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転生

基本は週一更新になります

 友達と呼べる相手は大していなかった。

 両親共に仕事が忙しく家を空けがちで兄弟もおらず、転勤を繰り返したせいで誰かと仲良くなるよりも別れるほうが早かった。

 最初のうちは親に当たったこともあったけど、そんなことを繰り返すうちにやがて諦め、人と距離を置くようになり、親しい人間など一人もいなくなっていた。

 だから、だろうか。

 いざ、自分が死ぬとなっても、未練や後悔もなく、自然と受け入れられてしまった。

 その日はいつものように、学校へ向かう道を歩いていた。

 交差点に差し掛かった時、ちょうど信号が青になったのを覚えている。

 その時、急いでいるのか、赤信号に変わったのにスピードを落とさず向かってくる車が見えた。このまま進むと危ないかと思い、足を止めたんだが……その車が見えなかったのか、もしくは止まるだろうとタカをくくっていたのか、青信号になると同時に1台の車が発進する。

 「あっ」と思った時には、もう遅かった。慌てて回避しようとハンドルを切った信号無視の車が、躱しきれずにもう一台の車と接触。そのままバランスを崩し――あろうことか、足を止めていた俺のほうに突っ込んできた。

 衝撃と、浮遊感。

 痛みはなかった。もしくは、その感覚が頭に届いてないだけなのか。やたらと引き延ばされた時間の中、迫りくるコンクリートの地面を見ながら、特に思い浮かべる走馬燈もなく。ただ、「あ、死んだかも」と、やけに他人事のように考えながら――俺の意識は、暗転した。





 気が付いたら、目の前には青空が広がっていた。

 えっと、何が起きたんだっけ……そうそう、確か車に轢かれて、それで……

 目の前が青空、ということは、ここは病院でも救急車の中でもない外。つまり轢かれた時のままというわけで、案外気を失ってた時間は短いのかもしれない。

 ひとまず自分の状態を確認しようと、身体を起こそうとして……全く動かないことに気付く。

 まぁ、轢かれたんだから当然か。すぐに気が付いたからそうでもないかと思ったけど、やっぱり結構重症なんだろう、多分。

 でも、それにしてはどこも痛くないな……もしかして感覚もないほど重症なのかな? まぁ、痛みにのたうち回るよりはいいか。


「あらあら、大変。シアちゃん、シアちゃん、ちょっと来て~」


 すると、傍から随分間延びした声が聞こえてきた。

 目を向けると、そこにはブラウンの髪を肩のあたりまで伸ばした、20代後半くらいに見える女性が立っていた。

 いや、大変なのはそうなんだけど、目の前で交通事故が起きたんだし、もう少し緊迫感とかないんだろうか?

 雰囲気といい、声色といい、穏やかな感じの人みたいだし、これでも十分切羽詰まってるのかもいしれないけど。


「どうしたの先生……って、その子どうしたの? 捨て子?」


 女性に呼ばれて来たのだろう、まだ幼い少女が僅かに怒りの滲む声色で紡いだ言葉に、ん? っと疑問符を浮かべる。

 捨て子? はて、確かに家族仲が良いとは言いきれない家庭だったが、捨てられた覚えなどない。というかそもそも、事故った人間を指して捨て子とはどういう了見だ。それよりまずは救急車呼んで欲しいんだけど。


「このまま放っておくわけにもいかないし、シアちゃんは中に戻ってお湯沸かしてきてちょうだ~い」


「は~い」


 などという俺の心の声が届くはずもなく、女性に言われ、少女がどこかへ走り去っていく。

 お湯なんて何に使うんだ? と疑問を投げかけたかったが、どうも声すら出せないようで、見送ることしかできなかった。仕方ないのでそのまま女性の方を見ていると、視線に気づいたのか、まるで聖母のような慈愛に満ちた表情を浮かべて俺のほうに手を伸ばし……あろうことか、俺を軽々と抱き上げた。


「(はあぁ!?)」


 やっぱり声は出なかったが、心の中で思いっきり叫ぶ。

 別に特別背が高かったわけでもないが、こんな線の細い女性になんの予備動作もなく抱えられるほど小さくも軽くもないはずだ。見かけによらず力が強いのだとしても、こんな子犬を抱き上げるような気軽さで持ち上げられるなど、ボディビルダーでもなければ無理じゃなかろうか。

 そんな俺の混乱など露知らず、女性は俺の胸元にあったらしい紙切れを手に取った。


「レン君か……いい名前ね。これから辛いこともあるだろうけど、ちゃんと私が守ってあげるから、安心してね~」


 そうして優しく撫でられて……ようやく気づく。

 力云々以前に、俺の身体がすっぽり女性の腕に収まっているということに。

 俺の手足は動かないのではなく、異様に短くなっているということに。

 つまり今の俺は――ただの赤子に戻っているということに。


「(はあぁぁぁぁぁぁ!!?)」


 言葉を紡げない口の代わりに、心の中でもう一度盛大に叫びながら、俺――レンは、ようやく自分が、一度死んで生まれ変わったらしいということを理解した。

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