遭難
「エミリアのバカヤローーーー!!!」
「?」
憎たらしいほどのサンサンと輝く太陽により朝から気温はうなぎ上りの下降知らず。額から湧き出る汗は止まらず、吹き付ける風すらも熱を持って全く涼しさは感じず、むしろ砂混じりで痛いくらいだ。
そんな砂漠のど真ん中で唐突に叫ぶ俺を見て、状況の分かっていないらしいルーミアは首を傾げる。
魔王城を飛び立って二日。飛行時間ではレイラに遠く及ばないルーミアだったが、その速度はとんでもなく、かなりの距離を移動した。それなのに、行けども行けども街どころか人っ子一人見えない。
さすがにおかしいと思い、改めて注意深く羅針盤を見て……ようやく壊れていることに気付いた。
当たり前だが、方位を見失った砂漠で、これだけ長距離を移動してしまったのでは帰ることすら容易ではない。エミリアに連絡もしてみたが、さすがに現在地が分からないから自力で頑張るのじゃ! と、イラッとくるくらい軽い口調で言われてしまった。文句の一つも叫びたくなるというものだ。
「レン、レン、喉乾いたー!」
「ああ、うん、分かった。ちょっと待っててなルーミア」
空になった水袋を差しだし、おねだりするルーミアからそれを受け取ると、すぐに創造魔法で大気中から水を作り出し、満タンにしてやる。
砂漠と言うと、大地も空気も乾き切っているイメージがあるがそうではなく、実際にはある程度空気も湿度を保っている。が、しかし、それはあくまで前世の世界での話であり、この世界ではどうなるか不安だったが、多少魔力消費が多いだけで問題なく飲み水を作り出すことが出来た。これを知った時は、ルーミアに気付かれぬよう心の中でほっと安堵の息を吐いたものだ。
「んまー!」
満タンになった水袋を渡すと、遠慮なくごくごくと飲み干して満足気に笑うルーミア。
普通なら砂漠の旅で水の節約を考えるところだろうが、創造魔法のお陰で水は俺の魔力の続く限り無限だ。特に咎めることもせず、再び水袋を受け取って入れ直してやる。
ちなみに、ルーミアの服装は出発前に纏っていた外套の下に、ルナさんから貰った荷物に入っていた毛布を創造魔法で作り直して衣服にしたものを着こんで貰っている。いくら見た目小さな子供だからと言って、女の子が外で裸同然の恰好なのはよろしくない。ラスカと同じようにぶーぶー文句を言われたが、そこはしっかり言い聞かせてやった。
「しかしほんと、どうするかなぁ」
竜人と言うからには実は俺よりルーミアのほうが実年齢は上なのかと思ったが、立ち振る舞いを見る限りでは本当に見た目相応の歳な様子だ。言ってはなんだが砂漠超えの役には立たなそうなので、自分でどうにかしないといけない。
客観的に見れば、砂漠に幼女と2人きりで放置というのはかなり絶望的なはずだが、実際のところそこまで切羽詰まってはいない。
水はこの通り無限だし、暑さに参りだしたら氷にすることも、何なら逆に風呂を沸かすことだってできる。砂が大量にあるため石造りの簡素なワンルーム1階建て住宅程度なら即座に建築できるために砂嵐も無問題だし、ある程度地面から距離を置いたツリーハウス風にすればそれだけで砂中から奇襲してくるサンドワーム対策にもなる。
唯一の問題は食料だが、それも別に、飢えに苦しんでいるというわけではない。
「レン、あそこ、ご飯!」
「こらルーミア、あれをご飯と呼ぶんじゃありません」
ルーミアの指差した先に現れたのは、ケルベロスの群れ。その数、5頭。
「今度こそ自力で仕留めたい……けどっ!」
俺は即座に腰から万華剣を抜き、その形状を太刀へと変える。
その間に、ケルベロスは素早く散開しつつ、正面の1頭が俺目掛けて突っ込んできた。
「ルーミアは下がっててな?」
「うん、がんばれレンー」
砂漠の灼熱の大地さえ素足で歩いてなんともないルーミアだが、さすがにケルベロスの攻撃で同じようにはいかないだろう。ひとまずそう告げると、ルーミアは素直に従って応援してくれた。
その無邪気な応援に俄然やる気を出しながら、向かってくるケルベロスに真っ直ぐ太刀を振り下ろす。
「ぐっ……!」
しかし、やる気を出したからと言って俺の力は変わらない。ケルベロスを両断するくらいのつもりで放った斬撃は、その牙とぶつかり合って火花を散らすのみで押し留められる。
相変わらず攻撃方面で全く力を引き上げてくれない身体強化魔法に苦々しい想いを抱きつつも、半ば以上予想していた結果であるため次の行動はケルベロスより速かった。
「《創造:大地の剣》……!」
俺が押し留められているということは、ケルベロスもまたその場に縫い留められているということに他ならない。即座に地面から岩の剣を屹立させる。
以前はケルベロスの剛毛に強度負けしてあっさりへし折れたそれだが、この半年間俺だって魔王城で遊んでいたわけではない。今度こそ、それは無防備な腹に深々とめり込んでいく。
「……三連!!」
そして、その結果を最後まで確認する前に更に二本、砂の大地より剣を突き立て、先んじて放たれた物と合わせて三本、ケルベロスの身体を最後まで貫き通し、絶命させる。
「《創造:壁》!!」
以前はラスカの助けがあってようやく倒せた魔物。それを一人で打ち倒した余韻に浸ることなく、すぐに両手を広げ、左右に岩の壁を作り出す。
直後、両側から飛来した炎の塊が壁と激突し、派手に弾け飛んだ。破片がいくつも俺にぶつかるが、身体強化魔法のお陰で別段痛みもない。
「こんの……!!」
砕けた岩の欠片に、衝撃で舞い上がった砂埃。それらに紛れ、右側に位置していた2体のケルベロスのうち1体に向けて横薙ぎに太刀を振るう。しかし、ケルベロスは巨体に似合わない素早い動きで後ろに飛び退き、再び炎を吐いてきた。
「うわっぷ!?」
まともに食らい、地面を転がる。
幸い、俺の強化魔法は防御特化な適正を存分に発揮し無傷で済んだが、体勢が致命的なまでに崩れてしまった。
当然、その隙を見逃すケルベロスではない。残る3頭が一斉に飛び掛かってくる。
「あー、もう……! やっぱりこうなるのかよ……」
慌てることもなく、寝転んだままにただ溜息を吐く。
1対1なら何の問題もなくケルベロスを倒せるようになったし、1対2でもどうにでもなるのだが、それ以上ともなるとどうしてもこんな風にしてやられることが多くなる。やっぱり、俺はまだまだ未熟だ。
そう自嘲しながら、俺は意図的にセーブしていた力を解き放つ。
その瞬間に身体中から溢れ出たのは、深い闇色を湛えた暴力的な魔力。エミリアから貰った、魔王の力の断片だ。
「はぁ……《創造:剣身乱舞》!!」
投げやりな口調でその名を紡ぐと、地面から、再び岩の剣が屹立する。
しかし、1本ではない。10本、100本と、俺を中心に辺り一面から数えきれないほど大量の岩の剣が生み出され、それら全てが俺に飛び掛かるケルベロスへと延び、殺到する。
いかにケルベロスが素早かろうが、空中で四方八方から高速で迫る剣を避け切れるはずもない。間も無く3頭全てが身体中を串刺しにされ、抵抗の間も無く絶命した。
その結果を確認した後、よっこらせ、と身体を起こす。向かってこられても問題ないと思っていたからこその緩慢な所作だったが、さすがに仲間4頭を屠られては戦闘続行の意志はなかったのか、釣られることなく最後のケルベロスは一目散に逃亡していった。4頭だけでも正直食べきれないので問題ないが、1対1なら良い訓練になるかとも思ったのでちょっとだけ残念だ。
俺はエミリアの力を得てから、魔力量がちょっと信じられないくらい激増し、かなり大規模な改変が出来るようになっていた。それこそ、ケルベロス程度なら技術も何もない力押しでも余裕で押し切れる程度には。
しかし、そんなやり方では魔物はともかく、フビデビには通用しないだろう。なので、少しでも俺自身のスキルを磨こうと普段はエミリアの魔力を抑えて、自前の魔力のみを使って戦っているのだが……今のところ、それではケルベロスの群れすら満足に捌けない。自分の才能の無さに泣きそうだよ、全く。
「レン、レン! 早くご飯、ご飯!」
「ん、あぁ、ルーミア。そんなはしゃぐな、すぐ作るから」
ひとまず手頃なケルベロスの死体の傍に屈むと、太刀をサバイバルナイフのような形状に変更し、その肉を解体する。
あまり大量に調理しても魔物の肉はすぐ腐るので、今食べる分だけ小分けにすると、それに対して創造魔法をかける。
創造魔法は、基本的に命ある相手には通用しない。けど、死体に対してと、意志を持たない植物。それから、本体から切り離した部位なら別だ。
このおかげで、特に労せずケルベロスの肉の血抜きを行うことが出来る。ルナさんに教わったが、魔物の肉を食べる場合に最も重要なのがこの血抜きで、高濃度の魔力に汚染された魔物の血は人間には酷い猛毒となるらしい。なので、創造魔法を使いつつ1適残らず切り分けた肉から血を抜いていく。
それが終わったら、岩で適当に皿代わりのテーブルを作りつつ、その上に肉を置いて創造魔法で太陽光を収束。じっくりこんがりと焼いていく。
そのまま食べると臭みがとんでもないし、焼いたからと言って完全になくなるわけでもないが、せめて雑菌などは完全に除去するために焦げる寸前まで熱を通す。
早く早くとルーミアが急き立てるが、一気にやろうとしたところで焦げの部分が広がるだけで中までは熱が通らない。じっくり時間をかけて焼き上げる。
「ほら、出来たぞルーミア。熱いから気を付けろよ」
「うんっ! いただきまーす!」
気を付けろと言ったのも聞かず、ルーミアは顔と同じくらいのサイズがある肉塊を素手で掴み、大口を開けてかぶりつく。
まぁ、竜人……もとい、鋼龍は熱への耐性が高いのは分かっているのでそれはそこまで気にしないが、やはり元日本人としては素手で食べるのは行儀悪く見える。とはいえ、今は皿もフォークもナイフも箸も何もないので俺もそうせざるを得ない手前、そんなことを言うわけにもいかない。街にたどり着いてから教えてやればいいだろうと考え直し、俺も身体強化魔法で熱を防ぎつつ肉塊を手に取り、一口齧る。
「んっ……うぅん、やっぱり微妙……」
ケルベロスの肉は、多少焼きすぎなほど焼いたにしてもかなり堅く、未だ臭みもあって正直美味いとは言い難い。香辛料でも使えばまた別だろうが、砂漠のど真ん中でそんなもの望むべくもない。
結果として、砂漠のくせに元気な魔物がわんさといるので量には困ってないが、質的な意味で大変不満が残る結果となっている。もちろん、同じように砂漠超えをしようとしている人がいたら激怒されそうなくらい贅沢な悩みだとは思うけど。
「んーっ! おいしい!」
いっそ創造魔法があるんだし色々作って蒸したり茹でたりしてみるか、等と考えている横ではしかし、なぜかルーミアにはケルベロスのこんがり肉は大変好評だった。
竜人だとやっぱり味覚も人と違うのか、それとも、もしかして普段はこれより不味いものでも食べていたのだろうか……
そんな風にルーミアの故郷での食事事情に考えを巡らせながらも、視線は一応周囲を油断なく見渡して魔物を警戒し続ける。
すると、不意に視界の端で、地面が弾けた。
「ん……?」
そこまで近くではないが、あれだけ砂が巻き上がるということは相当な何かがいるのだろう。自分の中の警戒レベルを引き上げながら、魔法で視覚を強化しつつ何が起きたのか観察する。
そうしてまず見えたのは、サンドワームの群れ。と言っても、元々群れるような魔物でないため、どちらかと言うと偶々近くに固まっていた個体が、同じ餌を巡って競争しているというのが正しいのかもしれない。その証拠に、本来は砂中を進んで不意打ちすることで獲物を狙うはずが、今はイルカか何かのように砂上を飛び跳ねるようにのたうちながらグイグイ進んでいる。
その数は3体。そして、そんな連中に目を付けられた哀れなる餌はというと、浅黒い肌と翼を持った、小さな子供。それは俺にとって因縁のある種族であり、同時にこの半年で既知となった者と同じ種族でもある。
「悪魔の子供か……?」
悪魔というと、フビデビの圧倒的強さが真っ先に連想されるが、そうでないことはもう魔王城にいるディバインという存在が証明している。このまま放っておけば、あの子もサンドワームの餌食となるかもしれない。
「ルーミア、飛べるか?」
「うんっ」
その考えまで至ると、すぐにルーミアに向き直る。
直前まで食事に夢中だった以上俺がそれを頼む理由は何も分かっていないはずだが、その返事には一切の躊躇がない。信用されてるのか、それとも子供の無垢さゆえか。何にしろ、お陰で間に合いそうなのでよしとする。
「行くよー!」
掛け声と共に外套を投げ捨て、なぜか服まで脱いでいく。
まぁ、そうなるだろうとは思っていたので脱ぎやすいように作ってはいるのだが、やはり一言注意したほうが……いや、でも今急いでるしなぁ……
そんな風に考えているうちにルーミアの竜化が完了したので、ひとまずそれは置いておいて、脱ぎ捨てられた服を回収すると同時に飛び乗る。
「あそこ、サンドワームの真上まで頼む! なるべく早めに!」
『分かった!』
グオオオォォォ! と咆哮を轟かせながら、鋼の龍は一個の砲弾の如きスピードで空中を疾駆する。振り落とされないように、ケルベロスの毛を創造魔法で加工して作ったロープに強化魔法を施しつつ身体を固定してはいたが、数百メートルはあろうかという距離をものの数秒で埋めてしまうほどの圧倒的加速はジェットコースターなんて目じゃないくらい怖い。魔法がなければ余裕で振り落とされるかGで押しつぶされていただろう。
というか、俺としてはもう少しゆっくりめに加速すると思っていたから真面目にびっくりだ。これ、ちゃんと止まれるのかな……いや、待てよ。止まる必要はないのか。
「ルーミア、そのまま上下逆さに飛べ!! サンドワーム共の頭上スレスレ飛ぶ感じで!!」
『うん!』
俺の言葉に素直に従い、ルーミアが空中で錐揉み回転する。
それにより俺の上下が反転し、頭上に砂だらけの地面が映り、正面にはもう数舜後に通り過ぎるであろうサンドワームが捉えられる。
「行くぞこのミミズ野郎がーーーー!!!」
しっかり自分の足をルーミアの身体に固定すると、万華剣を肩越しに構え、全力で振り下ろす。
もちろん、それだけでは届くわけもないが、振りながら出し惜しみせずにエミリアの魔力を注ぎ込み、勢いに乗せるごとにどんどんその質量を増加させ刃を伸ばしていく。
「だらっしゃああああああ!!!」
やがて、それが俺の頭上と地面とを直線で結ぶ頃には、刃渡り5メートルを超す巨大な大剣となり――ルーミアが生み出した推進力のままに振り抜かれたそれは、3体のサンドワームを一刀の下に斬り捨てた。
「おーい、大丈夫かー?」
「うーん……はっ!?」
サンドワームを斬り捨てた後、追われていた子供……見た目10歳くらいの少年の元へ降り立ったのだが、困ったことにルーミアの鋼龍の姿を見て卒倒してしまっていた。
仕方ないのでルーミアを元の姿に戻し、服を着せ直した後に少年の頬をぺしぺしと叩きながら起きるまで待っていたのだが、なんとか意識が戻ったようで胸を撫でおろす。
「よかった、気が付いたか」
やっと見つけた人だ。集落か街かは分からないが、この子の家のある場所まで案内してもらおうと思って助けたのに、これで意識が戻らなかったらかなり面倒なことになるところだった。
別に、目的のフビデビの詳しい位置が分からないので調査がてら寄り道するのは一向に構わないのだが、砂漠で立ち往生するのを良しとするほどゆったりした旅でもない。是非とも俺達のナビゲーターになって欲しいところだが……
「こ、ここは!? ていうかサンドワーム、ていうかドラゴン!! ど、どこ!? 夢!? わぷっ!?」
少年はがばっ! と飛び起きると、辺りをきょろきょろ忙しなく見まわしながらどこへともなく駆け出そうとして、砂に足を取られ思いっきり転んでいた。
うん、まさかルーミア見た程度でここまで取り乱すとは、あまり当てにならないかもしれない。鋼龍になった姿を見ても驚きこそすれ取り乱すことなくすぐ受け入れていたレイラ達を見習って欲しいものだ。もっとも、見習おうにもこの場にはいないんだけど。
「ここはドワル大砂漠、サンドワームならもう倒したよ、あとお前の言ってるドラゴンはこの子な」
ひとまず、このまま放っておくのも可哀想なので疑問に一つずつお答えする。
サンドワームを倒したところまでは実際目にしていたはずなので理解できただろうが、最後の一言、俺が頭に手を置いて示したルーミアを見て、少年はすこぶる訝しげな表情を浮かべた。
「……えっ、この子? あのドラゴン?」
「おう」
さすがに竜人という存在を知らないわけではないだろうが、あのいかにも強そうで格好いい鋼の龍と、目の前の小さな女の子とを結びつけるのはやはり難しいらしい。かく言う俺も、逆の立場だったら間違いなく何かの冗談だと思う自信があるが。
「ま、まぁいいや、助けてくれてありがとう! オレ、アル! アルフォンス・ネイル!」
「俺はレン。こっちの子がルーミア・ドラゴノイドだ、よろしくな」
「よろしくなー!」
ひとまずルーミアの正体については置いておくことにしたのか、改めてお礼に合わせ自己紹介されたので、ルーミアの分も合わせて紹介しておく。
それに合わせて元気に笑うルーミアと、ついでに俺の顔とを交互に見るアルフォンス。何か思うところでもあるのかと思っていると、やがてその視線は俺の首元で固定された。
「2人とも、何者なの? 奴隷ってことは“国”の人なんだろうけど、その割には服がボロっちぃし、でもすっごい強いし」
「“国”?」
含みのある言い方に首を傾げると、アルフォンスは信じられないものを見たような顔でこちらを凝視した。
「国は国だよ、“夜空宮殿”。まさかそれも知らないの?」
「いや、えーっと、確か吸血鬼の国だったよな? 詳しいことは知らないけど」
確か、吸血鬼の真祖が治める、砂漠の中にあって常に夜の闇に閉ざされた街があると魔王城に居た時に聞いたことがある。
もっとも、ウルヴァルンやランバルトとは全く違う方向だったため、行くこともないだろうと大して調べなかったが……
「……もしかして、この近くにあるのか?」
「うん。って、ほんとに知らなかったんだ……もしかしてレン達、遭難してる?」
アルフォンスの言葉を聞いて、俺はがっくりと項垂れる。
羅針盤が壊れていたからもしやと思っていたが、やはり全く見当違いの方向に進んできていたらしい。
「え、えーっと……助けてくれたお礼もしたいし、良かったらうちの村まで来る?」
「ぜひお願いします」
色々と察してくれたのか、そんな提案をしてくれるアルフォンスに、俺は腰を直角に曲げるほど頭を深く下げながら即座に頼み込んだ。
一時はどうなることかと思ったが、なんとかなりそうだ。当てにならなそうだなんて思ってごめんな。
そんな風に心の中で謝罪しながら、俺はルーミアを伴って、アルフォンスの村へと向かった。