3. 食事は狩りが基本です。(研修 初日その2)
ちまちま書いています。
研修の様子で主人公の設定を含んだ内容にしようと頑張ってはいますが、遅々として進まず。
しかも説明文っぽいのも気になる。う~ん…
内装はまだ空っぽだが、とりあえず屋根付の(土に埋もれた)家は出来たので、夕食と相成ったのだ…が。
「じゃ、夕食を頼むよ」
「私?…ですよね~」
今以上に神様の御手を煩わせるなど、言語道断である。当然ここはわたしが支度をするべきである。
が、しかし。
「あのう、食材とかは」
「うん、狩ってきて」
「狩り、ですか…そうですよね、あはは…」
「さ、練習を兼ねてやってみよう。料理スキルは付与してあるし、探査も戦闘も武器の強化もできるはずだ」
優しく微笑みながら、何気に追い詰め…いや、自然に促してこられると、やらざるを得ない。
すーはーと呼吸を整え、まずは
「『探査!』っと、え、何これっ?眩しいくらいキラキラしてる!」
「探査する対象のイメージが曖昧だったのかな?動物も植物も鉱物も反映されてるんじゃないかね?」
「った、多分そうですっ、えっと、動物を『探査!』…あ、キラキラが減りました」
「そう、それが正解。ただしその中身は動物か魔物か魔獣かはわからない。じゃ気を付けて行っておいで」
「は、はい…」
手ごろな石をいくつか拾い、エプロンのポケットに入れる。一つずつそれを撫でながら、心の中で『加速、命中、一撃必殺』と念じて石ころを強化した。
だって武器なんて一つも持ってないし!作るか買うかして武器を手に入れるまでは、当分そこらの石ころや小枝を弓矢の替りにするしかない。
第一、いきなり魔獣と近接戦闘なんてできないし!遠くから魔法で狩るのが一番だ。
探査で見えたキラキラの方向へ歩く途中で、別の探査も試してみる。
「食べられる野草を『探査』。あ、川岸に集中してる。塩を『探査』…ないか。岩塩もないわね。じゃ、調味料になる植物を『探査』。…おっと、何かわからないけど川の近くに光ってる。よし!」
探査に夢中になってて、結構森の中まで歩いてきたらしい。気づいた時は遅かった。
「囲まれてる…」
ウサギもどきか山鳥の類を1、2羽仕留めるつもりだったのに、この気配はどう控えめにみても獣の群れ。それも狼ならまだいいけれど、もしも魔獣なら。
「魔獣なら石ころじゃ効かない…かな」
使えそうな魔法を思い浮かべて、改めて周囲を探査する。
「私の周囲10m…いや、20m範囲の動物・魔物・魔獣を『探査』。その数9頭…そのまま的として『固定』する。『土よ槍となり、地中より的を貫け!』」
思わず拳を握りしめ、言葉に力が籠った。
「「ギャイイイィン!」」
複数の獣の絶叫が聞こえたが、私は範囲を広げて探査を続けた。仕留め損ないがあるかもしれない。
幸い、動くものの気配はなし。キラキラも光が鈍い色になっている。
「これは、死んだ動物ってことかな」
慎重に、武器である石を握ったまま倒した獣を確認する。
濃い灰色の毛皮の、狼に似た獣。一見して角などの魔獣らしい特徴はない。
ただし、口から毒々しい緑色の泡を吹いていなければ、だ。
「普通の狼?でもこれって」
死んだ狼の首の辺りから、もぞり、と何か黒いものが這い出してきた。陰になっててよく見えない。
「ん~、『ライト』」
光源から逃げるように、胴体だけが異様にぷっくりと膨れた黒茶色の、背に赤い筋のある虫がもぞもぞと毛皮の中を動いている。
「これって、ダニかー!ぎゃーっ!」
以前、犬を飼っていたのでマダニの怖さはよく知っている。人体にも有害だ。
「カブトムシサイズのマダニってなにー?なんでこんなんがいるのーっ?」
少し離れた別の狼の死骸からも、どうやら同じものが這い出しているようだ。
「ここは森の中だし、獣は多いし、まさか…まさか他にも…『探査』」
ゴクリと唾を飲み込みマダニをイメージして探査すると……うじゃうじゃとそこら中にチラチラと小さな点が……
「うぎゃーーーっ!『ここら一帯のマダニを的として『固定!』マダニ体内の水分を『氷結!』全て『粉砕!』」
バチバチと小さく弾ける音がして、黒茶色の虫は姿を消した。
「はぁはぁはぁ…き、気色悪かった~そ、そうだ、狼をなんとかせねば」
川岸に着くと狼の死骸を『集結』し『解体』して、念のために『清潔』にして蔓草を編んだ即席の縄でまとめておく。肉は食べられたかもしれないが、あのマダニがひっついていたと思うと…
「一応、一応このまま『状態保存』と『消臭』をしておくか。神様に尋ねてから処分してもいいし」
蕗によく似た大きな葉を『強化』して肉を包み、内臓や不要な部分は他の獣を寄せ付けないように『焼却』し、土に埋めて処分した。もちろん『消臭』は念入りに施す。
再び『探査』で野草の類を採取して、十分な量を確保した。
鳥類に絞って『探査』をかけて、漸く一羽の山鳥を石つぶてで仕留める。塩がないのは残念だが、川岸の野草にワサビに似たものがあったのでこれは使えるかも、と1株採取しておいた。土から水瓶を作り出し、川の水を汲んで『浄化』する。廃屋の井戸は、使える状態ではないのだ。
「ちょっと遅くなったかも」
まとめた獲物(主に狼)に『重量軽減』とつぶやいて、ひょいと担ぐ。野草類はエプロンで軽く包んで手に下げ、水の入った瓶の縁にその手を置いた。目を閉じて『廃屋』が見える草地を強くイメージする。
これは、失敗のできないものだから。
「『瞬身』」
次の瞬間、私は元の場所にいた。
目の前には満足そうな笑顔の神様がいらっしゃる。
「お帰り。成果は上々のようだね」
ほんの一時間足らずで、狩りや採取に必要な魔法の習熟と魔獣(魔虫?)の駆除が出来たのだ。近距離の転移である『瞬身』も問題なく出来た。
「夕食、すぐ作りますね。塩がないので味の方は保証致しかねますが」
「あ、塩と胡椒は持ってきたから。街で手に入れるまではこれを使うといい」
「やったー♪ありがとうございます!」
土から二口のかまどと土鍋を作り水を入れ、解体した山鳥の骨で出汁をとる。
まな板代わりの土で作った大皿で、一口大に鳥肉を切る。包丁もナイフもないので全て魔法でやる。
切った鳥肉には塩胡椒で下味をつける。
「あ、焼き網が無いか。焼いてから鍋に入れたいし…小枝で串焼きにするかな」
「焼き網か。ナイフもそうだが、自分で作るのもいいね。『探査』の網を広げて鉱山を探せばいいよ」
焼き網だけに、と口の中で親父ギャグを呟いてクックッと笑う神様は、いつの間に手にしたのか大ジョッキで生ビールを飲んでる…ってどゆこと?
「神様!なんでビールがあるんですか?」
グイッとジョッキを傾けて、ふう、と息をつく神様。
「さっき、中からとって来たんだよ。仕事の後はこれに限るね~」
「中って…保養所ですか?ビールあるんですか!わたしも飲みたいです!ビール♪ビール♪」
「残念だが人は入れないからね~こっちにある似たようなものなら作れるはずだよ?頑張ってみる?」
「…この世界だとエール、とかワインとかでしょうか?」
「そうだね。あとはミードくらいかな?」
「うう…残念ですがまたにします」
仕方なく土製コップに水を入れ、せめてもと氷を作って冷たくした。ごきゅごきゅ飲む。
「はー、生き返る!異世界だけに、ってかぁ~?」
悔しいので親父ギャグで返しておいた。
読んでいただきまして、ありがとうございます。