
「助けてっレヴィっっ!!」
「むり!!っ!フレイっっ後ろ!」
「っっ!ぎゃぁぁぁぁ」
「ゴフっ………」
猪のように突進してきたフレイの頭が見事に鳩尾にクリティカルヒットし、倒れた俺は(どうしてこうなったんだ。)と思いながら昼間のことを思い出していた。
時は冒険者になった直後まで遡る
「あ、レヴィさんフレイさん。」
「なんですか?アイシャさん」
「お二人で行動するのでしたら、パーティーを作ることをお勧めします。」
「パーティー?」
(ウォークやソラみたいな感じか?)
「はい。パーティーを組まれると冒険者の生存率が格段に上昇しますし、代表の方がクエストの達成報告をするだけで済みます。それに多人数を相手にしなくて私どもも助かりますので。」
「そういうことでしたら、パーティーを組むことにします。」
「かしこまりました♪パーティー名はどうなさいますか?」
「名前かぁ。どうする?フレイ」
「んー、特に思い浮かばないのでレヴィが決めてください。」
「…………ふむ」
ダメだ、全く浮かばん。
「とりあえず、パーティー名は保留に出来ますか?」
「大丈夫ですよ。」
「じゃあ、一旦保留でお願いします。」
「かしこまりました。それでは依頼を受けるようでしたらあちらのクエストボードに張り付けているものからお取り下さい」
「はい」
「あ、先ほど伝え忘れましたが、依頼を失敗するとペナルティとして罰金の支払いが義務付けられています。それに、繰り返し失敗され続けるとランクダウン、最悪の場合冒険者資格の剥奪となりますのでくれぐれも注意して下さいね」
(まぁ予想出来たことだな。)
「大丈夫です、身の丈にあった依頼を選びますので。」
「はい♪ランクアップ目指して頑張って下さい!」
張り出された依頼を吟味するが、なかなか良さそうなものがない。
「お、これなんかどうだ?」
「えっと…【アルフの森に生える薬草採取】ですか、そうですね。悪くないと思います。」
「じゃあこれに「ウォームが出たんですか!」」
「「??」」
何やらねちょねちょした男がギルド職員と話している声が聞こえてきた。
「おう、なんとか逃げ切ったんだが、粘液をぶっかけられて最悪だ。数は20程だったと思う。」
「わかりました。ウォーム20体の討伐となると………Cランクですね。場所は……アルフの森ですか。すぐに依頼を出しておきます。」
「「………」」
「……やめておくか。」
「………そうですね。」
「けど、そうなると依頼ねーなぁ」
「ですね。あ、これならどうですか?【ペットの捜索をお願いします】」
「んー、めんどくさそうだけど、仕方ないか。それにしよう」
「はい、承りました。この依頼は一般依頼となっておりますので、達成されましたら依頼者のサインをこの紙に書いて貰ってください。」
「わかりました。」
「では、お気をつけて。くれぐれも逃げ出さないで下さいね♪」
「「?」」
ギルドで張り出される依頼には大きく三種類の物がある。
1つ目は、一般依頼。ギルドの依頼の2割程度のもので、市民や商人などの依頼主がギルドを仲介に直接冒険者に発注する類いのもので、達成の可否は依頼主が決める。そうすると、達成してないと言い張る輩が出て来そうなものだが、依頼主は担保として金銭などをギルドに預けなくてはならないため、そのような事件はほとんど起きないらしい。
2つ目は調達依頼で指定された物を指定された個数調達、あるいは採取してくるものだ。薬草やキノコ類などが一般的ではあるが、稀にあの娘の心がほしいなど抜かす輩もいるらしく、そういった依頼は事前に却下されるそうだ。呆れたものだ。
3つ目は討伐依頼で、特定の生物や魔物を指定された数討伐するものだ。基本的には討伐証明として、それぞれの生物の部位を持っていくことで達成とみなされる。地域が限定されることもあるが、大抵その限りではない。
調達依頼と討伐依頼は依頼主がギルドに依頼料と報酬を預けて、達成報告はギルドが受け入れるものだ。ギルド側としても管理がしやすく、冒険者としても色々と手間が省けるため、比較的人気の高い依頼なのである。
依頼自体を取り下げられることもあるにはあるそうだが、この2つが最も見かける依頼だ。
稀に全ランクに対応した緊急依頼があるようだが、半年に数度あるかないからしいので気にしなくてよさそうだ。
「さて、ここが依頼主の家か。」
「はい、ここで間違いないようですね。」
「なーんか嫌な予感がするんだよなぁさっきのアイシャといい。」
「同意します。少し寒気もしますし。」
古ぼけた少し不気味な家をノックすると中から明るい声が聞こえてきた
「はいはーい、どちらさまですかー?」
「あのー、ペットの捜索に来ました冒険者ですけどー」
「おぉ、来てくれたんですね!助かりました。ささっ、中に入ってください!」
「っっ!い、いえ、結構です。それで、ペットについてですが、なにか特徴はありますか?」
「遠慮なさらなくともよいのですが………そうですね、青いリボンを着けていますので見つければすぐにわかると思います」
「わかりました。では、早速探しにいってきます。」
俺達は足早に依頼主を後にした。
「……フレイ、気づいたか。」
「…えぇ、もちろんです。」
「なぁ、もしかしてだけど………ペットって…」
「やめてください。考えたくありません。さっさの帰りたいです。」
そう、先ほどの依頼主の肩に乗っかっていたのは、母音を除くとガクブルと同じ生き物だった。
それだけでなく、部屋の中にもなにやら蠢く影が。しかも黒くテカっていたし。
「………なぁ、この依頼諦めないか?」
「………不本意ながら、私もそう進言しようと考えておりました。」
「じゃあやめ、……………………………」
「?レヴィ、どうしたんですか?」
「…………なぁ、フレイの後ろにいるやつって…」
「………後ろ?何かいるのですか?」
振り向いたフレイだったが、その場で固まった。
そこにいたのは鮮やかな青色のリボンを胴体部分に巻き付けた黒くテカるもの。
「ひっ…………ひやぁぁぁぁぁっっ!!」
「っ!フレイ!抱きつくな!!」
「やだやだやだやだやだーーー!」
「ちょ、おちつけって!」
あまりのフレイの豹変ぶりに戸惑っていると、黒テカリボンがフレイに向かってカサカサと近づいてくる。
「きゃぁぁぁ!こっちにこないでーー!!」
「ちょ、フレイまてって!」
何が楽しいのか、何に惹かれているのかわからないが、逃げ回るフレイを追いかける黒テカリボン。
さらにそれを後ろから追いかける俺。
なんとも滑稽な絵面だった。
そして、冒頭にもどる。
「お疲れ様です。レヴィさん、フレイさん。」
「……ありがとうございます。」
「ところで、フレイさんは大丈夫ですか?」
「………まぁ、大丈夫だと思います。」
フレイは生気の抜けた表情で下を向きながらぶつぶつと何か言っていた。はっきりいって、不気味で怖かった。
あの後、俺の固有魔法によりつくった即席落とし穴の上を黒テカリボンが通った瞬間崩し、穴を閉じて閉じ込める事に成功。
それから穴の外部を掘り進め、固有魔法で土を固定しつつ、形状を拳大の大きさまでに削ることで、無事捕獲が完了した。
「あの人の依頼は今後一切受けませんので。」
「それも仕方がありません。月に1度は逃げ出したと依頼を出してくるのですが、流石に苦情が多すぎますのでギルドとしても、対処すべきだと思っております。」
「そりゃそうですよ。あんなの。」
「今回は助かりました。ありがとうございますね。」
こうして、俺達の冒険者として初めての依頼は達成された。