4. 魔石と時間は正しく使いましょう。(研修 初日その3)
3話に続いて4話も虫注意。苦手な方ごめんなさい。
ちょっと短いですが、きりのいい所まで。
山鳥の骨を土鍋から取り出し、串焼きにした鳥肉を入れ味を調え、切った野草を入れる。器は土で、スプーンとフォークは小枝から作り出して、ようやく夕食の支度が出来た。
「お待たせしました。鳥鍋と焼き鳥だけですが、どうぞ」
「十分だよ。馳走になろう」
久しぶりの肉体労働でほど良く疲労した身体に、スープの旨味が染み渡る。
「はあ~、美味しい」
せっかく料理スキルをもらったのだし、少ない食材でも美味しく出来て良かった、と思った。
何より目の前ではふはふと舌鼓を打っているのは、神様なのだから。
小さな感動に浸っていた私に、神様がふと話しかけられた。
「そう言えば、魔石はとって来たかい?」
「は?魔石ですか?いいえ。え、そんなのありました?」
「あ~、気が付いてなかったのか。ほら、狼を狩っただろう?その後魔ダニを殲滅してたじゃないか。魔ダニの魔石は一つが2mm程の小さなものだが、あれほどの数だと結構な量になるはずだよ。ギルドに売るんじゃなくて、ここでの生活魔法に使えばいい。さっきかまどにわざわざ火を熾してたから、おかしいな~と思ってたんだよね」
マは魔法のマと書いて魔ダニかーーっ!!
魔ダニって…あれ魔石出てたんかーーい!?
あんぐりと口を開けた私の心の叫びが聞こえたらしく、神様はこう仰った。
「もったいないからすぐ集めておきなさい。放っておいたら他の虫や獣が食べて魔物化するかもしれないし」
「は、はひっ、ただ今!」
即座に食事を中断して、土から大鉢を作る。
「うー、『この辺り一帯の魔石を探査。あり?…まあいいわ、ロックオン!集結!』」
ひゅううっと小さな粒が森の中の其処ここから飛んできて、カツンカツンと音を立てて大鉢の中に納まっていく。
最後にガチン、と大きな音がしたので見てみると、ひと掬いほどもある小さな赤い魔石の中に、一つだけそこそこ大きい藍色の、歪な魔石が混じっていた。
「やっぱり。一個だけ大きい光があると思ったのよね」
「うん?おや珍しい」
「藍色、というと確か…強化魔法の」
「そうだね。主に身体強化の際に、耐性をさらに強化するのに使う。魔法と物理的攻撃、状態異常に毒」
「鉱山とかでごくたまーに採れるんでしたよね?」
「そうだね」
「…そんな魔石が、なんでまたこんな処にあるんでしょう?」
指でつまんでよくよく見てみれば、石の表面が大きく欠けているのがわかった。
「変な形だと思ったら、欠けてたんだ」
「んん?ちょっと見せて」
「はい。どうぞ」
神様は藍色の魔石を手に取り、しばらくじいっと見つめておられた。
「あ、これ前任者のだわ」
もぐもぐと鳥肉を咀嚼しながら、結構すごいこと仰られた気がします、神様。
「前任者、って、ええ?」
「あの家に住んでた、君の前任者。そうだね、彼が亡くなって……もう三十年になるかな~?」
前任者は別の世界で勇者だったのだが、仲間に裏切られて非業の死を遂げたらしい。
「ま、そんなわけで極端な人嫌いになっててねえ…」
「お気の毒に」
「ただ、世界に害をなす魔物や魔獣を狩る、という仕事には納得してくれてね。それで君と同じようにこの世界に転生してもらったわけなんだ」
「なるほど。仕事熱心な方だったんですねえ」
ワーカホリックという言葉が頭の隅を掠めたが、その勇者の人となりを知らないので、口に出すのは自重する。
「ここに住むからには魔法も必要だから、十分に付与してあげたんだけどねえ」
はて、何やら風向きが変な方向に。ここから先は聞かない方がいいのか…?
「どうも裏切った仲間、というのが魔法使いだったもんで、自分で魔法を使うのも毛嫌いしちゃってねえ」
「は、はあ…」
「日常生活は常に野戦状態。この魔石だけ首飾りに加工して身に着けたっきりで魔物と戦ってて、一度結界を張ってゆっくり休め、という我々の忠告にも耳を貸さず」
「うわあ…」
「疲労困憊で魔獣化したドラゴンと戦って、ギリギリ倒したのはいいけれど…最後にその尻尾で殴り飛ばされて、運悪く結界の隙間に入ってしまって」
聞くのは怖いが聞かねばならぬ。
「どどどどどうなりました……?」
「…彼自身が魔王になって、暴れた挙句にこの世界の勇者に倒された。それが三十年前」
「あああーーなんてこった!」
「確かそのドラゴンとの戦いの最中に、首飾りの魔石が砕かれたんだった。そうか、その時の欠片がまだ残ってたんだねえ」
「…哀しい話ですね…」
「君も気を付けるんだよ?君は第二の人生をまったり過ごす気満々だから、そんな心配はないとは思うけど」
「はい。ありがとうございます」
これ、まだ使えそうだけどどうする?と聞かれて、
「頂いてもいいでしょうか?きっと使わないでしょうけど、自戒のために置いときたいです」
「そうか。じゃあ大事にしまっておきなさい」
「はい」
藍色の欠けた魔石を押し頂いて、働き過ぎないようにしよう、と思いを新たにしていると、
「今日は随分頑張ったね。明日は家の中を作り上げてしまおう。今夜はゆっくり休みなさい」
と、神様がとてもいいお声で労わってくださった。
「はい。そうします。今日は本当にありがとうございました」
謝意と敬意を込めて、ゆっくりと頭を下げた。
異世界に来て、本当に良かった…
「それで、明日のことなんだが。家具とかは自作するとして、衣類や寝具なんかの布は街で調達しないといけないんだ。金物や武器を自作するにも鉱物が必要だし、当面の食糧だって肉以外にもいるだろう?」
「は、はい?そ、そうですね」
「じゃ、明日は朝から北の鉱山で宝石と鉱石を採掘するように。それから西の街で冒険者ギルド登録をして、ついでに採掘した宝石を適宜換金すること。更に換金した金で布類や食糧を調達してここに正午に戻ってくるように。時間がないから移動はすべて魔方陣で転移。魔方陣の場所は地図で確認して。あ、食事は済ませておきなさい」
「ええええ?」
「さ、明日は忙しいから効率良く動かないと間に合わないよ?今回は特別にこれを貸してあげよう。私は一旦帰るけど、明日正午にここに来るから、くれぐれも時間厳守で頑張りたまえ。それでは、お休み」
「はあああ?」
言うだけ言うと、神様はスッと消えてしまわれた。
「ブッ、ブブ、ブラックやがなーーーーっ!おもいっきしブラックやああーーーっ!」
畏れ多くももったいなくも、神様が貸してくださった毛布と革袋を握りしめ、満天の星空に私は吠えたのだった。
お読みいただきまして、ありがとうございます。