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7. ハイスペックって、すごいです。(研修 二日目その3)

や、やっと書けました。しかし長い。しかもまた虫注意ですスミマセン。


 リーニスタ近くの転移魔方陣から一気に森の家まで帰ってきたら、そこにはもう神様が・・・っ!


「せせせセーフ!」

「アウトォォォ!」

 

 野球よろしく両手を左右へ払った私に向かって、同じく親指を立てたグーを突き出して、にっこり笑って宣言してくださりやがりました。


「そんなぁ!最後の鐘の『カーン』の『ン・・・』の所くらいでしたよー!」

「リーニスタでそこなら、こちらに着いた時点で正午は過ぎている。だがまあ、許容範囲ということで今回は大目に見よう」

「おありがとうございます~」


 いかん、毎回このノリが定着しつつある気がする。

 しかし神様も、若干楽しんでいらっしゃる…ような気がしないでもない。


「あっ、あの、毛布と魔法袋、ありがとうございました。ものすごく助かりました!」

「そう、それは良かった。とりあえず作業が終わるまでそのままにしておいて」

「はい」



 今日の予定は家の仕上げ。

 大体の間取りは昨日のうちに済ませてある。部屋の壁とか柱とかで、屋根を支えているからだ。

 あとは水回りと内装だが、家の中に入った私の目の前にある…これは何?


「え、棺桶?」

「似てるが違う。これは箱だ。・・・目覚めよ」

「うおっ!?」


 箱の蓋が中から持ち上げられ、ゆっくりとはずされた。

 中から現れたのは、見た目年齢不詳の女性…てか目ェ瞑ったメイド服のマネキン?怖っ!


「いや、怖くない怖くない。さあ、外見はどうするね?」

「えっ?」

「まずは髪の色」

「え、あ、じゃあ、茶色で」

「目は」

「それも茶色で」


 神様がマネキン(?)の上に手をかざし、ゆっくりと払うような仕草をすると、硬かった皮膚が人間のように柔らかくなり、彫刻のようだった髪の毛が茶色のまとめ髪に変わった。


「おお~」


 髪の毛と同じ茶色のまつ毛が震え、髪よりはやや明るめの、知性を感じさせる目が開いた。

 親しみやすい微笑みを浮かべてゆっくりと立ち上がると、彼女は長い裾を少し持ち上げ、優雅に礼をした。


「はじめまして、ご主人様」


「おお~!」

「さあ、名前を付けなさい。君のメイドゴーレムだ」


 これが噂に聞くあのっ…!と密かに感動しつつ、契約の時から考えていた名前を告げる。

 メイドゴーレムとは言っても、これからずっと一つ屋根の下で暮らす、言わば同居人なのだ。

 

「では……シンシア。シンシアと名付けます」

「シンシア|(誠実)か。うむ、いい名だ。お前の名はシンシア。その名に恥じぬ行いをせよ」

「はい。私の名はシンシア。良き名を、ありがとうございます」



 予想通り、シンシアはハイスペックだった。

 まず家事全般はもとより、狩ってきた獲物の解体までできるらしい。これは助かる。

 いかついイメージのあるゴーレムというよりは、オートマタとか超AI搭載のアンドロイドのようで、見た目が人間と変わらないのが嬉しい。

 誰もいない森の中、独りに慣れているとはいえ話し相手は欲しいものだから。

 簡単な生活魔法以外は使えないが、ここで暮らすのに十分な知識・技能を与えられているそうだ。ほんと助かる。


「さてそれでは、シンシアにも手伝ってもらって家を仕上げてしまおうか」

「「はい」」



 まずは井戸掘りから、である。


 廃屋の井戸は既に使えないため新たに井戸を掘る必要があるのだが、この家自体が人目から隠されていることを思うと、井戸も家の中に作ってしまう方がいい。

 台所や風呂などの水回りを合わせて作るとして、井戸にポンプも設置することにした。


「やはり風呂ははずせないか。日本人だねえ」

「そりゃあ、魔法で洗濯や清潔にしたりは出来ますけど、お風呂は別物ですからね。これは絶対必要です」


 わかるわかる、と神様は頷く。

 何せここは神様の保養所だから、管理人たる私にだって癒しは必要ですよ、うん。

 理解ある神様でよかったわあ。


「鉄鉱石と魔石は掘ってきたかい?」

「はい、もちろん!」

「じゃ、鉄だけ取り出して」

「はい」


 例の袋からザラザラと鉄鉱石を取り出すと、結構な量になった。


「鉄だけ~『精錬!』『インゴット製作!』」


 鉄のインゴットの山と、鉄を取り出した残土の山が出来た。


「うむ。魔法も大分使い慣れてきたようだし、鉄の量も十分だ。早速作るとしよう」

「はい!」


 獲物の解体や薬草を使った調合など、その内やることが増えるのを見越して、台所はかなり広くした。

 魔石を使った冷蔵庫やコンロも作り、シンシアが一人でも使えるようにしておく。

 井戸を掘りつつ周りを固め、錆止めしたポンプを取り付ける。汲み上げる所に洗い場も作る。

 床は土を変化させ、三和土で仕上げる。


「井戸水は『殺菌・浄化』…よし!」


 お風呂や台所の排水は、排水溝を作って一旦家の外に出して溜め、殺菌・浄化してから蒸発させる。もちろん周囲から隠した上で、だ。

 トイレだって分解とか消臭とか殺菌とか浄化とか清潔とか、とにかく臭わず衛生的に!と、細心の注意を払った。

 これには掘ってきた魔石が役に立った。

 火属性、水属性、土属性の魔石って、結構沢山採れるのよね。色々組み合わせて使えばとっても便利。

 

 水回りが一段落すると、今度は居間と寝室と書斎だ。

 書斎には私が元の世界から持ち込んだ大量の本を並べるので、位置的に見て一番奥、つまり例の回廊との接点を設ける部屋を書斎にすることになった。

 神様の保養所とこの家との位置関係を簡単に言えば、渡り廊下で母屋と離れと繋げる、みたいな感じ?

 なのでその仕上げは明日、この世界の女神様たちと一緒にするらしい。とりあえず出入口を二箇所作っておく。


 寝室は私とシンシアそれぞれの私室ということで、若干居間スペースを削ることになったが、偽装した丸窓のある壁側に作ることにした。広めの角部屋が私、その隣がシンシアの部屋。


 シンシアは最初、

「私の部屋は不要です」

 と固辞していたが、別に24時間働かせることもないし、彼女のメンテナンス・ボックス(つまりあの箱)が居間にゴロンと置いてあるのもどうかと思う、とその必要性を説いた。その内メイド服も衣替えしたいので、箪笥も作ろうと思う。


 そして私の部屋。

 下処理した材木はまだあるので、ベッドに衣装箪笥、机に椅子というお決まりの家具を作る。装飾もないシンプルなものなので、そこはもう魔法でちょちょいとね。今日買った羊毛キルトをベッドに敷き詰めて、出来上がり。

 大量の布は衣装箪笥に入れておいた。あとでシンシアに簡単なカーテンを縫ってもらおう。

 

 そうそう、窓はあるがまだガラスは嵌まっていない。

 この世界ではまだ板ガラスは貴重らしく、今日寄った店には売って無かったのだ。

 いっそ水晶でも削って、と思わないでもなかったが、居間の窓も合わせると結構な枚数になるので、また後で石英を採ってきて『加工』しようと思っている。それまで夜はとりあえず土魔法で塞いでおこう。夕べ寒かったし。


「どうだね、大体出来たかな?」

「はい。あとはもう、細かい仕上げくらいですね。窓とか…書斎の続きは明日ですし」

「そうか。なら今日はもうこれで…おっ」


 神様が『おっ』っていうくらい揺れたよ、今。

 えっ、何これ地震?


「かっ神様、地震ですか?えっ、てかこの世界も地震が」

「いや、これは違う。んん、ちょっと見てこよう」


 え、と聞き返す間もなく神様はすっと消えてしまわれた。


「どうしようシンシア。地震じゃないなら外に出ない方がいいのかな?」

「そうですね。このまま待っていた方が良いのでは?」

「そうね。なんか心当たりの有りそうな感じだったし」

「それではこの間に掃除でもしておきましょうか。床に木くずが結構ございますし」

「あ、ああそうね。ちょっとその辺片付けようか」


 空いた時間を無駄にしないとはこれまた何とハイスペック!

 いやむしろ度胸のあるゴーレムというべきか。さすが神様謹製。


「奥の書斎の方から床を掃き出してきますね。後でまとめて処分しましょう」

「うん。『消去』するにも全部まとめてからの方が一発で済むしね~」

「差し出がましいようですがご主人様、若い女性が『一発で』とはあまり良い言葉ではございません。『一度で』と仰るのがよろしいかと存じます。今後はお気を付けくださいませ」

「…ハイ、イゴキヲツケマス……」


 シンシアスペック、ハンパネェ。



 二人で掃き掃除を済ませた頃、神様が苦虫を噛み潰したようなお顔で戻ってこられた。

 いつも温厚で少々茶目っ気のあるお方なのに、珍しい。


「あ、あの、どうでした?」

「あ~うん。ちょっと中でね…まあ大したことは無かった。無かったがしかし若干影響があるかも」

「えっあの、さっぱり解りませんが」


 不意に、不愉快な羽音が聞こえた。


「え…蚊?」


 疑問形になったのは、その音が途轍もなく大きかったことと、単なる羽音というよりはまるで超音波のような、自然界にあるまじき音だったからだ。


「あの神様。なんか奥の方から音がするんですが」

「うん。やはりこっちに来ていたか」

「やはりって!なんですかあの音は耳痛い!」


 不愉快な羽音は、最早騒音レベルでどんどん近づいてくる。


「ちょっ、これなんすか?ヤバいんじゃないの?」

「まあこれも練習だと思って…うん、軽く駆除してもらおうか」

「ほわっつ!?」


 耐え難い羽音と同時に現れたのは、まさに『蚊』だった。ただし体長50㎝はあろうかという大物。


「蚊ーーーーーっ!!!」


 あんなんに血ィ吸われたら一発で貧血になるわーーー!


 血を吸われる前から真っ青になった私は急いでシンシアの持っていた箒を奪い取り、強化魔法をかけた。

 

「でえええい!死ねやああああっ!!」


 的が大きくて良かった。


 シュバッと振り回した箒の切れ味は素晴らしく、私の顔めがけて飛んできた蚊は袈裟懸けで見事細切れに…!


「はあっ、はあっ、やってやったぜ…っ!」


 達成感と爽快感でテンションMAXな私に、とても冷静な声が…


「ご主人様、落ち着かれたら箒の強化魔法を解除してくださいませ。このままでは床が切れてしまって掃けません」

「…はい、了解です」

 


 神様になんで直接魔法で駆除しなかったのかと訊かれたが、それが『蚊』だったから、としか答えられない。

 蚊は叩き潰す!というのが正しい手法な気がして。

 ただ、あのサイズともなると手じゃあ追いつかないので、とっさに『ハエ叩き』みたいなのを作ったというか何というか…ともかく余裕がなかった、の一言に尽きる。


「なので、網戸を作りたいと思います」

「網戸?」

「はい。窓と外との扉は全て網戸を入れて二重にします。主に虫除けですね。だってアレ、元は普通の蚊でしょ?」


 むむむ、と神様が眉を寄せた。

 あの巨大な蚊は、保養所に出入りする際に『他所の神様』にひっついて、何と『外宇宙』から来た奴らしい。

 そんなんがのんびり温泉気分でいた所で急に湧いて出た(=巨大化した)ものだから、ビックリしたその神様が…つまり温泉でコケてあの地震騒ぎになったとか。なんじゃそら。


「神族は転移魔方陣無しで飛べるからな…」

「いっそエアカーテンみたいなもので殺菌消毒してからお入りいただく、なんてことでは?」

「う~む…いやしかし…う~む」

「…とりあえず、ウチは網戸で対処しますから、そーゆーことでお願いします」

「網戸はこの世界には無いものだが、まあこの際しょうがないか…」


 よし許す、と言われて即行で網戸作ったよ。それもステンレス製の網戸をね。例の焼き網のためにステン鉱も採掘してたのが役に立った。いっそミスリルで作ってやろうかと思ったけど、流石にこの世界で最高レベルの武器になる鉱物を網戸に使うのもちょっと、と思い直してやめた。


「これで安心して寝られるってものよね♪」


 今度あのテが来たら網戸越しに電撃かましてやろう、と鼻歌交じりにせっせと網戸を作ってる間に、シンシアに夕餉を作ってもらう。いやほんと助かるわ~!

 そういえば今朝からまともな食事を摂ってなかったんだった。

 朝は抜きで昼はパンだけ。それも水なしで大急ぎで飲み込んだんだった。


「やっとまともなご飯にありつける~」


 パッコンパッコンと各部屋の丸窓に網戸をはめ込んで、魔法でしっかり接合部を固めてしまう。

 次は玄関…とゆーか表側の出入口は無くて台所に出入口を作ったので、この勝手口が外部との接点となる。なので特別頑丈な網戸を接合した格子戸を外側にして、内側に本来の扉を設置した二重構造にしてみた。これで壁+土の厚みも利用できたし、文字通りアリ一匹這い出る…いや這い込む隙間もないからね!

 私の中の職人魂が炸裂したかのような鬼気迫る仕事振りを、離れた所から神様はご覧になっていた。


「やはり中との間の扉にも網戸をつけるのか」

「そうですね。先程のように中から巨大生物が来ることもあるようですし(棒)」

「…まあいいか。君が落ち着いて対処出来るなら、その方がいいだろう」

「ありがとうございます。明日回廊が繋がったら、設置しますね」


 夕餉の支度が整いました、とシンシアに呼ばれていそいそと席に着いた。

 

「おお、これはまた美味しそうだね」

「じゃっ、早速、いっただっきま~」

「お二方とも、お食事の前に手を洗ってきてくださいませ」

「「……」」


 神様と私は無言で立ち上がり、大人しく手を洗いに井戸端に行った。

 手押しポンプをギッチョンギッチョンと押して、手桶に水を汲む。


「…神様、手を洗わずとも『清潔』でも良かったのでは?」

「…いや、ここは食事を作った者に敬意を払うべきだと思ってね」

「敬意って…ゴーレムですよ?それも神様がお作りになった」

「ああ、いや…うん。まあ食事時の作法だから、この方がいいだろう。君だってここに来てるじゃないか」

「それはまあ、そうなんですけど」

 

 夕食は素晴らしく美味しかった!

 どこか家庭的な味で、消化に良いように柔らかく調理されていたし、栄養のバランスも良かった。


「美味しい!美味しいよシンシア!ありがとうね」


 う~ん感激!とぱくぱく食べる私の前で、神様は静かに召し上がっていらした。…あれ?


 食事も終わり、神様はいつものように明日の予定をお話になられた。


「明日は朝…そうだね、私は9時にここに来る。女神たちは少し遅れるかもしれないが、揃ってから中の結界を見回りに行こう。中の結界に異常が無いことを確認してからこの家と回廊で繋ぐ。それからこの家の周辺に結界を施す」

「はい」

「結界を張るのは我々で行うが、今後少々の綻びは君が直すことになるので、そのやり方を覚えて実践してもらう」

「はい」

「魔力も相当使うことが予想されるので、今日は体調を整えるためにも早めに休むように。明日の朝食は」

「それは私がしっかり整えて、召し上がっていただきますので」

「シンシア」

「…うむ。では私はこれで」

「どうぞ奥様によろしくお伝えくださいませ」

「ひよっ!?」

「…うむ…お休み」


 長い裾を少し持ち上げ、優雅に礼をするシンシアを横目に見ながら神様はすっと消えてお帰りになられた。


「シンシア!シンシア、奥様って!」

「私は神様の奥様に、家事全般のプログラムをしていただきましたので」

「そうだったんだ…あ、じゃあもしかして神様がやたら静かでらしたのって」

「食事の味付けが、奥様と同じだったからかと思われます」

「なるほど~」


 そりゃびみょーだわ。確かに黙るわ。


「それにしても奥様がいらしたとは…ね、どんな方?お顔とか」

「私はこちらで目覚めたので、奥様のお顔は存じ上げません」

「あ、そっか」

「…先程は私が奥様にお礼を申し上げたかったので、あのように申しましたが」

「え?あ、うん」

「そのことで神様に何かお尋ねになるようなことは、くれぐれもなさいませんように。よろしいですね?」


 シンシアの目がきらりと光った…ように見えた。


「モチロン、ソノヨウナコトハイタシマセントモ」

「結構でございます」


 その夜、私はとても大人しく、風呂入って寝た。


 シンシアスペック・・・ハンパネェ。


お読みいただきまして、ありがとうございます。

ふと気が付くとブックマークが・・・っ!ありがとうございます!嬉しいです!

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