16. オークション!…初っ端からなんやねん。
ようやくオークション当日。長いので分けます。
これから新キャラが結構出てくる予定です。
サブタイトル変更しました。(その1)→…初っ端からなんやねん。です。
(見られている……)
リーニスタの城門をくぐる時、立ち番の兵士からガン見された。それだけじゃなくて、指でさされてひそひそされた。何コレすごいショックやん。
(なんか私、知らん間ぁにヒソヒソされるよーなことしとったん?)
その視線が憎々しげであったり、汚い物を見る目つきではなかったことだけは救いだったが、こうなると嫌な予感しかしない。
(さっさとギルドに行こう。オークションもどんなもんか見たかったけど、場合によっちゃあ直ぐ帰った方が良さそうな気がするわ)
後ろからさわさわと広がる声には聞こえないふりを通して、足早にギルドへと向かった。
******
「…おはようございま~、す…」
出来るだけ音がしないようにそーっと扉を開けて、小声でこっそり挨拶をしたのに。
ざざあっ、と大勢の顔がこっちを向いた…あっこれヤバいやつだ。
「こんな小娘があれを?」
「おい、さっさとお前の自慢の顔で声かけてこい。他の奴らに抜け駆けされてんじゃねえぞ!」
「あ~、花か甘いモノでも買ってくるんだったな~。きっかけがな~」
「ちっ、ギルマスにちょっと言われただけでもう腰が引けてやがるのか」
むさい髭面のおっさん冒険者が、蜂蜜色の前髪を指でいじっているややイケメン(とギリギリ言えなくもない)を肘で小突いている。
壁にもたれて横目でチラチラ見てるのは、妙齢(をちょっと過ぎたあたり)の女ばかりのパーティのよう。
「あら、どんな山猿かと思ったら、意外と可愛い顔してるじゃないの」
「魔法が使えるんでしょ?うちのパーティに入ってくれないかしら」
「だめよ、ギルマスから睨まれちゃうじゃない」
「それは野郎共のパーティでしょ、ウチなら女ばっかりだからその点は安全よ」
「でもほらベアトリス姐さんからも念押しされたしさ」
「「「うう~、でも欲しい~、即戦力~!」」」
あっ、バレたんだ。
「おはようございます、シルヴァイラさん」
「あっ、おっ、おはようございます、エバンジェリンさん。あの…」
「ええ、わかってます。どうぞこちらへ、ギルマスもお待ちですから」
「あ、そそそうですか。ではでは、あの、ちょっと前を失礼して…」
はいごめんなさいよちょっとすんません、と手刀で切り分けヘコヘコしながら冒険者たちの前を横切って、カウンターの奥へと逃げるように入っていった。視線が突き刺さるよ~。
しっかし小娘だの山猿だの好き勝手に言ってくれちゃって…だ~れがアンタたちのパーティなんかに入るもんですか!あーむかつく。
「ふい~」
「ごめんなさいね、バレちゃって」
「あ~まあ、時間の問題でしたし…でも城門入る時からもうガン見されてたんで、一体何事かと」
「あらまあ…」
「やっぱ山猫ですか」
だって私の目の前に『幻の魔眼大山猫入る!毛皮も肉もございます!乞うご期待!!』って手描きのポスターらしきものがあるんだもん。なんだその化け猫みたいな絵は。
「はっはっは!いや~、スマンスマン。最初は例のトパーズでいこうと思ってたんだが、山猫の方がインパクトがあるからと急遽変更になってな」
「全くですよ。もう少し早ければ、良い宣伝ができたものを」
丸い片眼鏡の、初老の紳士が『あ~、もったいない』と溜息をついた……誰?
「おっと、彼とは初めてだったな。紹介しよう、副ギルドマスターのセリュースだ」
「はじめまして、セリュースと申します。この度は素晴らしい品々をありがとうございます」
「はじめまして、シルヴァイラです。お褒めいただきまして、恐縮です」
握手の習慣はないので、互いに軽い会釈をする。
「えっとそれでその、宣伝というのは?」
「副マスターは王都にオークションの案内に行ってらしたんですよ。そう、初めてシルヴァイラさんがここへ来た日にはもう出発した後で。慌てて早馬で追いかけて、現物を渡して派手に宣伝してもらったんです」
「現物って、あのトパーズですか?」
「あのトパーズです」
エバンジェリンさんが微笑む。
「我が国の王杓には、それは見事なトパーズが嵌まっておるのですが、お預かりしたあのトパーズの方が色も大きさも勝っているそうでしてね。お見せしたのは王都の名高い宝石商なんですが、王室御用達なものでその王杓も見たことがあるらしく、顔色が変わっていましたよ。…あれは、来ますねえ……」
黒い。笑顔が黒いよセリュースさん。
「ほう。やはりこっちの方が大きかったか。もしかすると、とは思っていたが」
「ご慧眼ですな。まあそんなわけで、宝石商はもちろんですが、王家の代理人と同道されるやもしれません。あれをそこらの貴族家に買わせるわけにはいかんでしょう。オークションの目玉としては十分だと思っていたのですが」
「大山猫が、な」
「魔眼も無傷だそうで。私は初めてですよ、あれを見たのは!いや凄いものですな。大人の握り拳より大きな目玉、捻じれた長い角。それにあの毛皮…ここ数年で一番じゃないですか?」
「肉も美味かった」
「あっそうでした、肉!お肉持ってきたんですけど」
「おおそうだった、特別に保存用の魔道具を借りたんだった。そろそろ会場へ行くとしようか」
「あっそれとその、例のポーションも、持ってきたんですけど」
立ち上がりかけたニトーキンさんが、どかりと座りなおした。
「セリュース、ドアの外を見てきてくれ」
「はい」
セリュースさんがそっと外を確認し、指でOKのサインを寄越す。あっ、こっちも同じなんだ。
「それで、どうだった…?」
「これです」
私が魔法袋持ちだというのはもうバレバレなんだが、一応ローブの裏に手を突っ込んでポーションの小瓶を2本取り出した。
「見てもらえます?自信ありますけど」
「ふむっ、エバ!」
「ええはい、はうっ…これは…!」
「何と言う色!それに透明感が素晴らしい」
「シルヴァイラさん、ぜひ!これはぜひギルドで扱わさせていただきます!」
「そうですか!よかったわ~」
「一本銀貨20枚でいいですか?」
「アカンやろ!あっ、いやそのそりゃダメでしょエバンジェリンさん。それじゃ薬剤師ギルドと同じ値段じゃないですか」
「そ、そうですわね、この品質であっちと同じじゃ申し訳ないですね…じゃあ銀貨30枚でどうで」
「だから違うから!良い品をより安くしてこそじゃないですか!一本銀貨5枚でいいです」
「「「ええっ!?」」」
「だってここ5年で倍の値段になったって言ってたでしょ?なら元の値段に戻せばいいのよ。銀貨5枚で卸しますからギルドで銀貨10枚で売ってくださいな」
そう言うと、ギルマスが真面目な顔で話に割り込んできた。
「シルヴァイラ、それはいかん。いくらなんでも安過ぎる。薬剤師ギルドから闇討ちされるぞ!大体ギルドの儲けは3割までと決まっているし、せめて銀貨12枚は受け取ってくれ。それをうちは銀貨15枚で売ろう。それだけでも随分助かる」
「ええ~、でも」
「なっ、頼む。このポーションがあるだけで冒険者の命が助かるんだ。製作者の君の身が危うくなるようなことがあっては何にもならん」
そんな風に懇願されたら…ちょっと感動しちゃうし、頼りにされてて嬉しい。
「あ~そんなの襲ってきたら瞬殺しますけど…まあじゃそれでいいです。今日は何本いりますか?」
「「「えっ?」」」
「あの、何本も…あるんですか?」
「ええっと、100本ならすぐ出せますけど」
「「「100本!?」」」
そう、昨日までずっと素材採取とポーション作成と管理人のお仕事のローテで頑張った。ポーションを小分けする小瓶も足りなくなって、珪砂やコルク(によく似た木の皮)も採ってきて小瓶から作ったりして、結構忙しかったんだよね。だってせっかくギルドに卸すのに、少ししかなかったら皆が買えないでしょ?
「いや~、頑張ったんですけどね。材料も一度に取ったらダメなんで、まあこれからひと夏で300本ほどは作れると思いますが、それが限界かも」
「十分です!凄いわシルヴァイラさん!」
てなわけで、一本につき銀貨12枚の契約書を交わした後に残り98本をずらりと並べて、銀貨1200枚…は流石に量としてどうかと思い、金貨11枚と銀貨100枚でお買い上げいただいたのであった。
「それにしても、よく見ただけであれが効くってわかりましたね~?」
「あら…実は私『鑑定眼』持ちなんです。内緒ですよ?」
そうだったのか。エバンジェリンさんの目が時々キラキラして見えたのは錯覚じゃなかったんだ。
「初めてここにいらした時だって、シルヴァイラさんが嘘をついてないのが判りましたから、この部屋へお通ししたんですよ。何せ、色んな『冒険者』が来ますからね」
なるほど納得。一文無しのくせに換金できるブツがある、なんて胡散臭いことこの上ないもんね。
フザケンナ案件だったかもしれないのを、エバンジェリンさんの鑑定眼で助けられたのか。
「本当にシルヴァイラさんが来てくださって良かったわ。もうこのままずっとリーニスタ支部にいてくださいね!」
「えっ?あっハイ。そのつもりですからよろしく~」
なんてことない会話だったんだけど、ギルマスと副マスが笑顔でハイタッチしてた。おっさん同士だと絵面が濃いことこの上ないな~。
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