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俺、令嬢やってます。

俺、令嬢やってます。(女性向け)

作者:

 第一王子ジェラルド。

 スラッとした長身で、高い鼻に薄い唇、キリッとした眉の下にあるその目は鋭く、孤高の鷹を思わせる。


 そんな絵に描いたような王子様を、わたくし、貴族の令嬢ユーナエルは遠くから、



 ――殺意を持って見つめていた。



 何故ならわたくしは、......中身が男だから。



 何故に男である俺が、あんなイケメン野郎見てうっとりせにゃならん。

 爆ぜればいい。内側から爆ぜればいい。もしくは、その飲んでるワイン気管に入らせてオエッてなれ。




 中世ヨーロッパのような世界に、俺は前世の男としての記憶を持ったまま、生まれ変わってしまっていた。貴族として生まれ喜ぶ間もなく、自分の性別を知って俺は絶望した。

 でもそんなのはもう十八年も前のことである。さすがに諦めがついている。


 ここは、王城。パーティーの真っ最中だ。

 このパーティーは貴族の令嬢達を集めて定期的に行われている。なんでも第一から第四までの王子が結婚相手を見つける場らしい。

 王子達に対して、てめぇら良い身分だな!? とは思うが相手は王子だ。良い身分だった。



 今もジェラルドの周りには、着飾った令嬢達がわんさか詰めかけている。

 もちろん俺はその中に混じるつもりはない。中身が男なのだ。俺ほど王子に興味がないやつは他にいないだろう。

 前世が男ならば男の好むところは熟知しているんじゃないか? と言う人もいるだろうが、実行する立場になってみなさいよ、と言い返したい。



 しかし、俺がこのパーティーに参加するのにはある目的がある。

 それは一重に我が妹分、ティナを応援するためだ。

 女の立場になって分かったのだが、あの令嬢の小娘達はかなり性格が悪い。

 王子を取り巻きながらも、その裏で互いに肘打ちしたり服を引っ張ったりしている。


 そんな裏事情を知って辟易していたときに出会ったのだ。

 ティナ(天使)に。



 ティナ(天使)は天使(ティナ)だった。

 控えめな性格で、取り巻きに混ざろうとするも一発肘打ちを食らって即座に外野へ。しかしその肘打ちした令嬢のドレスに糸屑が付いているのを発見すると、気付かれないようにそっと取ってあげるのだ。しかもその糸屑をどこに捨てれば良いのか分からず、握ったまま家に帰った。


 俺はそれを見たとき決意した。

 この子を幸せにしてみせる、と。


 もちろん俺がティナと結婚することはできない。

 ならば彼女の恋路を全力でサポートしようじゃないか。

 ティナは容姿は普通ぐらいだが心が綺麗だ。そこに俺が加われば鬼に金棒。

 俺に任せろ。


 次のパーティーのとき、俺はティナに近づき仲良くなった。

 話してみてもティナはとても素直な良い子だった。今じゃ俺のことをユーナお姉様と慕ってくれている。

 そして話を聞いてみるとティナは第四王子のシュルツ君が好きとのことだった。

 シュルツ君は、ほわほわとした雰囲気の優しい笑顔の男の子だ。

 これもまたティナがティナ足る所以だろう。他の令嬢どもが高い身分を求めて第一から第三に群がるなか、ティナは純粋にシュルツ君のことが好きなのだ。

 ティナとシュルツ君。

 なにそのカップル。こんな応援したくなるカップルないだろ。


 そして今回、俺はティナにある指示をした。

 パーティー会場を抜けてトイレに繋がる通路でのことだ。


「ティナ、ちゃんと持ってきましたか?」

「はい、ユーナお姉様!」


 ティナの手には小さめの本が握られている。

 ティナが小さい頃から大好きな本とのことだった。


「では、ティナ。パーティーが終わるまでそこの椅子に座ってそれを読んでいなさい」

「えっ......。で、でも私シュルツ様とお話が......」

「私を信じなさいティナ、信じる者は救われるのです」

「は、はい」


 適当なことを言ってティナを納得させる。こんな適当なことを言ってティナは納得した。



 数分後。俺は物陰から本を読むティナを眺めていた。真面目に読んでいる。君は天使(アホ)か。


 そしてさらに数分後、シュルツ君がトイレに向かって歩いてきた。

 シュルツ君は他の王子達と違ってそれほど人気がない。一時的に取り巻きがなくなってその間にトイレに行くことが多いのだ。ちなみにいつもはその一時的な一人ぼっちシュルツ君をティナは遠くから眺めている。残念ながら一人で話しかけに行くほどの度胸がティナにはなかった。


 しかし、だからこその作戦である。


 案の定一人で本を読んでいるティナにシュルツ君が話しかけた。


「何を読んでいらっしゃるのですか?」


 それに気づいたティナは顔を一瞬で真っ赤にしてあわあわしだす。

 それでも小さい頃から読んでいる大好きな本のことだ、何度もつっかえながらも必死で内容を話す。顔は真っ赤だけど楽しそうに話している。それをシュルツ君も笑顔で聞いている。

 結局そのあとティナとシュルツ君はパーティーが終わるまでずっと二人で話しているのだった。


 それからは俺は特にすることもない。パーティーが開かれる度にティナとシュルツ君は仲良くなった。それを見咎めた他の令嬢どもがティナに何かしようと近づいたりもしたがそんなの俺が許すはずもない。ああん、うちの天使さんに何か用でもあんのかああん?



 ある晩のことである。ティナが我が家にやってきた。

 ティナは何やら慌てていた。


「ユ、ユーナお姉様どうしましょうっ。シュルツ様にお忍びで街に出て、デ、デートしようと誘われてしまいました!」

「お忍びでデート? あのシュルツ様がそんな大胆なことを?」

「何でもジェラルド様に勧められたそうで......」


 なるほどあの野郎か。

 確かに言いそうだな。


「良いではありませんか、シュルツ様は優しいお方ですからきっと楽しめますよ」

「そ、そうですよねっ! そうですよねっ!」


 落ち着きなさいよ。でもそんなところも可愛いよ。マイエンジェル。


「わたしっ、シュルツ様とデートに行って参ります!」

「ええ、楽しんでいらっしゃい」



 そしてデート当日である。ティナもシュルツ君も一般的な服装で街を歩いている。手を繋げないのはもちろんのこと、二人とも距離を計りかねて近づいたり、遠ざかったり、近づきすぎてティナがびくっとなったり、見ててとても微笑ましい。


 え? 俺? もちろん尾行しています。ティナ達を誰かが襲おうとしないとも限らない。そのときは俺が守る。でももしシュルツ君がはっちゃけてティナに手を出そうとしたら俺が襲いかかる。


 ティナもシュルツ君もとても楽しそうだ。ティナは終始顔が真っ赤だが良い笑顔をしている。


 二人で屋台で買い食いしたり、安物の装飾品を見て回ったり、そんなこんなしていると二人は路地裏に迷い混んでしまった。

 それを見て俺は焦る。こらっシュルツ君しっかりしなさいよ!


 そして近くに怪しい男がいるのに気づいた。近くと言っても二人のじゃない。俺の近くだ。

 眼鏡をかけた、身長の高い男だ。顎髭が盛大にもじゃもじゃしている。そいつはティナとシュルツ君を見て何やら焦っていた。

 何こいつ。人のデート裏から覗き見るとか変態なんじゃないの。なんか焦ってるし。

 いやねーこわいわ。


 しかし俺は気づいてしまった。

 あれ。これジェラルドじゃね?

 あのキリッとした眉も鷹の様な鋭い目も見覚えがある。

 あー。こいつジェラルドだわ。

 自分でデート勧めといて心配になってついてきちゃったブラコンのお兄ちゃんだ。

 この変態め。なんだよその髭。



 とか思っていると。


「きゃあ!」


 ティナの叫び声が聞こえた。

 はっと振り返る。


 そこにはティナとシュルツ君の前にナイフを持って立つ大男の姿があった。

 完全なる不審者。

 あいつは害意をもってあそこにいる。

 頭に血が上った。考えるより先に体が飛び出す。



 駆け寄って二人の前へ。


「ユーナお姉様!?」


 ちらっと二人を見る。

 シュルツ君がティナを背に庇い、腕から血を流していた。

 シュルツ君がティナを守ったのだ。やるじゃないか。男見せたなシュルツ君。


 ファイティングポーズをとって大男を睨み付ける。

 大男が怒鳴ってきた。


「なんだてめぇは!!」

「わたくしは、天使の幸せを守る愛の騎士ですわ。復職としてキューピッドもやっております、どうぞ宜しく」

「ふざけたことぬかしやがって、ぶっ殺すぞ!!」

「ぶっ殺すなら後ろの方にいるもじゃもじゃしたやつにして下さい」

「おらあっ!!」


 大男がナイフで胸を突き刺そうとしてくる。それを仰向けに体を反らせて避ける。その姿、イナヴァウアーのごとし。

 体を反らせたまま思いっきり体をひねる、腰を回転させその勢いのまま大男の側頭部にハイキックを食らわせた。男は見事に吹っ飛び壁に激突。泡を吹いて気絶した。ふっ。他愛もない。


「ユ、ユーナお姉様?」


 後ろを振り返るとティナとシュルツ君ともじゃもじゃが口を開いて呆然としていた。

 ......。


 やっべえぇぇぇ!!

 令嬢が大男吹っ飛ばしちゃったよ!


 全力で焦りながら表情は崩さない。俺はフッと笑って言った。


「人の恋路を守るのも、淑女のたしなみですわ」


 ウインクして颯爽と身を翻す。優雅にもじゃもじゃの横を抜け、角を曲がる。

 三人から見えなくなったところで全力でダッシュした。

 汗が止まらない。



 その後、デートを終えたティナに色々と質問攻めにされたがすごく適当にごまかした。

 ティナはすごく適当にごまかされた。

 ティナは天使(アホ)だった。




 時が流れた。


 何度もパーティーを繰り返し、今日はとうとう王子達の選んだ令嬢が発表される日である。


 まずは第四王子であるシュルツ君から。


 ティナは顔面蒼白だったが俺は確信していた。

 宰相が前に出る。

 緊張の瞬間。


「第四王子シュルツ様のお相手は......ティナ・ミッドウェル!」


 ティナが呼ばれた。

 ティナはそれを聞いて泣き崩れる。


「ううううううっ! うれしい! うれしいです! ユーナお姉様!!」


 ティナが俺に抱きついてくる。

 ティナの頭を優しく撫でた。

 俺もちょっと涙目だった。

 良かったな。おめでとう、ティナ。



 緊張の瞬間も終わり、ぼうっと後の発表を聞いていた。

 だって興味ないもんよ。



 そしてとうとう最後の一人だ。



 会場が痛いほどの緊張に包まれる。

 宰相が声高らかに発表する。


「第一王子ジェラルド様のお相手は......ユーナエル・イスティニート!」





 ............えっ?









読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スピード感のある文章で、さらっと読めました。 第一王子が弟想いの設定も見ていて、微笑んでしまいました。第一王子が街に出れてしまう設定が甘いかもしれませんが、人間味を感じ私は良いと思います。…
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