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ティオの大冒険

丙提督ゥー!甲茶が飲みたいネー!

はい、そんな風に言われつつのんびりゲームしつつ細々と書き進めておりますジャジャ丸です。

今回は少しばかり時間を巻き戻してティオ視点でのお話です。

 私の名前はティオ。孤児だからセカンドネームはないです。


 物心ついた時には既に両親に捨てられていたみたいで、その理由はたぶん、私が鬼人族として生まれてしまったことが原因だと思う。


 亜人は、人から迫害される存在。理由は色々あるけど、やっぱりみんな、人の天敵である魔物や魔人に近しい存在は怖いんだと思う。


 実際、私は小さい時から周りの子と比べて物凄く力が強かった。その力が魔法によるものだって分かっているけど、軽く力を入れただけで勝手に発動しちゃうから、ほとんど私自身の力と変わりなかった。


 そんな私の頭に残っているのは、大鬼(オーガ)として生きたかつての自分。

 どこかの森で、他の魔物との縄張り争いをして、倒した魔物を喰らって、同じ大鬼(オーガ)を守って、戦いに明け暮れる。そんな記憶。


 それがあるからこそ、目の前にいる小さな子供達がどれだけか弱い存在か、今の自分でさえ、軽く触れただけで簡単に殺せてしまうことがすぐに分かってしまった。


 ミラ先生はきちんと力を制御できるようになれば大丈夫だって言ってくれたけど、それでも私は怖かった。毎日毎日一人で制御の練習をして、“力を入れる”ことと“魔法を使う”ことを分けて出来るようになっても、それでも私の中の記憶が、数多の魔物を屠ったイメージが、いつか私の力で取り返しのつかないことをしてしまうんじゃないかって想像させて、一向に他の子と関わることができなかった。


 だから……あの夜、レンが現れて、絶対に俺は傷つかないって行動で示してくれたことは、凄く嬉しかった。家族だって言って貰えて、本当に嬉しかった。


 一緒に寝て、一緒に起きて、一緒に魔法を練習して、一緒に料理して、一緒にご飯食べて、一緒にお出かけして、プレゼントまで貰って……レンには、数え切れないくらいたくさんのものを貰って、本当の兄妹みたいに可愛がってもらえた。そのおかげで、他の子とも仲良くなれて、私にとって、あの場所は本当に家族みたいに温かかった。


 それなのに、


「恨むなら、自らの無力を恨め」


 私の力は、やっぱり取り返しのつかないことをしてしまった。でも、それは予想していたのとは真逆のこと。

 力が及ばなくて、弱すぎて……レンの足を引っ張った。あのゴーレムの魔法は、悪魔に放つために用意してたもののはずなのに、私なんかを守るために使わせて、挙句、私に意識を割かせてしまったばっかりに、悪魔の攻撃をむざむざレンが喰らうことになってしまった。


 私がもっと、強ければ……


 その時初めて、私はそう思った。




 結局、レンに加えて、レイラちゃん、フィオナちゃん、ケビン君の4人が攫われた。


 戻って来たミラ先生に事情を話して、その後いくら捜索しても、レン達も、悪魔の足取りさえ掴めなかった。精々、何頭かのケルベロスが見つかって駆逐された程度。


 そんな捜索も、1週間程度で打ち切られた。元々、一度奴隷に堕ちたらそこにどんな事情があろうと所有者の物になってしまう以上、見つけたとしても取り戻すことは叶わないと。その上、もし本当に魔大陸に運ばれたのなら、もはや生存すら絶望的なんじゃないかと言われた。


 それを聞いて、私は泣いた。人目も憚らずに、一晩中泣いた。


 もっと出来ることはなかったのか、もっと他にやりようはあったんじゃないか、そんな意味のない考えが何度も頭を巡って、後悔と無力感で押しつぶされそうだった。


 そんな風に、泣き続けて……ふと、胸元で淡く輝く首飾りが目に入った。


 レンが、お守りだと言って私にくれた首飾り。レンが作って、その魔力が込められ光る私の宝物。

 握り締めれば、まだレンの温もりが感じられるような気がするそれを見て、私はようやく決心がついた。


 そうだ、まだレンは死んだと決まったわけじゃない。例え魔大陸に行っても、きっとレイラちゃん達を守るために頑張ってるはずだ。あの悪魔と対峙した時、そうだったように。

 なら、私も諦めない。レンを見つけるまで、足掻き続けてやる。


 そう決めてからは早かった。持つ物もほとんど持たないままに、ミラ先生が止めるのも聞かず孤児院を飛び出した私は、コルタリカにある冒険者ギルドで冒険者登録をした。

 冒険者は、魔物の討伐やそれらに対する護衛を生業とする人達の総称で、コーレリアの南に位置する宗教国家ラルフォリアにギルドの本部が設置されている。


 この組織に入れば、身分が保証されると同時に、国家間の出入りが比較的容易になる。これは、いざ魔大陸から魔人が攻めてきたり、S級クラスの強大な魔物が発生した場合、国家の枠組みを超えて対処する必要があり、それを円滑にするための仕組みだ。


 私はすぐに、コルタリカの隣街にあたるムルヴァンに向かった。そこはコルタリカと違って近くに魔力溜まりになってる森があって、アカリナとの国境に位置する街であると同時に魔物の危険がずっと大きい。そこで、まずは片っ端から森の魔物を駆逐した。


 出て来る魔物は、スライムとかゴブリンとか、ケルベロスに比べても弱っちいのばっかりだったから、一人でも何の問題もなかった。半日で数えきれないくらい狩って、借りて来た荷車を使ってその素材を持ち帰って換金。ギルドの受付の人が、目が飛び出るんじゃないかってくらい驚いてたのが気になったけど、ひとまずそれで最低限のお金を作ったら、すぐにランバルトに向かう商隊の護衛依頼を受けて国境を越えた。


 元々、ムルヴァンの街はアカリナから来る商人の人達と、それを守るための冒険者で賑わう街。そういう依頼はすぐに見つかった。


 おかげで、ミラ先生に見つかって咎められるより早くコーレリアを出ることが出来た私は、ランバルトの最北端、要塞都市タイタンまで向かい、手持ちのお金で買えるだけ食料と水を買って持ったら、すぐに冒険者ギルドでドワル大砂漠での魔物退治の依頼を受注した。


 その時、ランバルトは亜人差別が酷くてひと悶着あったけど、急いでた私は鬱陶しくなってその人をぶっ飛ばしちゃった。なんか一気に空気が凍り付いてたけど、どうせすぐ出る国だからどうでもいいやと思って、すぐにそのギルドは出た。冒険者は荒くれ者が多くて喧嘩は日常茶飯事だって言うから、大した問題はないだろうし。


 ともあれ、そんな風に大急ぎでドワル大砂漠まで出たはいいけど……


「うーん……ここどこだろう」


 迷った。思いっきり迷っちゃった。


 もう、レンのことで頭がいっぱいで、魔人の国にさえ行ければ後は適当な人を脅して場所を教えて貰おうくらいに思ってたけど、そもそも、羅針盤もなしに砂漠が真っ直ぐ歩けるわけがなかった。魔人の国に着く以前の問題だ。


 ことここに来てようやく冷静になった私だったけど、もう遅かった。森と違って障害物も何もない砂漠なら、戻るくらいは問題なく出来ると思ってたけど、思ったより奥まで来てしまったのか、ランバルトの要塞がどこにあるのかも分からない。


 ……レンを見つける前に、まずは生き残らないとなぁ……


 額から落ちる汗を拭いながら、そう思った。




 一週間経って、持って来た食料も水もあっさり底をついた。元々大荷物じゃなかったからすぐ無くなるのは仕方ないけど、それにしても歩けど歩けど何も見つからない。精々、魔物と出くわすくらい。


 ムルヴァンで森に入った時は、大鬼(オーガ)だった前世の記憶のお陰か、深く考えなくても方向が分かったけど、砂漠の経験はないからさすがに分からない。


「うー……お腹空いたし喉渇いたなぁ」


 レンならこういう時、何もないところからいきなり水を作れるのになぁ、と不意に孤児院でレンが見せてくれた魔法のことを思い出して、急速に私の心を寂しさが満たす。

 でも、こんなところで止まっていられない。レンに会うまで、諦めるもんか。そう自分を奮起して、ぐいっと熱くなった目頭を袖で拭う。


 ……袖についてた砂で目が痛くて、別の意味で涙が出て来たけど、それはともかく食べ物と水がないと死んじゃう。どうにかしないと……


 そう思った私の足元から、小さな振動が伝わってくる。


「おっと」


 砂漠に入ってまだ一週間にも関わらず、すっかりお馴染みになったその感覚に素早く反応して、その場から飛び退く。直後、私が一瞬前までいた砂の大地を突き破って、巨大な芋虫みたいなのが飛び出してくる。


 サンドワーム――砂の中を自由自在に動き回り、今みたいに突然現れて獲物を捕食する魔物。


 レンの《創造(クリエイト):流砂蚯蚓(サンドワーム)》って魔法のモデルになった魔物らしいけど、確かに地面から飛び出て、そのまま時間を巻き戻すみたいに戻っていく姿はあの魔法にそっくりだ。


「逃がさないよ!」


 でも、このまま逃げられればまた地面から不意打ちされる。飛び出た直後は無防備になるそれに飛び掛かり、私はいつものように拳に魔力を纏う。


「《衝撃(インパクト)》!!」


 身体強化魔法を施した拳の威力に、攻撃魔法としての《衝撃(インパクト)》の力を上乗せして、サンドワームの横っ腹に叩き込む。

 ズズンッ!! と重苦しい音が砂漠に響き渡り、全長10メートルを超える巨体が地面から引っこ抜かれるようにして吹き飛び、砂の大地を転がって動かなくなる。


 ケルベロスよりずっと強いって言う話だったけど、砂からの不意打ちにさえ気を付ければ見かけ倒しの木偶の棒だから、あんまり強くないね。出て来る前にも結構分かりやすい振動があるし。

 問題は寝ている時の不意打ちだけど、これも案外、私の身体は異変に気づけばすぐ目を覚ましてくれるおかげでなんとかなってる。


「はあ……ただでさえお腹空いてるんだから、余計な運動させないでよぉ……」


 けど、いくら弱くても、お腹が空いた今の状態だとあまり戦いたくない。

 せめて、これが食べれるなら……そう考えた時、頭に電撃のような閃きが駆け抜けた。


「……そういえば、前にレン、魔物の肉は珍味食材だって言ってたよね」


 記憶に蘇ったのは、一緒に料理してた時にレンが言っていた言葉。

 魔物の肉は、一部の愛好家の間では珍味食材として人気が高いって……


「よしっ」


 これ、食べよう。

 腹ペコだった私がその発想に至るまで、数瞬の時も必要なかった。




 はい、お腹壊しました。


 調理も出来ない環境で、得体の知れない魔物食べたんだから当然だよね。お腹というより、むしろ全身が痛い。食中毒って言うんだっけ、これ。


 でも、自己治癒魔法を使えばなんとか耐えられるから、いっそ一部だけでも食べたんだし全部食べ尽くしちゃえ、ってことで、肉はもちろんあんな見た目の割に意外と赤かった血も飲めるだけ飲んだ。肉もそうだけど、血もまたとびっきり不味かった。でもお陰で空腹と喉の渇きは癒えたし、結果オーライだよね。


「でも、こればっかりじゃなぁ……もうちょっと美味しい魔物いないかなぁ」


 そうやってぶつぶつ呟きながら歩いていくと、ぴょこんっ、と、狐のような小さな動物が姿を見せた。


 ……美味しそう……じゅるり……って、そうじゃなくて。


「こんなところでも魔物じゃない動物なんているんだ」


 サンドワーム、ケルベロス、ジャイアントバット。他にも、この砂漠には多数の魔物が存在していて、それぞれがこの過酷な環境で生存競争を繰り広げている。魔法の使えない普通の動物が生き残るにはあまりに辛い場所だと思うけど、それでもなおしっかりと存在していた。


 それを見てふと思ったのは、この子は水をどうしているんだろう、という素朴な疑問。


 魔物は摩訶不思議な生態をしているので参考にならないけど、こういった普通の動物は私と同じように餌と水が無ければ生きていけないはずだ。だとしたら、この子はそういった普通の何かの場所を知っているはず……


 というわけで、食べるのは後回しにして尾行してみることに。

 レンみたいにキチンと魔法で気配を消したりは出来ないけど、砂漠で伏せて様子を伺っていればこの熱波もあって私一人の気配くらいは簡単に覆い隠される。問題はなかった。


 ……伏せてる間に、目とか口とかに砂がいっぱい入ってくるっていう問題はあるけど。


「あれは……」


 しばらく尾行していると、やがて砂以外のものが視界に映る。 

 青く、ほんの僅かな緑に囲まれたその場所は……


「オアシスってやつだ!」


 レンに、1度だけ聞いたことがある。ドワル大砂漠なんてところで、どうして魔人は生活できるのか。

 その時に教えてもらったのが、オアシスという砂漠の水場。細かい理屈は説明されても分からなかったけど、ともかく今は真っ当な水がそこにあるということが大事だ。ここまで案内してくれた狐モドキさんに感謝しつつ、もう身体強化魔法を使いながら全速力で水辺まで駆け寄る。


「んっ……! 美味し―!」


 やっぱり、まともな水はサンドワームの血なんかと比べ物にならないくらい美味しかった。

 そのまま浴びるように飲んだ後、持っていた水袋にいっぱいに水を入れ、立ち上がる。


「これなら3日は飲まず食わずでも頑張れる! 待っててね、レン!」


 サンドワームを食べたことによる身体の痛みはまだ残ってるけど、やけに漲る力を感じながら、この砂漠のどこかにいるレンに向けて、力強く叫んだ。





「レン……本当に、どこにいるの……?」


 日が沈んで、登って、また沈む。段々数えるのも億劫になって、この砂漠に入ってから何日経ったのかもよく分からない。ただ分かるのは、かなり長い時間が経ったということだけ。


 そんな私の足元には、ついさっき仕留めたワイバーンが転がってる。滅多に見ない魔物で、硬い鱗に覆われた身体と、腕に一体化した翼を持っていて、下位のドラゴンとも言われている存在。空を飛ぶだけあってサンドワームよりだいぶ手ごわいけど、その分肉の味は鳥肉を硬くした感じで魔物の中では大分マシな部類だったりする。


 そんな獲物が獲れれば前はもう少し喜んだものだけど、最近はそんな元気もない。

 別に、魔物を食べ過ぎて身体を壊したとかじゃない。むしろ、ずっと食べてたせいか最近では身体が痛くなることもなくなったくらい。


 ただ、いくら歩き回っても一向に終わりの見えないこの砂漠の探索に、希望を失いつつあるだけだ。


 レンは今、どうしているだろう。

 レンもまた、この砂漠のどこかを彷徨っているのだろうか。それとも、魔人に追われているのだろうか。

 それとも、もう……


「……っ!!」


 一瞬頭を過ぎった可能性を無理矢理追い出すように首を振り、八つ当たり気味にワイバーンの肉を食べる。

 他の魔物よりマシとはいえ、それでも1万歩譲って悪くないと称せるかどうかというレベルの味に顔を顰めるけど、食べなきゃレンを探すことも出来なくなるんだからと言い聞かせながら無理矢理飲み込む。


 食事と言うのもおこがましいただの栄養補給を終えると、胸元にぶら下がったレンの首飾りを眺める。


 私の服は、長い砂漠生活と魔物の返り血ですっかり薄汚れてボロボロになり、髪を縛っていた紐もとっくに切れ、手入れも何もしていないために無造作に伸びてすっかりカサカサだ。今の状態の私を見たら、レンも私だとは気づけないかもしれない。


 そんな出で立ちになった私ではあるけど、それでもこのお守りだけは変わらず温かい光を出し続けてくれている。これが無ければ、私はとっくに心が折れて、この砂漠で一人息絶えていたと思う。


 それをそっと手で包み込むように抱いて、どこかにいるレンを想う。この時だけが、この砂漠での生活の中で唯一の私の至福の時間。微かに残るレンの温もりを感じて、もう一度立ち上がる力を分けて貰うのだ。


 ――しかし、魔物はいつもそんな私の事情なんてお構いなしに現れる。


「オオオォォォォォ!!!」


 音が、ただそれだけで衝撃を伴うほどの咆哮。

 砂の大地を突き破って現れたのは、全長20メートルほどはありそうな1体のドラゴン。サンドワームなどは地中を進むために硬質な外皮は持たず、滑らかで柔らかいために防御力が低いのだけど、これはそれと同じように地中から現れたのにそんな様子は微塵もなく、むしろ身体中を岩石で覆い、見るからに頑強そうだ。


 1対の翼は巨大な身体に比して貧弱と呼べるほどに小さく、とても飛べるとは思えない。むしろ、砂の中で生活するために退化していったのかもしれない。

 代わりに、その四肢はワイバーン程度一撃で踏みつぶしてしまえそうなほど太く、4足でしっかりと地面を踏みしめる様はまるで巨大な岩山に立ち向かっているかのような錯覚を与えてくる。


 岩石龍(アースドラゴン)……確か、そんな名前だったか。


「人が楽しんでる時に……邪魔しないでよ」


 いつもなら、倒せるかどうか分からないような相手は戦わず、襲われでもしない限り手を出さないようにしてる。でも、この時ばかりは間が悪く、レンが見つからないストレスもあってかなり気がささくれ立ってしまっていた。


 だから、私はほとんど八つ当たり気味に、自ら岩石龍(アースドラゴン)の眼前に立つ。


「悪い子は……食べちゃうよ?」


 そう告げて、私は拳を握り締めた。





「はぁっ、はぁっ……!」


 力尽きるように、私は砂の上で大の字に寝転ぶ。


 さすがに、ワイバーンのようなモドキと違って、本物のドラゴンは強かった。

 身体中をくまなく覆う岩石は魔法でその強度が上昇していて、私の拳でも容易には砕けず、その鈍重そうな見た目に反して意外なほどの素早さで体当たりを仕掛けてくる。


 さすがに、これほどの質量がぶつかれば私の身体もただじゃ済まないから、一撃入れては退いて、一撃入れては退いてと長時間に渡って繰り返しながら、その岩石を少しずつ砕いていくという、神経をすり減らすような戦闘を長時間続けるハメになってしまった。


 そして、岩石さえ砕いてしまえば中は流石に柔らかかったようで、《衝撃(インパクト)》を撃ち込んで中からズタズタにしてようやくその活動を停止するに至る。


「あ……もう、夜だ……」


 気づけば、真上にあったはずの太陽が既に地平線の彼方に沈む寸前だった。ほぼ半日以上戦い続けていたみたいだと気づくと、身体が急に空腹を訴えてくる。

 とんだ八つ当たりになってしまったけど、仕留めたからには私の戦利品だ。ひとまず腹ごなしをしようと、岩石の隙間から覗く岩石龍(アースドラゴン)の肉にかぶりつく。

 ワイバーンがそうだったように、やはり強い魔物ほど肉も美味しくなるのか、今まで食べた魔物に比べてかなりマシなそれを味わいつつ、溢れてきた血も啜る。


「――――ッ!!!?」


 瞬間、身体中を今までにない激痛が襲った。

 ここしばらく魔物を食べても平気だったから油断していたとはいえ、今までの比じゃないそれに思わず身体を抑えながら砂の上をのたうち回る。


「あッ……ぐッ……!」


 自己治癒魔法を使うが、身体の痛みはほとんど引かない。

 あまりの痛みに動けないどころか、呼吸の仕方すら忘れたかのようにうまく空気を吸い込めず、目がチカチカする。


「ふーん、岩石龍(アースドラゴン)を一人で倒すなんて、凄いのね。けど、まさか生で食べるなんて……貴女、死にたいの?」


 そんな中、不意に聞こえた声に全身の痛みも忘れて身体を硬直させる。

 ここは砂漠地帯、それも、魔物がひしめく危険なドワル大砂漠だ。そんな場所に、人間がいるはずがない。

 そう、人間は。


「あっ……うっ……」


 目を向ければ、そこに立っていたのは一人の女の子。

 歳の頃は私と同じくらいに見えるけど、ウェーブのかかった金色の髪と、その身を纏う白いふりふりのついた赤いドレスは綺麗に手入れされていて、育ちの良さを感じさせる。

 そんな彼女の目は、面白い玩具を見つけた子供みたいにキラキラと輝いていて、鮮血のような真紅の瞳が薄暗くなっていく周囲の中で不気味に浮かび上がっている。それに何より、空いた口から覗くのは、長く、鋭く尖った牙。


 吸血鬼――レンを奪った悪魔と同じ、魔人。やっと見つけた、手がかり。

 なのに、私の身体は動かない。必死に手を伸ばし、這って進もうとしても砂を掴むばかりでちっとも動かない。


「もう、そんなに睨まないでよ、別に貴女を取って食おうってわけじゃないんだから」


 砂の上で足掻く私の頭に、その吸血鬼はそっと手を載せる。

 何をする気かと身構えるも、言葉通り何もするつもりはないのか、優しく撫で始めた。


「あっ……」


 久しぶりに感じる、人肌の温もり。人じゃなくて魔人だけど、私の心はその感覚に落ち着きを取り戻し、撫でられるに任せてしまう。


「ふふっ、ねぇ……貴女、うちに来ない?」


 それが、私にとって2度目となる運命の出会い――吸血鬼、セレナ・バレスタインとの出会いだった。

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