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第24話

「いいけど、なんで突然? それも、キャンベルの家のことをなんで母さんが?」

「理由なんかどうでもいいじゃないの。行くわよね? 私の家にいつまでも留まって新婚夫婦の邪魔をするのは、あんただって嫌でしょう?」

「母さん、あのな――」

 母親の後ろから男のきびしい声が飛び、怒鳴りかかったレスターの言葉が遮られた。やめなさい、という男の声の後に、だってあの子がいたら困るじゃないの、と、ヒステリックに叫ぶ母親の声が電話を伝って響いてきた。母親の新しい夫は電話口にいるレスターを気遣うような口調でかばっていたが、母親は、息子が出て行くべき理由をありったけ並べ立てて夫に反論していた。電話の向こうに話題の主であるレスターがいる事などお構いなし、だ。

 聞こうとしなくても勝手に耳に入ってくる話の内容で、レスターのお腹が鈍い痛みを訴え始めた。二人の生々しい会話はすべて筒抜けで、レスターを気にかける素振りをみせている義理の父も、結局のところ、無神経である。


「――母さん? もういいよ、わかった」

 沈んだ声でレスターが口をはさむと、二人の言い争いがぴたっと止んだ。

「レスター?」

「俺、行くのが嫌なんて言ってない。俺がここにいるといろいろと都合が悪いだろうってのは、よくわかってるさ。 それに母さんがここに帰ってくるんならペットのお守りももう必要もないし。ああ、だけど、ケンタウルス、だっけ? 俺はそれが家にいるってのも知らなくて、母さんのいう留守番の役目もまともに果たさなかったんだよな」

「――あんたって子は何を言うの? 行く所に困ってたのはどこの誰? 私の家にいられなかったらあんたはどこにも行く宛がなかったじゃないの!」

「そんな恩着せがましい言い方はやめてくれ、母さん。母さんは俺にケンタウルスのおもりをさせたかっただけだろ?」

「ケンタウルスじゃなくてケンタロウよ! 何であんたはそんなにひねくれた見方をするの! 私はホームレスの息子の心配をしただけでしょ、あんたは母親にもっと感謝すべきだわ!」

「だったら少しぐらい息子と会おうとしろよ! ほんとに息子の身が心配なら、自分が帰ると同時に俺を追い出すことなんかしないだろ? それが実の母親のすることか?」

「あんたは私の結婚式にも来なかったじゃないの! それが息子のやることなの!?」

 レスターは声になるほど、思い切り大きいため息をついた。

「いろいろあって、式になんか行ける状況じゃなかったさ。それぐらい、知ってるだろ? というか、そんな事、気にもしてなかっただろ?」

「レスター! 私があんたの立場だったらそれでも行ったわよ! 母親の結婚式なのよ!?」


 突然、レスターはケンタロウのケースをひっくり返してやりたい衝動にかられた。カメレオンの“彼”を見てみると、白い小石の上でぶらぶらと左右に揺れながら移動している。苛つくくらいにのんびりとした動作だ。緑の生物ケンタロウは殺気だったレスターの視線をものともせず、地面をのんきにマイペースに動いている。

「レスター、あんたって子はねえ・・・・・・」

 彼の母親があきれたように言い、不意に、レスターは我に返った。

「母さん、もういいよ。いつ戻ってくる? 母さんたちが戻ってきたら、俺はミニョンに発つよ」

 レスターは母親にそう言いながら、父親や恋人が替わる度に各地に引っ越していった子どもの頃を思い出した。自分の意思に関係なく、母親の後について住む場所を転々とした子ども時代。

 またホームレスに逆戻りだ、と彼は自分につぶやいた。

 母親がさっきレスターのことを“ホームレス”と呼んだのも、実は、当たっている。レスターが家のない状況だったのは今になって始まったことじゃなく、母親が彼の父親と離婚したその瞬間から、彼のホームは消えてしまった。

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