想われニキビは事実を語る
想われニキビ(吹き出物。ここではニキビに統一)をご存知だろうか。
おでこにできれば想いニキビ。
右頬は振られニキビ
左頬は振りニキビ
そして顎にできれば想われニキビである。
他にも諸説あるが、特にこの4つ、近年その信憑性が論議されていた。
そしてつい先日、人が持つ感情とニキビの相関関係が立証されたと、ネイチャーに報告された。
何故かそうなると、該当者が急に増え出すのは、不思議な現象だ。
一部皮膚の弱い人を除き、街では顎に絆創膏を貼る女性が増えてきた。
「私モテてます」
というステータスと見栄なのか。
また、気の多い人は、おでこに絆創膏ではなく、包帯を巻いて隠した。
また、週刊誌では、ニキビの有無で記事が書かれる始末。
ただ、半年後などに実際に熱愛発覚とか、結婚の記事に繋がるものだから、ニキビ面とセットに印刷された。
そこに僕が登場する。
ある朝、鏡を見ると、顎に無数のニキビが出来ていた。
それとおでこに4つ。
「なんだよこれ・・・」
ちょっとやそっとじゃ治らなさそうだ。
正直に話すと、僕はモテる。
勉強も上位で、部活でもキャプテンを勤めてる。
今年は生徒会の副会長であり、既に地元の大学にも推薦を貰っていた。
おまけに街を歩けば、声をかけられ、雑誌にも紹介されるくらいだ。
これで、僕はモテないですから、というのは嫌味でしかない。
なので、モテる。
それが故に気になる子も複数いてしまう。
ただし。
今、鏡に映る僕の顔、特にニキビの状態はかなり頂けない。
仕方がないので、顎には大きな絆創膏、おでこはあまり目立たないので、そのまま学校に行くことにした。
母親にからかわれ、姉にはキモいと言われたが無視した。
学校に近づくにつれて周りでヒソヒソと声が聞こえる。
バツが悪いけど、しょうがないし。
友達が、裏山とか冷やかすけど、こっちは切実になんとかして欲しい。
痒くてもかけないし、跡になって欲しくない。
昼になり、トイレで鏡を見ると右頬にニキビが出来ていた。
「なにこれ?!」
思わず叫んだけど、普通こんな短時間でできるものじゃない。
「うわ・・・キモ」
一緒にいた友達が呟く。
「朝、こうじゃなかったよな?」
「そんな、お前の顔なんて気にしてねぇよ」
顎に気を取られて気がつかなかったのかな。
そう思いながら顎の絆創膏を取って見ると。
朝から比べて半分ニキビが近くない。
「減ってる?!」
いや、いくらなんでも。
薬なんて時間がなくて塗ってもないし。
だいたい3時間程で良くなる事もない。
寝ぼけてたのか、気のせいか、そう思いながらトイレを出た。
午後の体育の授業。
僕はかなり活躍してしまった。
遠巻きから女の子達の人だかりが出来ていた。
授業が終わって、洗面室で顔を洗い顔を見て見ると、左頬のニキビが減ってた。
「マジ?!」
恐る恐る絆創膏を剥がす。
顎のニキビが・・・増えてた。
「マジ?!」
もう一度叫ぶ。
・・・移動している?
いやいや、そりゃないっしょ。
疲れたので、もうこれ以上考えたくなかった。
「帰って寝よ」
そう思い、下駄箱で靴に履き替えていると。
女の子が話しかけて来た。
「ちょっと2人でお話、したいんです・・・」
真ん中に1人、後ろに4、5人の女の子達。
あー、今日はちょっと、と思ったが断れない。
何故なら、僕が気になってる子だから。
「いいよ。場所変える?」
笑顔で答える。
不意に左頬をがムズムズしてきた。思わず触る。
・・・ヒクヒクしてる。これはもしかして。
場所を移動している時に鏡があったので横目でみた。
・・・やっぱり減ってる。
僕たちは校舎の端っこで止まった。
「あの、好きです。付き合って下さい」
目の前で頑張って告白する彼女。
・・・胸にズンと来た。
なんだか、かわいいな。
ちょうど今いないし、いい子そうだし。
モテてる余裕か、軽い気持ちで答えた。
「うん、いいよ。僕も気になってたんだ。こちらからもよろしく」
僕なりの精一杯の笑顔と共に答えた。
告白した女の子の少し後ろで、その子の友達らしき子がスマホをいじってる。
拡散中か。
目の前の子が泣きながら話す。
「あの、ありが・・・ひっ!!」
女の子の顔が嬉し泣きから恐怖に変わった。
「な、なに?!」
ふっと顔に意識を持っていくと、両頬が痛痒い。
両手を頬に当てると。
ボコボコしていた。
今も動いている。
「ちょっと、ちょっと待ってて!」
慌てて洗面所に向かい、鏡をみた。
ニキビが、顎から、まるでニキビの遠足のように動いていた。
右70%、左30%位。
おでこのニキビも1つを残して右頬に移動してた。
「キモ・・・」
自分の顔だけど、これはそう認めるしかないな。
人の気持ちがこんなに簡単に動くんだ、と思うとなんだかバカバカしく思えて来た。
さっきの場所に戻ったけど、彼女はもういなかった。
あの後も僕は逃げるように避けられた。
ニキビも半年位でほとんどなくなってしまったけど、いろんな意味で、気にしなくなった。
あれから一年。
大学に入ってから、僕はまだ彼女を作っていない。
顔じゃない、僕をみてくれる人を探して。
ちょっと時間がかかるけど、大切な事。
僕は顎のニキビをさすりながら、そう思った。
いかがでしたでしょうか。
CMを思い出したのでさらさらっと書きました。
深いものなんてありません