2. 異世界に家を、造りましょう。(研修 初日その1))
研修中の事を書いていきます。
何事も練習が大事です。
そんなわけで。神様に連れられて異世界に、やってきたのはいいけれど。
「な、なんじゃこりゃあっ!」
「あーははは、ひどいでしょ?そりゃないよね~」
ここが君の住む場所だよ、と言われてウキウキわくわくと見てみたら。
「…草茫々でよくわかりませんが、もしかしてもしかすると…あの廃屋らしきものが…?」
「うんそう。あれが君の家」
「あんまりやないですか~!」
がっくりきてその場にへたりこんだ私に、ニコニコと笑顔で神様はこう言われた。
「さ、じゃあ早速魔法で家を建ててみようか!」
「いきなり実践ですか…」
「転移点はあの裏山の中腹辺り。君の家とは次元回廊で繋ぐことになる。だからどんな家でも好きなように、と言いたいところだけど、知ってのとおりここは人里を離れた森の中。当然魔獣も出るから出来るだけ頑丈なのがいいね。それにうっかり冒険者なんかに見つからないよう、わかりにくい見た目ならなおいいね」
神様の指差すあたりを見てみればそれはなんてことのない普通の山のようで、魔力を十分に付けて貰った今の私だからこそ、中腹辺りにぼんやりと魔力スポットがあるのがわかる。
それにしても、そもそもここがこの世界のどの辺かすらわからんのですが。
えっなに自分で調べてみろと?さいですか。
「ええっと、『地図』よ!」
音もなく、私たちの前にファンタジーな地図の描かれた羊皮紙が現れる。どっちが北かもわからない。
「もっとしっかりイメージしなさい。そのうち無詠唱で出来るようになるから」
「はい。『現在地を中心に東西南北を明記。近隣の国の、領主の治める街までを表せ』」
羊皮紙の中の地図が変化する。北を示す見慣れた矢印と、地図のほとんどを占める森林の西の端に点々と小さな村らしきものと、街道の伸びた先に街と城の絵が浮かび上がった。東の端にも似たような絵があったが、そちらは村ではなく砦のような絵が二箇所に、地図の端ぎりぎりの所に街と城の絵があった。ご丁寧にも西の城とは形が違う。
「うん。なかなかいいね」
「ありがとうございます」
現在地の南側には森の切れ目にいくつかの山があり、それを抜けると荒地が広がっている。北側には森と山脈とわずかに海が描かれていた。
「『スクロール』」
手を当てて上下左右にずらすようにすると、地図の続きが現れた。
「ふむ。上手いね」
ふと思いついてスマホの応用をしてみると意外とうまくいったので、元の地図に戻してから次も試す。
「『拡大』」
地図上の『現在地』を、親指と人差し指で開くようにすると、思い通りに周辺の拡大図が表示された。
「よし、大変結構。元の世界の技術と知識を活かしているのがいいね」
「はい、うまくいって良かったです」
見易い大きさに拡大すると、近くに細い川があるらしい。これだけ深い森なのだから、水も十分にあるのだろう。
「ここは気候はどうなのですか?雨が多いとか…」
「雨はまあ普通だな。北の山脈には雪が多いし、雪解け水で地下水は十分に確保されている。大雨で川が氾濫したとしても、ここには影響がないだろう。洪水の心配はない」
「そうですか。それなら多少土を掘っても大丈夫でしょうか?」
「ん?地下にでも住むのかね?」
「いえ、あの…」
いかにイメージを強く、とはいえ建築は素人なのでリフォームの参考にするために何冊か本を持ってきたのだ。
あらかじめ付箋を付けていた頁を開いて、
「こんな家はどうでしょうか?」
と、ある有名な映画のパンフレットを見ていただく。
「成程…これか」
「これなら森の中でも目立ちませんし、偽装もしやすいと思います。万が一『地図』のような魔法を使われても、廃屋をダミーにすれば」
「君、面白いこと考えるね~」
実は自分が住んでみたかったのもある。異世界ならアリかと思って。えへへ。
「ちょっと窮屈じゃないかね?」
「それは作るときにサイズを大きくすればいいかと。窓や出入口はこの辺りの植生で覆うようにしたり、屋根も明るい芝生ではなく丘の斜面と同じにすればよいと思います」
神様はしばらく廃屋と裏山とパンフレットを見比べていらした。
「うん。うん、いいかも。これなら裏山の一部に見えるだろう。回廊も隠しやすいし結界も張りやすい」
「よろしいでしょうか?」
「うん、これでいこう。この世界の者はこのような家には住んでいないからな。好都合だ」
…どうやらこの世界にも小さき人はいるらしい。
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贅沢にも神様にレクチャーを受けつつ、私は『家』を造っていった。
木材は森の中にいくらでもあるし、土台や土止めの石も全て近場で切り出す。もちろん私の魔法で。
「木は伐ったあと切り株を腐らせておきなさい。自然に倒れたように見せるんだ。木材は乾燥させて。石の切り出し跡も表面をそのままにしてはいけない。少し凸凹にして土を乗せ、植物を這わせておくのだ」
覚えたての魔法で家を一軒、それもかなり特殊なものを建てる…いや、造るのは大変だった。
でも『後で一人で直す』のはまだ自信がないし、せっかく神様が教えてくださるのだから、ありがたいことだ。
何度か失敗した後に漸く家の外側が出来たところで、裏山と繋いで土で覆う。
「蔓性の植物は成長が早いから、家を傷めないようにできるだけ使わずにおこう。浅く広く根を張る草を何種類か混ぜて…灌木は家の土台に沿って、真っ直ぐに見えないように植える。花や果樹を植えられないのが残念だが、川岸にベリー類があったはずだ。森の中には食べられる木の実もあるし、薬草も多い。自分で薬を造るもよし、素材としてギルドに売るのもいいだろう。地図にあった西の街なら…」
有用な知識や助言は、メモを取らずともそのまま私の知識として蓄積されるようで、すんなりと頭に入ってくる。
この世界『セラベルス』は、地球の歴史で言えば中世くらいの生活が営まれているらしい。
魔法が使えるという点で現代よりはるかに進んでいる面と、魔物や魔獣が棲息しているため土地の開墾や開発が思うように出来ないという面があり、そういった特殊な環境に対応するため政治は王政で、宗教は世界共通になっている。
この世界では王権は神様に与えられたもの、だそうだ。
ただし、暗愚な王やあまりにも独裁的な恐怖政治が続くようであれば、王朝交代---つまり革命が許されていたりする。そのあとに民主的な政権は出来ず、新たな王朝が始まるのであるが。
宗教は一神教ではない。なぜなら、この世界の神様は姉妹神だから。
姉神べルラスと妹神セラスが力を合わせてこの世界を創り、植物や動物を創った後に人族・小人族・獣人族・海人族を創り、その数がある程度増えて文明と言える状態まで進んだ時にそれぞれの人々の前に顕現して、しかるべき人物に王権を与えたそうだ。
「あとで女神たちを紹介しよう。結界を張るのを手伝ってもらうことになってるからね」
「は、はいっ!」
うう~む、女神様か。きっと絶世の美貌とか神秘的な雰囲気とか、温かでお優しいご性質の、麗しのご姉妹に違いない。一部テンプレのワガママ女神でないことを祈るっ!
「…うん、我が儘ではない…と思うよ。綺麗だし。まあ、そう気負わないことだね」
神様にバレてました。
「はい…」
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