#3 転機
なんだかんだ3作目。いつまで続くのやら……
「この学校を『治める』か……」
漠然とした目標について、神代は漠然と考えていた。
あの布告があって数分しか経っていない。この世界が偽りである時点で混乱するのに、追い打ちをかけるように『治めろ』とは、いくら優秀な桜ヶ丘中学校(略して桜中)の生徒でも理解するのに時間がかかる。
しかし、こんな状況でも、他と一緒に埋もれまいと志す者がいた。神代がそうであったし、扶桑がそうであり、金剛がそうであった。
扶桑 珣璃。同じ2年A組だ。クラスの中ではそれほど目立つ存在ではないが、かといって陰キャラという訳でもなかった。『中立派』である。神代とは小学校からの付き合いで、仲良くしてもらっている。神代は自分が許した人(その基準はよく分からないが……)としか話さないし関わらない性分だが、彼に対してはむしろ好感を抱いている。
金剛 宏也。神代とは対象的に、クラス、否、学年においてトップを争うほどの目立つ存在だ。1年のときは学級委員(我らが桜中では伝統的に学委と呼称している)も務めていた。今年度は生徒会長を狙っているそうだ。性格が二極化している2人だが、互いに嫌ってはいなかった。金剛に対しては、自ら先頭に立ってリーダーシップを遺憾なく発揮するすごい奴だと評価していた。金剛もまた、成績優秀で頭のキレる奴と神代を尊敬さえしていた。2人とも何か接点がないか探っているところだ。
この他にも、3人のように学年の中枢人物として頑張ろうとする者もいたが、明らかに『頭』がなかった。結局神代、扶桑、金剛という彼らが有力であった。
しかし、彼らはいずれもクラスの中心であるべき存在『学委』ではなかった。神代は委員会無所属だし、扶桑は給食委員、金剛は体育委員であった。この学校では学委の次に給食委員(学級委員に倣って『給委』とでも言おうか)と体育委員が重宝されており、これはタイムリーな仕事がほとんどであったり、統率することがある委員会であるからだ。けれども、たかが専門委員会。先頭に立ってどうにかするのは学委でしょう。
その学委が平砂 聡斗であり、相原 真梨であった。2人はわずかな期間ではあるが、立派にこの仕事を務めてきた。平砂に限っては2年目というだけあって仕事ぶりは安定している。しかし、神代は見抜いていた。この2人に足りないもの、それは適応能力だった。きちんと仕事もするし、ミスもほとんどない。これは良いことだが、逆に言えば長所がそれだけなのだ。金剛曰く、「面白味がない」のだそうだ。その通りである。決まったことしかしないのが学級委員様の仕事と言うべきだ。神代にとって学級委員という組織は頭の固い連中としか思っていない。口には出さないが、嫌っていた。組織とそれに関わる者=登坂を。
「学級委員さん、ちょっと……」
顔くらいの高さで(神代の肩より低い位置で)手招きをして登坂は2人を呼び出した。この流れはお決まりのもので、感じたこと、提案したいことがあったときにその内容を伝える場合に多様される。つまり、担任自身が思ったことを自分からは言わず学委である2人に言わせる作戦だ。全く、自分の考えくらい自分の口で言えよと思う。
どうやら今回の件は重要らしく、3人は廊下に出た。
「また呼び出し喰らってるよ。」
隣の北澤が話し掛けてきた。彼女の言う『呼び出し』とは『先生に扱き使わされる』の意味である。
「可哀想な奴らだ。」
「本当……」
しばらくして帰ってきた3人衆は2人は教卓の前にもう1人は教師用の椅子の背もたれに寄りかかり、キィと鳴っている。
「ええ、今の現状から考えて、えっと、まとめなきゃいけないです。あ、いけないんですけど……」
呆れたものだ。さっさと続けろ。
「それで、みんな混乱して大変だと思うのですが、代表者を決めたいと思います。」
まず1つツッコませろ。誰よりもあたふたして混乱していたのは、間違いなくお前らだ。大変なのは、この世界がパラレルワールドであることではなく、前に立つ2人の心許ない進行に付き合うことだ。
「ちょ、平砂君……」
「ん?」
手違いかな?
「代表者は決めるっていうか───」
最後まで聞こえなかったが予想は付く。
「あっ、そうか。ええと、その代表者と言っても詳しい人は少ないとは思うので、え?」
「いや、何でもない。」
「少ないはずなので、僕たち学級委員が代表者として───」
ビンゴだ。あの登坂という奴はそういうことを指示するからな。果たしてうまくいくのやら。
神代は内心ニヤニヤしていた。彼は期待していたのだ。新たな、そして相応しきリーダーが出現するのを。
「いや、少し待て。」
静寂から割り込む野太い声。その声の主は次期生徒会長であった。
期待通りだ。リーダーが出現するのも。そのリーダーが誰なのかも。
その時の間抜けな学委の顔と虚を突かれたように目を丸くする登坂の顔の両方は、生涯忘れることはないだろう。神代の全身を大いなる優越感が包んだ。
「是非俺もそちらの世界に関わらせてもらおう。」
「でも、僕たちが……」
「そうよ。これは決定事項というか、先生の意向だから。」
「知らんな。」
「先生……」
助けを求めるような視線を学委の2人は向けた。全く、どこまで哀れな人なのだろう。求める人を間違えたこと、そしてそれに気付かないなんて。
「そこは学級委員さんにお任せしますよ。」
テレレ テッテッレー(←ドラ○クエのレベルアップの効果音っぽく読んでください)登坂のレベルは2上がった。信頼度はマイナスに突入した。
さすがは神代が見込んだだけの男だ。拍手を送ってやりたい。
「そんな……」
「お任せされたみたいですが、どうしますか。」
「た、多数決をとりましょうか。」
「おいおい……」
「自信がないの?」
随分と強気ですな相原さんよ。他人事のように(他人事だけど)眺めていた神代は頬杖をついていた。
「自信がなければこんな真似しねーよ。それに、俺には『切り札』があるからな。」
「何よそれ。」
「それは俺が選ばれてから言うよ。」
そしてまもなく多数決が行われ、無論可決された。(お決まりがあるでしょ、ね)
そこまでは問題ない、後はどうやって新組織に馴染むかといったところか。だが、その心配はなかった。
「それで、その『切り札』っていうのはなんなの?まさか、みんなを釣る材料じゃないでしょうね。」
「ご安心を学級委員様。そいつは既に準備済みですから。なあ、神代?」
「は?」
三作目、いかがだったでしょうか。前回に引き続き長いです。
さて、中盤のストーリーと最後の終わり方は自分も気に入ってはいませんが、私の技術では精一杯でしたので、妥協しました。説明の文章が多くつまらないかもしれませんね。ごめんなさい。次回から段々と会話が増える(はず)予定です。
今回はこの辺で……
(^.^/)))~~~bye!!