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20/21

予期せぬ再会

「ティオ……なんでこんなところに……?」


 フビデビに拉致され、魔王城に連れて行かれて、ずっと会えていなかった大事な妹分。しかし再会できた喜び以上に、今は困惑が先立って心を満たしていく。


 何せ、彼女はコーレリア王国にいるはずなのだ。それが魔大陸の、しかも夜空宮殿(ナイトパレス)で、しかもなぜかメイド服に身を包んで存在している。

 もう、実は俺は吸血鬼殺しにやられていて、今見ているのは全て夢だと言われたほうが納得できそうだ。


「レン……本当に、レンなの……?」


 それはティオも同じなのか、まるで幽霊のようにフラフラと覚束ない足取りでこちらへ一歩踏み出す。

 それを遮るように、正面にルーミアが立つ。


「レンを虐めないで!」


 両手をいっぱいに広げ、俺を守るように声を荒げる。

 これまでルーミアと一緒に過ごしてきて、拗ねたことは何度かあったが、怒ったことなどついぞなかった。そんな彼女が、俺のために怒ってくれていると思うと嬉しくなってつい頬を緩めるが、それを聞いてはっとなったティオの表情がみるみる青ざめていくのがこの薄暗い中でもハッキリと分かった。夢でもなんでもいいが、ひとまず仲裁しないといけない。


「大丈夫、ルーミア。あいつは味方だから」


「でも……」


 ルーミアの肩にぽんっと手を置いて、優しく教える。

 未だ納得いかない様子の彼女だったが、ひとまず後ろに下がって貰い、代わりにティオと対峙する。


「レン……私……!」


「大丈夫だよティオ、俺はこの通りなんともない」


「で、でも……」


「それにほら、前に言っただろ?」


 手を広げ、無事なことをアピールする。

 そして、


「俺を傷つけられるやつなんて、どこにもいないよ」


 いつか言ったセリフを、もう一度伝える。

 すると、ティオは一度ぴくっとその身を硬直させ。


「……うっ、えぐっ……」


 ぽろぽろと、とめどなく涙を流し始めた。


「てぃ、ティオ?」


「レンーーー!!」


「ぐふっ!?」


 溜め込んでいた色んなものを吐き出すかのように、全力で抱き着いてくるティオ。

 そう、全力で。


「会いたかった……会いたかったよぉレン……! ずっと、ずっと……死んじゃってたらどうしようって思って……!!」


 もう二度と離さないと言わんばかりに、ティオがどんどんと力を込めて俺の体を抱き締める。

 元々鬼人族は身体強化魔法との親和性が高く、呼吸するような気軽さでそれを発動できるため、感情の波に呑まれながら抱き着いたティオは当然の如く先ほどの拳さえ凌駕しかねない力を発揮していた。


「あ、ああ……俺も、ずっと、会いたかったよティオ……だから、その……そろそろ、離して貰えると、嬉しい、かな……?」


 先ほどでさえ、俺のエミリアの魔力さえ込めた身体強化魔法を超えて痛みをもたらした力が、更に強化されたのでは流石に抑えきれない。全力で対抗すべく魔力を高めているが、身体がメキメキと嫌な音を立てているような気がする。


「あー、その、お楽しみ中のところ悪いんだけどー」


 そんなティオを止めたのは、先ほど俺と一戦交えた吸血鬼の少女だ。改めて見るとティオとさして背は変わらないが、出るところが出ている女性らしい体型のせいかティオよりも大人びて見える。


「貴方がティオちゃんの探してた王子様なのは分かったけど、それで? 貴女、吸血鬼殺しじゃないの?」


「ちげーよ。悲鳴が聞こえたから駆けつけて、それらしいやつと交戦しただけだ」


 少女の言葉でティオの抱き締めが緩んだので、きっちり否定する。

 しかし、未だ納得いかないのか、訝しげな表情を浮かべていた。


「そうなの? それらしい気配は感じなかったんだけど……」


「いや、気配も何も、死体が転がってただろ?」


 実を言うと、殺すつもりはあまりなかった。言い訳がましいと言われればそれまでだが、まさかあの程度の攻撃で斃せるとは思っていなかったのだ。別に、やったことを後悔まではしてないけど。


「……? 何言ってるの? 死体なんて、吸血鬼の男の分しかなかったわよ?」


「えっ?」


 その言葉に、弾かれたように路地のほうを見やる。

 暗くてよく分からないが、《創造(クリエイト):索敵(サーチ)》で伝わってくる感覚では、確かにそこに倒れている魔人は1人だけだった。恐らく、吸血鬼のほうだろう。


「なんでだ……?」


 確かに、首を断ち切る手応えはあった。

 脇差を振り抜き、首が飛んで……


「ああ、そうか。くそっ」


 血だ。あの時、首を跳ねたのに血の一滴も飛んでいなかった。大方、ティオ達の接近に気付いてやられたフリして逃げ出したとか、そんなところだろう。逃げ足の速いことだ。


「その様子だと、貴方もしてやられたみたいね?」


「そうみたいだな」


 まあ、悲鳴が聞こえたのに聞こえなかったフリをして通り過ぎるのもどうかと思ってちょっかいをかけただけだ。ダメだったからどうということもない。


「レン、レン、この人達、誰なのー?」


 俺の袖を引きながら、警戒心たっぷりにルーミアが問いかけてくる。

 そんな様子にティオは複雑な表情を浮かべ、俺と吸血鬼の少女は苦笑した。


「こら、初対面の人指さしちゃダメだろ? 紹介するよ、この子はルーミア・ドラゴノイド。俺の……」


「友達!」


 俺の言葉を遮って、腕にぎゅっと抱き着きながらルーミアはそう宣言した。

 友達かぁ、どっちかというと親戚の子供を預かって面倒を見てるような感じなんだけど、それも悪くないかな。


「なんかもう知られてる感じだけど、俺も一応。レンだ。ティオの……兄貴分てとこかな」


 ティオには今更すぎるので、一緒にいる少女にそう自己紹介する。


「私はティオ。レンの家族だから、その……あまり警戒しないで欲しいな……?」


 ルーミアは戦闘になったことを気にしているのか、まだ俺の腕にしがみついたままティオを睨んでいる。砂漠で魔物と対峙していた時はこんなこともなかったのだが、どうしたんだろうか。


「ふふふ、その子はあれよ、自分の大事な王子様が盗られちゃうって思ってるんじゃない?」


「王子様ぁ?」


 何言ってんだコイツ。と思いながら吸血鬼の少女を見る。

 どう考えても俺は王子様ってガラじゃないだろう。そもそも奴隷だし。まあ、保護者ではあるつもりだけど。


 そんな俺の反応に、少女は面白がるようにくすくすと笑う。育ちが良いのか、そんな仕草にも品を感じさせるが、同時に子供の無邪気さも合わさってお転婆なお姫様と言った印象を受ける。


「ふふふ、まあいいわ。私の名前はセレナ・バレスタイン。ティオちゃんの……」


 そんな少女が、自己紹介しながらティオを後ろから抱きすくめる。

 そして、


「婚約者です!」


 そんなことを、のたまった。


「「ええぇぇぇぇぇ!!?」」


 通り魔の襲撃現場にはとても似つかわしくない叫び声が俺とティオの口から飛び出て、薄暗い昼過ぎの貴族街を駆け巡った。





 ひとまずあの場は警備兵の魔人達に任せ、軽い事情聴取をされた後、落ち着いて話をするためにセレナの屋敷まで案内されることになった。


「へー、まさかスペンド兄様と知り合いだったなんてねえ」


 セレナはスペンドさんの妹で、元々行くつもりだったこともあって渡りに船だった。

 そんなわけでやってきたバレスタイン公爵家だったが、予想に反しかなり質素な屋敷だった。

 もちろん平民街の家に比べれば大きくはあるのだが、ハルバートさんのいた洋館のほうがよほど大きく豪華だったように思う。これはハルバートさんのところが金をかけ過ぎというよりも、バレスタイン公爵家のほうが家にお金をかけていないんだろう。

 聞いてみたら、「家を飾り立てたって息苦しいだけよ、うちの人はみんなそう言ってるわ」とのこと。それでいいのか公爵家。


「兄様はあんまり魔法が得意でなかったから、外に行くって言ってた時は上手くやっていけるのか不安だったけど、もう大丈夫そうで安心したわ」


 渡した手紙を読み、嬉しそうに笑うセレナ。

 そんな彼女の隣にはティオがいて、俺はその対面。そして俺の隣にルーミアが座っている。


「うん、結構無茶やらかしてたけど、たぶん今頃は元気にやってるんじゃないかな。あと、ルーミアの菓子ありがとう」


 ちなみにルーミアは、ここに来るまでもずっと2人……というよりティオを睨んでいたのだが、ここでお菓子を出された途端そんなことはどうでもよくなったのかそれにかぶりついている。やっぱりまだまだ子供だな。

 ちなみにどんなお菓子かと言うと、餅っぽい何かの中に餡子らしき甘い物を詰め込んだ何かだ。面倒なので饅頭とでも呼んでおこう。


「それにしてもティオ、どうしてこんなところに? 魔大陸までどうやって来たんだよ」


 お菓子と一緒に出された、紅茶のような飲み物を啜りつつ尋ねる。

 魔大陸からアルメリア大陸までの移動は、俺自身かなり考えた。結局ロクな手段が思いつかなかったからこそ、ウルヴァルンから海を渡るという一番まともな方法を取ることにしたんだが……


「そんなの決まってるでしょ、レンを助けに来たんだよ! ドワル大砂漠を歩いて!!」


 ブーーーーーーーーッ!!


 思わず口の中の紅茶を噴きだしながら、今言われた言葉を反芻する。

 何? ドワル大砂漠を真正面から超えて来た? 徒歩で? ハハハ、んなバカな……


「汚いわねぇ、もうちょっと落ち着いて飲みなさいよ」


 そんな俺を横目に、平然と紅茶を嗜むセレナ。

 いやいやいや、おかしいだろどう考えても!


「いやティオ、一人で来たんだろ!? 歩いて超えれるような距離じゃないだろ!? その間の食料とか水とかどうしてたんだよ!?」


「えっ、魔物を食べてた」


「食べてたって……調理は?」


「生で食べた」


「生ぁ!!?」


「あと、水はないから代わりに魔物の血を……」


「魔物の血ぃぃぃぃ!!?」


 次々と告げられる衝撃の告白に、今いる場所も忘れて叫びまくる。どころか、居ても立っても居られずティオの傍まで寄って顔を覗き込む。


「えっ、れ、レン?」


「バカ野郎!! お前、身体、大丈夫なのか!?」


「えっ、えっ」


 魔物の体……特に血は、高濃度の魔力に汚染された猛毒だ。確かに砂漠において生物の血は万能食だと言われているが、魔物の血だけは飲んだらダメだ。


「落ち着きなさいよ、既にうちの医者が看て問題ないと診察しているわ。今のティオは健康体そのものよ」


「そ、そうか……」


 確かに、見る限りではティオは顔色もいいし、問題ないように見える。身体の中まで診察する術がないのがもどかしい。


「けどティオ、頼むからもうそんな無茶はするなよ? 魔物はちゃんと調理しないと毒になるんだから」


「うん……ごめん、レン」


「分かったんならいいよ。……心配かけてごめんなティオ。俺ならもう大丈夫だから」


「うん」


 シュンと落ち込んだティオの頭を撫でそう言うと、ティオも幾ばか表情が明るくなる。

 ふと、そんなティオの首元で輝くアクセサリーが目に入る。


「それ、まだ持ってたんだな」


「え? ああ、うん」


 魔力を蓄え、淡く輝く首飾り。丸みを帯びた雫のようなそれを指すと、ティオは嬉しそうにそれを手に取った。


「レンが初めてくれたプレゼントだもん、当たり前だよ」


「……そっか」


 最初こそ、ちょっとした記念にと言った軽い気持ちで作り始めた物だったが、こんな風に大事にされると俺も嬉しくなる。


「なら、ティオの嫁入り道具も俺が造ってやろうか? デザインの要望があれば出来るだけ叶えるぞ」


「ぶーーーっ!?」


 なので、ひとまず元の場所に座り直しながら軽い気持ちでそう尋ねると、今度はティオが口に含んだ紅茶を思いっきり噴き出した。

 そんなに驚くようなことか?


「なななな、何言ってるのレン!?」


「いや、だってお前、そこのセレナと婚約したんだろ? 家族の門出だし祝わないと」


 まさか同性婚に走るとは思っていなかったし、その相手が吸血鬼だなんて予想外もいいところだが、その辺りを禁止する法律があるわけでもない。ならやっぱり、家族としては祝うべきだろう。


「あら、随分あっさり認めるのね、『ティオは俺のもんだ!』とか言うかと思ってたのに」


 ティオがなぜか陸に打ち上げられた魚のごとく口をぱくぱくさせているうちに、セレナのほうは意外そうに話しかけてきた。


「ティオが自分で決めた相手なら否応はないよ。もし泣かせるようなことがあったらぶっ殺すけど」


 ある意味で、ティオは俺にとって初めての家族だ。幸せを願うのは当たり前だろう。

 ……まぁ、複雑な気分ではあるけどさ。


「いや、違うから!! 私婚約なんてしてないから!!」


「……そうなの?」


 セレナのほうに確認の視線を送ると、くすくすとこちらをからかうように笑いながら、ティオにしなだれかかった。


「私としてはティオちゃんと本当に婚約したいんだけどね~? どうもティオちゃんには本命の王子様がいるみたいだし」


「王子様?」


「なっ、何言ってるのセレナまで!?」


 またしても面白がるような笑みを浮かべ、セレナは俺のほうを見る。

 しかしまあ、話の流れから察するにティオにも好きな相手はいると。顔真っ赤にしてるし、多分これは本当だろうな。

 ……誰だろう、夜空宮殿にいるのかな?


「だめ! レンはルーミアのー!」


 すると突然、隣に座っていたルーミアが俺の腕にしがみついてきた。

 うーん、ルーミアはさっきからどうしたんだ? 今日はやけにスキンシップに飢えてるな。


「え、えーっと……ずっと気になってたんだけど、その子、ルーミアちゃん? どうしてレンと一緒にいるの? それから、レンだけみたいだけど、他の子達は……?」


「ああ、うん、その辺はこれから話すよ」


 改めて紅茶を軽く啜ってから、俺はこれまでのことをティオにかいつまんで説明する。

 魔王城での生活と、そこで交わされた契約について。そして、ついでにルーミアを騎竜代わりに社会見学に連れ出すよう頼まれたこと。そして何より、みんなを奴隷から解放する条件を。


「……そうだったんだ」


 話終わると、ティオは神妙な面持ちで考え始める。

 俺の敵は、あの時2人がかりで完敗を喫した悪魔だ。やはり心配なんだろう。


「じゃあ、私も一緒に……」


「その前に」


 何事か口にしようとしたティオの言葉を遮って、セレナが口を開く。

 その目は真っ直ぐ俺に向けられ、先ほどまでより幾ばか真剣な表情を浮かべていた。


「家族なんでしょう? ちゃんと本当のことを話したら?」


「……本当のこと?」


 特に偽ったつもりもないので首を傾げると、セレナは露骨に溜息を吐きながらティオから身体を離した。


「その悪魔を倒しても、奴隷から解放はされないでしょう? 少なくとも、貴方は」


「えっ……?」


 セレナの言葉に、ティオが目を見開いて驚きを露わにする。

 ……ああ、そのことか。

 しかし、それに気づくってことは……


「セレナは契約魔法のこと知ってるのか」


「まあ、ちょっとだけね」


 やっぱりかと言いたげに肩を竦めて見せるセレナに、俺は小さく溜息を吐く。正直、あまり俺自身気にしていなかったから忘れていたが、まさかティオの前で言うことになるとはな。


「契約、魔法……? レンは奴隷から解放されないってどういうこと!?」


 ティオが、見たこともない剣幕で俺に詰め寄ってくる。

 こういう反応が来ると思ったからこそ黙っていたかったんだが……仕方ないか。


「この首にあるのは単なる奴隷刻印じゃない、魔王から直接魔力を分け与えられる代わりに刻み込まれた、主従契約魔法の証だ。これのおかげで、俺は魔王の力の一部を行使できる代わり……死ぬまで魔王に隷属することになった」


「そんな……! なんで、レンがそこまでしなきゃならないの!?」


「じゃなきゃ、俺の力であの悪魔になんて勝てないだろ? だから、俺のほうから頼んだんだよ」


 そう言うと、ティオは押し黙る。

 この依頼を達成すれば、少なくともレイラ達は解放されるのだ。そのために俺が求めた力を、エミリアが恵んでくれただけ。

 実際には結構強引だった気がしなくもないが、同意したのは確かなんだから言う必要はないだろう。


「でも……だからって……」


「別に、自己犠牲ってわけじゃないよ。魔王城はそんな悪いところじゃないしさ」


 しかし、なかなかティオは納得してくれない。どう説明したものかと思っていると、セレナのほうから思わぬセリフが飛び出した。


「ああ、貴方、魔王に惚れちゃったのね」


 ぽんっと、一人納得したように手を叩いてセレナは言う。

 ……はい?


「ええぇぇぇぇぇ!!?」


 それを聞いて、ティオはまたしても素っ頓狂な声を上げた。

 目を白黒させ、明らかに今日で一番驚いている。


「いや、ティオ、違うからな?」


 誰があんなやつに惚れるか。

 セレナもいい加減なこと言いやがって全く……


「そういうわけだからティオちゃん、コッチはコッチで仲良くしましょっ」


 そんな風に思っていると、セレナは未だ放心状態のティオに再び身を寄せ――そのまま首筋に噛みついた。


「ふあっ!?」


「んなっ!?」


「ん~、ティオちゃんの血はやっぱり美味しいわね~……はむっ、ちゅっ……」


「セレナ、い、いきなりは……ひゃうっ!!」


 わざとらしく音をたて、セレナはティオの血を吸っていく。


 一応、夜空宮殿に来るにあたって事前に吸血行為については調べてある。

 吸血鬼にとって血とは食料ではなく、どちらかというと嗜好品でありドーピング……とは少し違うが、力の源であるらしい。

 悪魔は魂の不滅により滅びを知らず、悠久の時を生きて力を蓄えることで最強の魔人と言われるのに対し、吸血鬼は高い再生能力を持つ不老の肉体と、他生物の生き血を吸うことでその力の一部を我が物とする特殊能力によって強大な魔力を獲得している。

 つまり吸血鬼というのは、ほぼ全ての生物において唯一長生きする以外の方法で自らの魔力を高めることができるのだ。


 そんな吸血鬼であるからこそ、自らが血を吸う相手をかなり選り好みする。具体的には、その相手はほぼほぼ例外なく伴侶として迎え入れ添い遂げるのが基本らしい。そういった理由から、元々長命でほとんど子を成さない種族なのもあって同性婚も珍しくないんだとか。

 つまりは、セレナがそれだけティオを気に入っているということなんだろうが……


「ふあっ、あっ、あぁん……!」


 吸血鬼の大きく鋭い牙を首筋に突き立てられるという、ちょっと痛いどころじゃ済まない行為をされているにも関わらず、ティオは抵抗しない。どころか、その身体は赤く上気し、声もなんだか色っぽくて色々とやばい。

 何がやばいってルーミアの教育上大変よろしくない絵面だ。

 こちらは眉唾物だと思っていたが、吸血鬼に血を吸われるのに性的快感が伴うというのは本当だったらしい。


「れ、レン、見ないでぇ……!」


「お、おう」


 ひとまず、睨んでいた相手がいきなりおかしなことになって困惑しているルーミアの耳と目を塞いで後ろを向く。


「レン??」


「ルーミアは見ちゃいけません」


 ティオと会えたのは、素直に嬉しい。元々鬼人族ゆえに人とあまり関われなかった彼女が、自力で、たった一人で砂漠を超え、仲の良い相手を見つけられたのも祝福すべき事柄だ。

 ただ、俺も男だしせめて2人だけの時にやって欲しかったなー……なんて、響き続ける喘ぎ声を聞きながら思ったのは、決して間違いじゃないはずだ。


「や、やっぱり助けてレン~!」


「うふふ、もっと吸わせてっ」


 まあ、元気そうで良かった……のかな?

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