バッドベアキッドのレポート6
***
走った。広間を抜けて路地裏に。
そしたら壁に引っ付いて顔と顔とをくっ付けてる男と女のヒトが居て慌てて表通りに引き返す。
ハイ、ドーテー丸出しです!
笑いたきゃ笑えよ!チクショウ!
それでも沸騰するみたいに熱くなる血ともぞもぞと体の内側を炙る ≪なんだかわからないモノ≫ をどうしようもできなかったんだからしょーがないじゃんか!!!
今度は俺が追いかけられる番になった。
それはそれは楽しそうな含み笑いと走る吐息が追いかけてくる。
ひと通り街を駆け抜けて、絹織りショール売りの店先で蹴つま付いて一枚ひっかけて来てしまった。ゴメンおっちゃん。
街の入り口の広間までやっと出てきたら
「あぁ!おーっもしろい……!」
息を切らせながら彼女の声も追いかけて来た。
街の喧騒は少しだけ遠くて、街の入り口の方で門番の兵士がこっくりこっくり船を漕いでいる位で薄暗くて何もなくて。
「ハァッ、み、見世物じゃ無い……ぞ!ハァ、ハァ!」
「はぁ、アタシは、はぅっ…すっごく、あはっ、あははっ!」
「笑うなよ!!」
正直泣きそうなオレの叫び声は情けなく震えていて、彼女は死にそうな笑い声を必死に抑えながら抑えきれずにいる様だった。
「そんな顔初めて見たもの!」
「そんな顔ってどんな顔だよ!」
「必死ぃ〜〜!」
ぱたぱたと砂埃が舞っているのは彼女が足踏みでもしているからだろう。
童貞クサさを女の子に見られて顔に熱が集まる。
俺はひっかけてきた黒いショールに顔を埋めた。
でも彼女はサディストらしく、そのショールをするりと俺の腕から引き抜く。
しなやかな手触りが腕をすり抜けていくのは意外と肌触りがよくて、つるんとショールは取り上げられてしまう。
彼女はそれを器用に体に巻きつけた。
するとどうだろう、幽霊の体に形が現れた。
小柄ながらしなやかな腕の動き、腰つき、足運び。
風の妖精が悪戯をするみたいに布の中に人の形が見えてきた。
遠くに聞こえる弦楽器と歌声に合わせて、タンタンとステップを踏む。
布を摘んだ指先が見えたかと思ったらパッと離れて、遠心力でくるりと回りながら落ちる。
何を見ているのか、一瞬わからなくなった。
とんでもなく綺麗なその踊りに俺の目は釘付けになった。
「正義のヒーローが情っけない!」
彼女はカラカラと笑いながら月に歌う。
「とうとう不良になっちゃったね、勇者サマ!」
かくして、アラビアンナイトで正義のヒーローは脱優等生を果たすのであった。