バッドベアキッドのレポート7
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この森はいつだって静かで、俺はココが結構好きだった。
その中にポツンと一軒家、じゃなくて城。
バラの庭がとにかくすげー。(語彙力が無いとか言うな。)
その庭の壁、城壁、になるんだろうか。
黒いショールが引っ掛けてある。
そこそこ強い風が吹いてるのにまるで≪何か重しが乗っている≫みたいにそこから動かない。
俺はそのショールに、間違いなく見覚えがあった。
忘れもしない、砂漠の街でパクリかけたあの黒いショールだ。
モチロン、戻ってきちんと品代分のゴールドを支払った。
なんたって正義の勇者サマが万引きする訳にいかないからな。
とにかく、俺は風が吹いてるのに飛んでいかないそのショールに向かって声を掛ける。
「久しぶり」
「会いたくなんてなかったわ」
「俺は会いたかったよ」
「なにそれ。Cheesy Kid≪キザな男の子≫みたい」
出会い頭、今日も彼女はご機嫌ナナメの様だ。
美意識に自信が無い俺でも見惚れそうな見事なバラ園を見てるのに機嫌が悪いなんて、女の子は難しい。
「バラが嫌いなのか?」
「バラは好きよ。でも、育ててるヤツが気に食わないの」
フン、と彼女はつまらなそうに鼻を鳴らす。
「気に入らないって、野獣の事か?アイツはああ見えていい奴なんだぜ?」
「知った事じゃ無いのだわ」
今日も彼女はツンツンのツンドラで俺はため息だ。
「吊り橋効果って知ってる?」
「ナニソレ」
「吊り橋を誰かと一緒に渡ると恐怖のドキドキが恋のトキメキにすり替わっちゃう、ってハナシ」
「……あー、なんか、知ってる様な聞いたコトある様な気がする」
見栄張らないの、と見えない手か足か(どうせ足だ)で小突かれる。
「この城のプリンセスは恐怖と恋を勘違いしたんじゃないかしらん」
「そんな事ないだろ。二人は真実の愛で結ばれてた」
「ナニソレ、君ソレ証明できるの?」
それは、と俺は口ごもる。
二人を見てれば分かる、なんて言っても彼女には通用しないだろうし、実際≪真実の愛≫を証明してみせろ、なんてムチャ振りも良いところだ。
「そんな事より可哀想なのは彼女のお父さんや村の人よね」
「え、何で?」
人気のない薔薇の庭に風が通る。
むわっと広がる薔薇の匂いと、冷たい風の温度のギャップに訳もなく身がすくんだ感じがした。
「自分の娘が自業自得とはいえ怪物の城に囚われて、村の一員を助けに行こうとしたヒーローは≪真実の愛≫を引き裂く悪役にされちゃうんですもの」
ハッとして黒いショールの方に向き直る。
スルリと音がしたみたいにしなやかにショールは体に巻きついて人の形を作り出す。
「ねぇ、キミ。自分のしてる事が絶対正しいって自信、有るワケ?」
見えない筈の視線が俺に突き刺さる。
彼女がどんな顔をしているのかは見えない。
ただ、やり場のない敵意の様な、ふわっとしたジリジリ焼ける様な視線である様な、そんな気がして堪らなくて目を逸らした。
負けた、そんな気がした。
「キミにはまだちょっと早かったか。KID(お子さま)だもんね」
「なぁ、その、キッドっての、やめてくれよ」
「存在自体がKid≪冗談≫みたいなもののクセに」
まるで捨て台詞みたいに、彼女は言った。
実際に、まるで逃げるみたいにスルリとスリットの中に入り込んで逃げてしまった。
「待てよ!!」
俺は誰もいない薔薇の庭で叫ぶ。
きっと≪あの二人≫が仲睦まじく過ごしたであろう庭には今は俺一人しかいない。
「また探さなきゃならないのかよ!」
それこそ You're kidding! ≪冗談じゃないぜ!≫
To be continue...
誰が彼を3枚目にしてしまったのでしょう?
彼の恋は真実一途だった筈なのに