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バッドベアキッドのレポート  作者: キリュー
アラビアンナイトの章
6/8

バッドベアキッドのレポート5

アラビアンナイトの章

***


主人公ってのにはタスクが幾らでも有る。

サブクエストとかミニゲームとかコンプリートアイテムだとか。

その中でも一等面倒臭い世界各地の猫や犬に餌をやって幸福にする、というミッションをこなしながら彼女を探していた。


何しろ足跡しか見えない女の子をあてもなく探すんだ。

S級クラスのミッションだ。


オレは砂漠の街に来ていた。

アラビアンタウンの夕方。この街に夜に来るのは初めての事だった。

吊るされたランタンが赤に青に色とりどりと色相を変えて、俺の目を瞬かせた。

店の店頭にはテーブルが出て、男達が料理と酒を飲み交わす。

シタール(この楽器そんな前だったのか)の音色に合わせて女達がひらりと袖をはためかせて舞い踊る。


「うわぁ…」


思わず息を呑む。

なんというか、そこは ≪オトナ≫ の世界だった。

いや、なんというかその、酒だって女だって見た事が無いワケじゃない。

ただ、こう、これはコインを使って遊ぶ、そのそういう世界ってヤツだ。

昼間の賑やかな市場、果物売りや絨毯売りは顔馴染みだけど、同じ場所でもここは全く別世界でそう、なんというか…


「あら、どうしたのボウヤ」

「ここはガキが来るには少し早いんじゃないか?」


通りすがりの大人達にからかわれながら路頭に立つ居心地の悪さにシリがむず痒くて仕方ない。


クスクスと笑う声の中に聞き覚えのある声が混じる。


「まるでBumpkin Kid ≪おのぼりさん≫ ね!」


耳元でささやかれてゾワリと背筋に走るモノがある。

思わず飛び上がってひっくり返ると、ふふふ、と声が聞こえる。


「ヤダ。あんまりマヌケで、面白かったからつい声をかけちゃったわ」


自分から声を掛けたクセに、心底つまらなそうにその声は言った。


「その声、この前の……」


振り向いてもそこに見える人影はない。

でも確実に気配というか ≪そこに在る≫ 空気の様なものがある感じだ。


「── 雨女か?」

「ねぇ、イヤだ、その呼び方!センスのかけら、これっぽっちも無いかしら」


ぱふぱふ、と土煙が小さく舞う。

きっと不機嫌に足を踏み鳴らしているんだろうと思う。


「なら、なんて呼べばいいんだよ?」

「キミから呼ぶ必要なんかないわ。アタシも呼ばないから」

「屁理屈言うなよ!」


その場にあぐらをかいて座れば、ぴん、と鼻先を見えない指で弾かれる。


「それで、初めてこの ≪街≫ に来た感想はどう?」

「初めてじゃない!」

「初めてでしょう?煙草、お酒、ギャンブル、ジプシーの女達にヘンプの葉っぱ」


繁華街、っていう意味ならイエスだ。

ぐっ、と言葉を詰まらせると彼女は愉快そうにクスクス笑う。

その声が妙に可愛いのが癪に触る。


色硝子でとりどりに変わっていく街と楽しげに歩く大人達を炉端から見上げる俺。


「良いのかなぁ?正義のヒーロー様がこんな所に居ても」

「それとこれとは、かっ、関係無いだろ!?」


ガハハ、と豪快に笑う声が聞こえてくる。陽気に高らかに歌う声と楽器の音色の軽やかさ。

チクショウ、と乱暴に舌打ちする音、ジャラジャラと金属が擦れる音、それから女の人の意味の無い音みたいな声。


幼い頃、母さんに見ちゃいけませんって言われてた世界が、多分今、俺の目の前には広がっている。

それは ≪悪い事≫ だから遠ざけられていたのだろうか?

それとも……。


「関係無いかしら?本当に?」


彼女の声は毒みたいに耳から染み込んでくる。

好奇心と恐怖と興奮とが入り混じって、心臓がバクバクドキドキ喧しい。


通りがかりの、男の腕に腕を絡めた女の人が妖しげな視線で目配せして、ひらひらと手を振って去って行く。


俺は、オレは…………!




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