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19. オークション! 因果は巡るよどこまでも。

大変遅くなりました。誠に申し訳・・・っ(滝汗)

いよいよオークション本番でございます……がっ!

話は予期せぬ方向へ?


 客席のざわつきが徐々におさまってきた。

 緞帳の向こう側で、開催を告げるセリュースさんの声がする。

 しずしずと重い緞帳が巻き上げられると、ほおおお…と溜息の混じったどよめきが押し寄せ出来た。

 なんでかっていうと、超デカい毛皮の端っこが舞台後方の幕で隠しきれずにはみ出ているからだな~。

 チラ見せというよりは存在感アリアリなあれは、副マス辺りが狙ってやらせたに違いない。あの人結構腹黒そうだもんね。




 今私は、舞台袖に近い場所に座って、小さな覗き窓から客席を見ている。客席からこちらは見えないけど舞台の様子もよく見えるので気分は特等席だ。


 本来のS席…というか最前列には、公爵夫人や辺境伯、それに名前は知らないがどう見ても貴族にしか見えないオッサンたちが座っている。あの侍女さん(アンヌマリーと呼ばれてた)やお付きの人はその後ろに。買い付けに来たらしい商人たちはもう少し後ろに座っている。貴族列の近くにいるのは御用商人っぽい。『儲かってます』って顔してる。見物の一般客?は遥か後方の…さしずめA席だな。

 数は少ないが貴賓席もあるので(特に公爵夫人は)そちらにご案内したいところだが、オークションにかけられるものは宝石も多く、間近で確かめたいと言われては断ることも出来なかった、とニトーキンさんが苦笑いしてた。


 本来、オークションの出品物の内の小さいもの(宝石とか)や細工の細かいものなどは事前に見ることが出来るしそのための時間も設けられるんだけど、今日はホラあの事故とか…があったから、その時間が潰れちゃってぶっつけ本番になったんだと。そんなんで買い手がつくのか、ちょっと心配。


 目玉の宝石と大山猫関連の出番は最後の方なので、今は主に商業ギルドの手工芸品が紹介されている。

 名人が織り上げた絹織物、精緻の極みといった刺繍やレースなど素晴らしい一点物がどれも高値で競り落とされていく。買い手は商人のようで、いずれそれらは貴族の夫人や令嬢の身を飾るドレスになるのだろう。

 いいな~とは思うが競り落とされた値段を聞くと『メダマドコー?』だったので、そんな世界の住人である公爵夫人の申し出を断って正解だったと改めて胸を撫で下ろした。


 その後は、鍛冶で名高い小人国の名工の作という切れ味の良さそうな長剣や、逆に『そんなモンで何が切れますのん?』という目一杯ゴテゴテと飾り立てたサーベルっぽいのが紹介された。鞘もすんごい派手だ。

 面白いのは、よく切れそうな長剣の時には辺境伯とお付きの騎士や従士、それに警護の冒険者たちが身をのり出して食い入るように見てたのに、お飾り…あ~、えっと、豪華なサーベルには他の貴族の人たちがめっちゃ反応してたってこと。

 公爵夫人はその様子を横目で見て、やれやれと言う風に微かに頭を振ってた。

 女子(じょし)にはわからん世界ですよ!と言いたげな辺境伯のカオが面白かった。〇〇プラか!


 エバンジェリンさんの解説によると、武器の(たぐい)は商業ギルドではなく辺境伯による出品だそうだ。


 長年魔獣に悩まされているミヌレーデ辺境伯領は、小人国の一都市オプティマハルトと友誼を結ぶことにより優先的に魔獣との戦いに耐え得る武器を良心的な価格で購入することが出来た。

 しかし30年前に突然魔王が現れたため、棲み処を追われた獰猛な魔獣が辺境伯領に押し寄せて、その討伐に兵士や冒険者が大勢駆り出され、人的にも財政的にも大打撃を受けた。魔王が勇者に倒されたあと王家と国から補助金が出されて一息つけたとはいえ、未だ財政的に厳しいことに変わりはない。


「魔獣の群れを何とか森に追い返したものの、深手を負ったのがもとで先代の辺境伯が亡くなり、後を継いだのが当時7歳の嫡子エルネスト・ボーモン様です。古参の家臣数人と荒れ果てた領内を立て直そうと色々手を尽くされたのですが上手くいかなくて。それを見かねて先のご領主と親しかったオプティマハルトの鍛冶ギルドマスターが、『剣の競り市を開いて、収益は御家(おいえ)の利益としなされ。なあに、弟子共の修行にもなりますでな。良い剣を鍛えさせましょう』とありがたいお申し出をくださいましたのがこのオークションの始まりです」


 …耳と胸が痛い。きっと私今、しょっぱい顔してる。


「よく解りました。でも詳しいんですね、エバンジェリンさん」

「魔獣と戦ったのは私の親世代ですから。良く聞かされました」

「そうだったんだ…」

「ええ」


 前任者が魔王になりさえしなければ、と言ってももうどうにもならないし、過去は変わらない。

 私ももっと気をつけよう。まかり間違って魔王になんかならないように。


 あと、この街のためにはもっと積極的に魔獣を狩ったほうがいいのかなあ?でもそれじゃ冒険者(ハンター)の皆さんの商売の邪魔をするわけだしなぁ…どうしたもんかねえ。



 

 舞台(ステージ)では、黒い天鵞絨(びろうど)を被せた台の上に魔石や宝石の入った小箱が並べられ、セリュースさんがやや緊張した面持ちでひとつ目の箱の蓋を開けた。


 あれ?客席がざわざわしている。まだ宝石は見せていないのに…?


 劇場の入口で、誰かが警護の冒険者(ハンター)と揉めている。



「ご領主様!魔獣です!魔獣の群れが西門に迫っております!」

「何だと!?」


 入口の警護に当たっていた冒険者が、しらせ(・・・)をもたらした男に付いて来た。

 男は西門勤務の兵士の一人で、ここまで馬を飛ばして来たらしい。


「詳しく申せ」

「ははっ!本日は早朝より鳥の声も無く、やけに静かだと同僚と話しておりました。もしや何かの魔獣が現れたのではないかと斥候を二名、様子見に放ちますと…」


 兵士がゴクリと唾を飲み込む。

 しん、と静まり返った劇場内に、その音は異様に響いた。


「魔獣化した猪の群れが、こちらに向かっていると。その数100頭以上!」

「何!?」

「ひゃ、100頭以上…」


 場内のあちこちで、驚きと恐怖の声が上がる。


「林の奥の方まで続いていたのでもっといるかもしれません。すぐに取って返して門を塞ぎ、弓矢で応戦の構えをとっておりますが何分数が多く、常勤の兵士だけでは到底」

「解った。即刻増員を向かわせよう。弓矢と槍も持たせる。アロイス!」

「御前に」

「即刻手配せよ。万一に備えて第二陣は重装で向かわせよ」

「ははっ!」


 進み出て跪いた壮年の従士が、ご領主の命を受けてぱっと駆け出して行った。


「ご領主、我らも参りましょう。幸いここには腕に覚えのある冒険者(ハンター)が揃っております。魔獣狩りも慣れたもの。必ずやお役に立ちますぞ!」

「助かる、ニトーキン」

「皆、聞いたな?今こそ冒険者の本領を発揮する時だ!猪どもを狩って狩って狩り尽くせ!!」

「「「「「「おおーーーーっ!!」」」」」」


 あれよあれよという間に魔獣退治の段取りが出来上がったんだけど。

 あっ、副マスが箱の蓋閉めてる!まさかオークションは中止になるの?いや優先順位は判るけどそんな殺生な!

 トパーズと山猫はどうすんのー!?


「お待ちあれ辺境伯」

「公爵夫人。仰りたいことはよっく存じておりますが、何分火急の折なれば」

「その火急の折なればこそ、じゃ。それ、この場には頼りになる者がもう一名おるであろう」


 うっかりと舞台の端に出ていた私を、公爵夫人の扇が指し示す。


「そうでした!かの者が居りましたな!」



 あっ、なんか変な風向きに。



「シルヴァイラさん」

「何でしょうエバンジェリンさん」


 美女がマジ顔になるとめっちゃ迫力ある。


「解ってます。貴女に指名依頼は回さない、と私たちは約束しました。それでもお願いします、今は協力してください!もし万が一、門を突破されたら…住民にとんでもない被害が…お願いします!」

「あ~、あの…えっと…」


 切々と訴える美女。それを見つめるギャラリー…って、断れませんがな!ここで断ったら私ひとでなし(・・・・・)やがな!


「あの…はい。行きます。非常事態ですし」

「本当ですか!?ありがとうございます!!」

「ただ私、西門には行ったことなくて。それに普段一人でやってますんで、その、組織的な行動ってのがちょっとよく判らないんですよね。皆さんに迷惑かけるんじゃないかと」

「その心配なら不要だ」


 ぬうっと巨体が割り込むとびっくりしますがなギルマス!


「西門は遠い。君は彼の馬に同乗して現地へ行ってくれ。紹介しよう、『暁の勇士たち』のリーダー、レナルドだ。大人数での狩りにも、西門付近の地理にも詳しい。彼と一緒にいれば大丈夫だ」


 あらま、エバンジェリンさん狙いの人だ。

 金茶色の髪の男前。背も高いしガタイもいい。それに多分、凄く強い。腰の剣は飾りじゃないぜ、って感じ。


「あの、シルヴァイラです。よろしくお願いします」

「ああ、レナルドだ。よろしくな」

「レナルド、シルヴァイラさんをお願いね」

「心配するなエバンジェリン。任せとけ」


 思ったほど空気は甘くないので、鋭意努力してくださいねレナルドさん!


「シルヴァイラさん、お願いしといて何ですけど、魔力はどうですか?事故の時にかなり使ってらしたでしょう?」


 そうね、まあ使ったといえば使ったな。特にあの女の子の時に。


「まあなんとかなる、と思います。でも怪我人はポーションでお願いしたいかな」

「わかりました。すぐ手配します」

「ありがとう。それじゃ、行ってきますね…あっ、エバンジェリンさん、ちょっと」

「はい?何でしょう?」

「いいからちょっと」


 エバンジェリンさんの腕を引いて、レナルドさんの側から離れて物陰に。


「あの~、こんな時にナンですが、オークションはこのあとどうなるんでしょう?」

「ああ…そうですね、魔獣の群れが出ましたから、念のためお客様方も今夜はリーニスタかご領主の館へお泊りになるでしょう。魔獣が出たのが西門だけかどうか、はっきりしませんので」

「あっそうか。そうですよね危ないですよね、それでオークションは」

「もちろん西門が突破されるようなら、お客様と領民をすぐに南門から隣の侯爵領まで逃がして、残った人たちで戦うだけですわ。だから魔獣を殲滅するか、うんと数を減らして森の奥へ追いやるしかないんです。頑張ってくださいね」

「解りました。それでオークションは」

「そうですね…今夜中に決着が付けば、なんとか明日には開催出来ると思います。皆さん手ぶらでは帰れませんでしょうし、特に公爵夫人はね。万一中止になれば、お客様と直接交渉するか通常販売に切り替えるか…いずれにしても売値は下がるでしょうね、残念ですが。あ、でも大山猫はきっと引く手あまたですから大丈夫ですよ!」


 慰めのつもりか、軽く肩を叩かれたんだけど。

 売値が下がる…だと?おのれ許せん…魔獣め…!


「解りました。今夜中になんとかします。猪ですよね?フッ、皆殺しにして季節外れの牡丹鍋にしてやらぁ!」

「えっ?シルヴァイラさん!?」


 後ろでエバンジェリンさんが何か言ってたが、私はさっさとレナルドさんの所へ戻った。


「お待たせしました。行きましょう!」

「お、おう…えらく張り切ってんな。じゃあ皆の準備も済んだようだし、出発するか!」


「「「「「おう!!」」」」」

 




 待ってろよ、魔獣ども。ふふふ…フフフハハ、フハハハハハハ!

 

お読みいただきましてありがとうございます。

感想(←きゃー!)、ブックマーク、ありがとうございます!


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